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青春はプールの中で8-5 - 03/31 Thu

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「うん?どゆこと?流ちゃんもしかして鍵失くしたとか?カッキーは?もうバイト行っちゃった?バイト先行ってみれば」
「・・・っつーか・・・」

柚木が言い辛そうにしているのを見て隣を「おつかれさまーっす」と通り過ぎていく但馬のマフラーの端を掴む

「なんすか・・・」
「但馬!今日暇だよね?バイトない日だよね?」
「まぁ、そうですけど・・・」
「よし!流ちゃん、但馬ん家行こうー?」
「・・・」

但馬は目の前にいるのが柚木だと理解すると戸惑いながらも「狭いですけど」と了承した





「ね、流ちゃん!但馬のコーヒー美味しいよ?お砂糖入れる?」
「ん・・・」
「ねぇ、流ちゃんどしたの?」
「・・・あー・・・なんつーかちょっと心折れたっつーか」
「うん?」

柚木はコーヒーを啜ると「美味い」と呟いてため息を漏らす

「柿内になんかあったー?」
「え・・・えっと・・・」
「あー、マジか・・・いや、いいんだけど・・・仕方ねぇと思うし・・・でも無視することねぇだろっつー・・・」
「え?無視?」

柚木は頷く。柿内を少しでも早く驚かせたくてトランクを引いたまま柿内の大学の門の前で待っていた。そして柿内を見つけたのに柿内は・・・

「目合ったのに気付いたのに無視して逃げられた。ムカついたから走って追いかけようと思ったけどなんか途中で心折れた」

新井が柚木の頭を撫でる

「ずっとほっといたオレが悪いけど無視・・・キツい」
「・・・ほら、ここでやっと新井さんの出番すよ」
「うん?!何?」
「いや、力になるのはできるでしょ。あーっと、柚木さん、オレ1年の但馬です。今更な自己紹介ですけど」
「あー、悪い。急に押しかけて。んで悪いついでに今晩泊めてくれると嬉しいっつーか」
「んー、帰りましょう」

新井が但馬の胸を叩く

「流ちゃん心折れたっつってんのに何!」
「いや、泊めるのは別にいいんだけどずっと帰らないわけにもいかないっしょ」
「あー・・・そっか・・・じゃあオレカッキー家にいるか電話してみようか」
「多分バイト・・・大学行く前に家も1回帰ったけどもう誰もいないしオレの部屋鍵掛かって開かねぇし」
「・・・」
「何なの?何でオレは自分の部屋にも入れねぇの?」

新井は柚木の手を握る
そう。あの部屋は誰も入れないための柿内の聖域

「流ちゃん、カッキーは絶対流ちゃん好きだよ!」
「あ?」
「カッキーは絶対に絶対に流ちゃんだけ好き!」
「・・・いや、あー知ってるけど?」
「ね、カッキーのバイト終わる頃部屋押しかけよう!んでカッキーにオレがお説教するっ!浮気とかない!心変わりとかないっ!」
「んー?何?浮気?」

但馬は「バカ」と小さく呟くと口を開く

「柚木さんはメシ食いました?」
「あ、1回は食べた」
「いや、1回はとかなんかよくわからない返答だな・・・」
「あのねーあのねー!流ちゃんすっごい食べる!オレの3倍食べる!」
「・・・それ物理的におかしいよな?あんたも2人前は軽く食っちまうっつーのにこの細い体に3倍とか入るわけなくね?」
「でもホントだよ!」
「・・・っつか・・・メシとか言うなよ・・・オレホントに柿内のメシやっと食えるって楽しみにしてたのにまだおあずけくらってキツいのまた思い出した・・・あー心折れる」
「え!それ?!1番のダメージそれ?!」

新井が驚くのを不思議な顔で柚木は見上げる

「だって柿内はもし別れたって柿内だし」
「・・・あー・・・もぉぉぉぉ!!!!そういうところホント羨ましい!カッキーとの関係羨ましいっ!!!そんなこと言っても流ちゃんそもそも別れる気もないっての知ってるけどっ!オレも早くちゃんとした彼氏欲しいっ!」
「あれ?こいつ彼氏じゃないの?」
「えー?但馬がー?但馬はねー・・・但馬はぁ・・・ん?但馬ってなんでオレとこんなにも一緒にいるの?」
「あんたが勝手についてくるんでしょうが!・・・いや、そうじゃなくて柚木さんメシ作りますけど、食いますよね・・・」
「あ、食う!」

意外に元気じゃないかと但馬は安心しながら2人に背を向けてキッチンに立つ

「あいつ、彼氏じゃねぇんだ?」
「えー!だってノンケだし?オレ、ノンケ興味ない」
「江口だってノンケだろーが」
「・・・それもそうだ」

新井が笑うのを見て、日本に戻って来たことを改めて実感する。でも、想像した帰国とは全然違う。隣にいるのは新井じゃなくて柿内で・・・但馬が料理するのではなく柿内が料理をして・・・あんな無視する柿内じゃなくて「おかえり」と他では見せない優しい柿内・・・

「で、お前柿内の何知ってんの?」
「え?」
「浮気がどうのーっつってたじゃん」
「・・・こないだね、カッキーが女の子といるところ見たんだ」
「それだけ?」
「でね・・・それ、相手が・・・アヤちゃんなの」

澤口の名前が出た瞬間に柚木も全て察して思わず吹き出す

「で、喰われたって?」
「カッキーみたいに女慣れしてないような男がアヤちゃんに迫られたらイチコロでしょ」
「・・・」

柚木は少しだけ驚いた顔をする
柿内が女慣れしていないか・・・そんな風だったかと高校時代を思い返す。部活関係でも女子部員と話もしていたし、理系クラスで数少ない女生徒とも話をしていたのを覚えている

「あいつ、別に女慣れしてねぇわけじゃねぇよ・・・ただ、口が悪いから敬遠されてただけで・・・んで、あいつそんなモテなくもねぇからな?」
「え?」
「・・・いや、モテなさそうだけれどもっ!」
「うん」
「正直だな!お前!仮にもオレの彼氏だっつーの!・・・まぁ、それでもあいつがアヤに惚れたっつーなら・・・考えなくちゃ・・・だよなー・・・ねぇと思うけどなぁ・・・っつかあいつがアヤ抱いたのか・・・」

新井は「違うといいよね」と言いながら自信はあるのに何を不安に思っているのかと不思議に思う

「うん。っつか浮気が後ろめたくてオレのコト無視したんなら余計にムカつくよな・・・」
「流ちゃんは不安で心折れたとかじゃなくてムカついてんの?!」
「あー?もーあいつのこと公衆の面前でぶん殴ってやろうかと思ったくらいにな!オレのコト無視したの後悔させてやる」







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青春はプールの中で8-4 - 03/30 Wed

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「ねぇ、但馬!オレは流ちゃんに何か言ったほうがイイと思う?それとも内緒?」
「・・・まぁ、新井さんに隠し事とかできないと思うんで連絡しないのが吉だとは思います」
「えー!隠せるよぉ!だってオレ、江口への想いぜーったい江口にバレてないしー!」

何故か但馬の部屋にまで上がり込んだ新井はひとりあーでもないこーでもないと悩んでいた

「まぁ、新井さんがどうこう言う問題じゃない」
「えー?だって流ちゃんオレの親友だし」
「いや、親友でも」
「大事な親友だよー?流ちゃんはカッキーのコト大好きなのにー・・・カッキーも流ちゃんのこと大好きなのに・・・なんでアヤちゃんなんかに引っかかんのー?」
「その事実は判らないけど、本人たちが解決すべきだろ・・・」

新井は「ふーん」と言いながらベッドへ寝転がる

「ねぇ、但馬ー、流ちゃんいつ帰って来るかなぁ」
「いや、それ、オレが知るハズないですよねぇ?ねぇ!」
「あんなの・・・もし流ちゃんが見たら流ちゃん悲しくなるよ・・・」

新井のいつになく寂し気な言葉に返せる言葉が見つからなくて但馬はただ黙って床へ腰を下ろした









澤口と会ってだんだんと柚木が目の前に姿を現す機会は減っていた。別に彼女に心を奪われているわけじゃない。ただ、楽しくて。胸のうちを素直に話して柚木の話をするだけで満たされたから・・・
でも、その日、柿内は校門に立っている柚木を久々に見て息を詰まらせる
こっちを見て、柿内に気付くと手を挙げて優しく微笑む柚木

幻覚。幻覚幻覚幻覚・・・

「柿内・・・」

耳に響く甘い声。振り返りたいけれど振り返らずに前を向く。会いたいから・・・会いたい。幻覚の目の前の柚木を部屋に閉じ込めて2人の世界でいたい・・・実際の柚木にはできないこと。柚木に輝いていてほしいと願う柿内には無理。でも幻覚の柚木ならばそれができるから・・・無視しないとダメになりそうで・・・ずっと幻覚の世界で生きてしまいそうで怖かった

「おい、柿内っ」

柿内は足を早める
そして走る・・・すれ違う人に不思議そうに見られても、息が切れても、家まで全力で走った








「ん・・・?んんんんんんんんん?!流ちゃん?!え!流ちゃんっ!!」
「おー!久し振りー」

部活帰りの新井が久々に会う柚木を抱きしめるとわしゃわしゃと髪の毛を撫でる

「元気だったー?っていうかっていうか帰ってくる前に連絡してよぉ!」
「んー・・・サプラーイズ!ってやってみたかった」
「うん!驚いた!」

柚木は「大成功ー」と呟くと頭を撫でる新井の手を叩くと新井の頬を抓る

「んー相変わらずもちもち気持ちいい頬っぺたしてんな」
「痛い痛いー伸ばしすぎー!」
「みんな元気してるかー?」
「元気だよぉー!あ、カッキーは?もう会ったんでしょー?驚いた?超驚いた?で、喜んでた?」

柚木は黙って「それな・・・」と頭を掻く

「なぁ、竹市さんもいないんだけど知らない?」
「あ、竹市さん就活で今実家帰ってる」
「マジか!うわー・・・どーするかなぁ・・・」
「?」

新井は柚木の頬を撫でながら首を傾げる

「今晩泊まれるところどっかねぇかなぁ」







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青春はプールの中で8-3 - 03/29 Tue

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翌日、学校へ行くとすぐに柿内の元へ昨晩一緒だった友人がニヤニヤと近付いてくる

「なぁなぁー、昨日は上手くやったよなぁ?お前」
「何?」
「なーに言ってんだよー!興味ないみたいな顔してさー、スマートに女の子連れて消えちゃうとか」
「・・・いや、酒臭いお前らといたくないなっつー話になっただけだ」

友人がげんこつで柿内の頭をグリグリとねじる

「なぁ、でもアヤちゃん可愛かったし、お前とも話合いそうだし。あーいうぐいぐい来るこの方がお前の場合あってんじゃね?」
「だから」
「遠距離の彼女、あれだろ?連絡もくれねぇとかだろ?やめとけやめとけー。アヤちゃんのほーがいいってー!」
「・・・違ぇし」

唇を噛む。そうじゃない。友人として気が合うと思ったし、仲良くできると思った。でも、この先別に彼女とどうかなるだなんて考えられないし、あり得ない

「オレもとりあえず次の約束取り付けられたしー・・・そのうち可愛くダブルデートでもしよーぜ」
「・・・だからオレは」
「あ、やっべっ!次の授業オレ出席ギリだった!じゃーな!」

喋る隙すら与えられなかった柿内は消化不良の状態で次の講堂へと移動した






「かっきうちー!」
「おう」

待ち合わせに向かった柿内は遠くから手を振る澤口に小さく手を上げた

「ね!ちょっとこの写真見て!」
「あー?」
「超かっこいいショット撮れた!瑞貴ちゃんはホントフォームきれいなんだよねぇー・・・あぁ、ホント美しいー」
「あー、新井さんだ・・・っつかあんた大学違うのに球さんの大学なんでそんなに行けるんだよ」
「んー?色んなコネつかってー?うちプールないから水泳部ないもん。でも、だからこんな近くで写真撮れるんだよねー・・・あーやばい。球ちゃんの大学の水泳部イケメン多いしー」
「イケメン限定かよ」
「あ、柿内も撮ってあげようか?プール入れてもらえるようにしてくれるなら撮るよー?」

柿内は簡単に断ると澤口に腕を掴まれる

「ね、ホントは撮って欲しいのに強がってんのか?なぁ!」
「要らねぇし!っつか近ぇよ」
「柿内は照れ屋だよなぁ・・・あー、やばい。ホント今日はすごい収穫ー!瑞貴ちゃんもかっこよく撮れたけど今年はあれだな!但馬が来るよー!イケメン!超カッコいい!っつか知らない?但馬のこと!彼、ガード堅いっつーか全然情報入ってこないー!」
「あー1年?」
「そう!1年」
「んじゃ知らねぇし・・・っつか知ってるのは今の3年と4年がメインだな・・・2年で知ってるのも新井さんぐらいだし」
「あぁ、こないだ高校のときに球ちゃんの大学で泳がせてもらえたとか言ってたよね・・・っつかさー・・・毎回驚くけどなんであんた年下なの?っつかマジなの?」

もうこれは言われ慣れたこと

「見た目もだけど無駄に落ち着いてるよね。あんた」
「黙ってるようにしてるだけだな・・・口が悪いってよく言われるし」
「あ、私にはイイよー?傷つかないもん。だって柿内に言われても傷つくわけないし」
「・・・あんたデリケートな感じはどこにもねぇもんな」
「言ったな?よし!今日の晩御飯柿内の奢りだ!」
「あー?なんでオレが奢るんだよ」






「オレ、何で奢らなくちゃいけなかったんですかね?新井さん」
「うーん・・・アイス食べたかったのにお金がなかったから?」
「だから、金なかったら普通はアイス食えないんですよ!寒いのによく食いますよね?アイス!」
「しょうがないじゃーんっ!目覚めたらさー、なーんかお財布からお金ぜーんぶ抜かれてたんだもん」

但馬は「またカモられてんのか」とアイスを食べる新井を見つめる。憧れて追いかけて入った大学の部活の先輩・・・会ってみて話してみれば残念な人で男が好きで、男関係がだらしのない人だった

「あれ・・・あれー?あれあれ!あーーーー!!!」
「ちょっ!服にアイスついてるからっ!子どもじゃないんだから!ちゃんと見てっ!」
「違う!あれ!あれ見て!」

新井のジャケットについたアイスをティッシュで拭きながら顔を上げて新井の指す方を見るとただカップルが歩いているだけで何を言っているのかと首を傾げる

「あ!え?但馬ってカッキー知らない?」
「カッキー?」
「えー!どういうこと?!浮気?!ねぇ!浮気だと思う?」
「いや、まず意味わかんないし。そもそも誰なんですか」
「カッキーだよ!カッキー!!!流ちゃんの彼氏っ!」

流ちゃん・・・そう言われてもいまいちピンと来ない但馬に口を尖らせた新井が「オレの親友で球さんの弟」と教えると小さく「あぁ」と頷いてそして「えっ?!」と驚きの声を漏らす

「あれ・・・?オレ、なんかまずいこと漏らした気がする」
「いや、うん。まぁ、言わないけど・・・」
「うん!だってオレがゲイだって言ったのに但馬普通にしてくれてるもんなー?あぁ、優っしーぃっ!」
「・・・で、その・・・か・・・カッキー?が何?」
「あ、今、いたのがカッキーで、一緒に歩いてた女の子・・・」

新井は唇を噛む。信じられなくて。あんなに柚木を好きで好きで仕方がない柿内が浮気をするだなんて信じられなくて・・・

「・・・あー、あれっすね。うちの部活によく顔出してるどっかの大学の」
「・・・うん・・・スイマー喰いのアヤちゃん・・・」






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青春はプールの中で8-2 - 03/28 Mon

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「友達?」

少しだけ安心した柿内に吹き出す

「警戒しすぎー!」
「いや、そりゃ・・・」
「まぁ、球ちゃん有名人だからそんぐらい警戒しといたほうがいいねー」

澤口は注文したドリンクが来たのを受け取るとそれに口をつけた

「私カッキーに会ったら聞きたいことがあったんだー」
「・・・何?」

柚木との関係を聞かれるのかと身構える

「関係を隠したいような関係ならやめてしまったほうがイイ。でも、それは私たち家族の間に隠し事をすべきじゃないってこと。でも、それが外で隠したほうが都合よければ隠すのもいいでしょう。柿内くんはもう家族同然だと思ってる。だからなんでも話して。ね?」

柚木の母に柿内も言われた言葉。柿内は大学で柚木のことは高校の先輩でルームメイトだと言ってはいるが恋人だと言っていない。隠している関係

「唐揚げの作り方」
「・・・え?」
「球ちゃんにさー、前、取材したんだけどー、好きな食べ物聞いたらさー、「最近1番好きなのはカッキーの作った唐揚げ」って言われたんだー。どんなすごい唐揚げなんだろーって」
「あぁ・・・唐揚げ・・・唐揚げな」
「で、カッキーって誰よ?!って思ったら目の前にいるし!私すごい運イイよね?」
「・・・柚木さん・・・あぁ、流の方な・・・知ってんの?」
「あー、流ちゃんは見たことないけど知ってる!大会で会ってたのは球ちゃんと秀ちゃんだし・・・流ちゃんは大会出てなかったから」

柿内は頷く。そこで柚木の悪いことを言わない澤口に少しだけ好感度を上げる

「あーあーもう向こうから隔離されてるねぇ・・・こっち。2次会の話してるけど完全蚊帳の外だわー・・・ごめんねー」
「いや、オレ別に出会い求めてねぇし」
「へぇー・・・そうなんだ」

澤口は頷くと「じゃあ2次会行かずにお茶しに行こう?」と柿内を見上げる

「・・・いや」
「それ、ウーロンハイじゃなくてウーロン茶でしょ?」
「あぁ」
「私もこれオレンジジュース。酔ってないのにあいつらのテンションついて行けないでしょ・・・それに、私あんまり食べれてないし甘いもの食べたい」
「・・・」
「私、球ちゃんの話が一緒にできる人貴重なんだよね・・・だからもっと話したいし」
「あー・・・」
「それに柿内と私、気が合う気がする」

澤口の目が見られなくて目を逸らす
狭い席でただでさえも肩が触れ合っているのに気付いてどうしたらいいのか判らない。ただ、この後の予定に頷くだけだった







「あー、やばい。ここのスイーツ最高にうまい」
「・・・ファミレスだけどな」
「ファミレスバカにすんな。っつか球ちゃんもこのパフェ好きなんだよー!知ってたー?」
「ん・・・知ってる」

柿内は口に苺を運ぶ澤口を見ながら球が笑顔で食べていたことを思い出す。その時はその隣に竹市がいて、自分の隣には・・・

「柿内ー、ひとくち食う?」
「っ・・・」

またいつもの幻覚。リアルな幻覚・・・あの時の記憶が柿内にリアルな柚木を作り上げる。誰かがいるときでも、いつでもどこでも・・・

「どしたー?」
「なんでもねぇよ・・・」
「ふーん・・・柿内はさー、どっかスイミングかジム行ってないの?」
「ん。部活だけ」
「もったいなくない?」
「・・・あんたはなんで水泳辞めたんだよ」

澤口は「それを聞くか?」とニヤリと笑った

「柿内にもさー、判らないだろうけど・・・私自分が泳ぐよりも球ちゃんが泳ぐのを支えたくなっちゃったわけー。あ、うん。付き合いたいとかじゃないから。それ以上ねー。そりゃあ付き合えたらすごい嬉しいけど球ちゃん無理だしね。あ!これ大丈夫?いや、流ちゃんとルームメイトなら知ってるよね?」
「あぁ。竹市さんとのこと?」
「あ、うん。まぁ、だから付き合えないもの判ってるし、付き合うよりもずっとずっと球ちゃんの役に立ちたいなーって・・・まぁ、私にできることなんてホント限られてるし、差し入れ持って行くとかそのくらいしかできてないんだけど・・・」

澤口の話に自分が重なる

柚木と付き合いたい。でもそれ以上に傍にいて役に立ちたい。今は付き合えていて幸せだけれどもし、関係が壊れたとしてもやっぱり傍にいたい

「・・・すげぇ判るし」
「え!マジ?わー私の直感やっぱりすごくない?柿内気が合いそうって思ったもん!」
「そ・・・か」
「なんかさー・・・あの時、あの瞬間に私の競泳人生始まって終わったなぁ・・・って」
「・・・」
「球ちゃんね、昔から速かったー。ホント速かったー・・・その頃から有名人でさ、人種が違うんだって思ってたんだけどね・・・ある大会で私が負けてコーチにボロクソ言われてトイレで泣いて泣いて泣いて真っ赤な顔でトイレから出たらさー、男子トイレから泣き声聞こえたんだー・・・」
「同じような人がいた?」

澤口が頷いて、そして静かに首を振る

「声が聞こえたの」
「・・・」
「大丈夫。大丈夫・・・って自分を自分で励ますような震える小さな声。で、私、なんか安心してその言葉に男子トイレの前で頷いてた。しばらくするとさ、トイレから出てきたのは体の大きい球ちゃん。で、目が真っ赤な私に笑って頭ポンポンってして「お疲れさまー」って・・・」
「うわー・・・球さんってホントそういうところあるからな・・・」

澤口は「惚れるよねー」と笑った

「んで、球さんそっから追っかけてんの?」
「そー・・・その後の球ちゃんはやっぱり速くて強くてカッコよくてさー・・・でも人間だった。レースの前に緊張して泣いちゃうし、ホント普通の人だったー・・・いっつも余裕だと思ってたけどそれは球ちゃんの優しさでプライド」
「オレの知ってる球さんはいっつも「流ちゃん、流ちゃん」言ってるイメージの方が強いけどな」
「あ!それも知ってるー!すごい男前でかっこよくて可愛い弟でしょー?秀ちゃんも妹の舞ちゃんもいるのに流ちゃんの話題が1番多いよね」
「あぁ・・・だなぁ・・・」

柿内はふわりと笑う。柚木の話題が嬉しくて。確かに柚木のことを話したくなれば竹市もいるし、新井もちょくちょく部屋へと訪れてくる。でも、いつだって柿内が素直に柚木の話をできないでいるのはからかわれたくないから。関係を知っているからこそ「ラブだな?ラブだー!のろけー!!!」と叫ぶ新井や「球さんに言っておく」などと言う竹市には素直に話せないことはたくさんあった

「柚木さんって人はすげぇかっこいいよ」
「お!柿内もその流ちゃん派なんだ?」
「いや、派とかそういうんじゃないけどな・・・オレにもう1度泳ぐ気力と夢を持たせてくれたし、人のためにいっつも動き回ってる人」
「へぇ・・・ねぇ、見た目はー?まぁ、親が親だからどっちに似てもイケメンだろうしー?球ちゃんも秀ちゃんもすごいイケメンだけど、秀ちゃんよりも流ちゃんの話ばっかりだからそっくりな感じじゃないんだよねぇ?」

柿内は球と秀、そして柚木を頭の中で並ばせると思わず笑ってしまう

「全然似てない」
「やっぱりそうなんだ?」
「1番男っぽくないのに多分3人の中で1番男らしい」
「うっわー!超気になるしっ!っていうかレシピ!レシピっ!」
「・・・あー、唐揚げか?」
「そー!」

柿内は携帯を取り出してメモしてある画面を見せる

「うっわー!それ送ってよ!っつかマメだね!」
「ん・・・食わせたい人がいるから・・・な」

誰かのために何かをしたい。それが大きな原動力
柿内を動かしているのは柚木・・・そう。柚木・・・ここにいなくても確実に柚木の存在が柿内を支配し続けている

 






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青春はプールの中で8-1 - 03/27 Sun

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「柿内、も、大丈夫。来いよ」
「でも・・・」
「見ろって・・・すげぇヒクついてんの判んね?」

すっかり蕩けたそこが誘うように震えているのを見て生唾を飲み込む

「っ・・・ユズ・・・ユズっ」

一気に貫いた雄を飲み込んでいく。深く深く飲み込んで・・・





「・・・ユズ?」

目を開けるとそこはいつもの光景。隣には誰もいない。冷たい布団

「・・・またか」

寒さが段々と濃くなって行く頃、まだ帰って来ない柚木の姿を追うように幻覚を見続けている
夢だけではない、幻覚。朝食を摂っている時でもいるはずのない大学内でもその姿が見える

「なぁ、お前の大学に潜り込んでオレ、怪しまれね?」

それはリアルな幻覚
もちろん薬の類も何もつかってはない・・・ただ柿内の願望だけで現れる幻覚

「大丈夫。見学に来た高校生に見えるよ」
「ふざけんなよお前ー」

その幻覚の柚木はいつものように笑って柿内も小さく笑う。周りにはきっとおかしな光景。誰もいないところで誰かと話している柿内を遠巻きに噂しながら離れていく
判っているのに。ここにいるはずなんてなくて、まだ日本のどこにもいないと判っているはずなのにリアルな柚木と会話せずにはいられない。飢えているから。柚木に。柚木との馴れ合いに



「なー、なぁ!!!!クリスマスも近いことだし寂しいメンバーで飲み行こうって話してんだけど柿内も行こうぜー?」
「未成年飲酒」
「お前ホント、意外と堅いよな?真面目か」
「なんかあって親に迷惑かけたら困る」
「・・・大丈夫。お前、どー見ても1年ですらないから」

友人の頭を軽く殴ると今のこの状態では気分転換も必要だと思い、頷いた




「・・・なんだこれ」
「んー?綺麗なお姉さま方とのお食事会にお前呼んでやったんだからもっと喜べっつーの」

当日、明らかに男女比率が半々のその飲み会に柿内は不機嫌な顔をして友人を少し離れた所へ呼び出して詰め寄った

「いやー、長身の友達いてよかったわー!とりあえずお前頭数なだけだから」
「・・・オレは」
「今は遠距離の彼女がいるんだっけー?ホントにいるのかー?連休あったってお前会いにも行かねぇでバイトだろー?話も聞かないしそれってホントにいるのかよぉ」
「・・・」

ホントにいるのか・・・それすらも判らなくなってしまう。いや、いる。柚木のことは今でも大切に思っているし何よりもあの部屋に確実に柚木はいたのだから

「今日くらいいいだろー。背の高い理系男っつーのが向こうの希望だし!それにホントオレを助けると思えよ!本命いるんだってー!」
「・・・」
「柿内ぃー頼むぅー!」
「判った」

柿内は両手を合わせて懇願する友人に溜息を吐くと席へと戻る。必死なのは柿内にも伝わって来たし、自分がしっかりしていれば何も問題はない。そもそも、愛想のよい方ではない自分が何か起こすとも思えなかった

暫く当たり障りのない飲み会だったが、時間が経つにつれて酒も回って席移動があったり盛り上がったりで柿内はどんどん場の雰囲気から浮いていく

「こいつねー、学校に弁当とか作って持って来ちゃうんだーよ!」
「黙れ」
「えー?!すごいじゃんー!」
「キモーい!って反応期待したのにー」
「料理男子はポイント高いよー!!!」
「んじゃ今度柿内に教えてもらおう」
「教えねぇし!」

絡んでくる友人がしつこくてなんとかここから逃げ出す方法を考えていると「遅れてごめん」という声に顔を上げる

「あー!やっと来たぁ!!!!」

にこりと笑った彼女は「澤口 彩佳です」と頭を下げて1番近かった柿内の隣へと座る

「今日来られないのかと思ってた」
「人数見ると私来なくてもよかったねー。あーそれなら最後まで見てくればよかったー。折角水泳部取材入れたのにー」
「出た出たアヤの水泳マニア」
「ん?水泳・・・?柿内、お前水泳部じゃね?」

澤口の目が輝いて柿内を見る

「水泳部?!水泳トークできる?!」
「や・・・え?」
「種目は?タイム!っていうかそれよりなによりも球ちゃん知ってる?!」
「え?あ?・・・え?」

突然早口で捲し立てられて柿内は戸惑う。澤口の友人たちは「また始まった」と興味を失ったようにまたさっきまでしていた話に戻る

「あー、ごめん。大して力入れてない系か・・・」

その言葉に少しだけムッとして自分のタイムをぼそりと呟いた

「・・・種目、フリー?やっぱり大したことないのか・・・」
「ブレスト」
「おー!ブレスト!じゃあ結構いい線行ってるんだ?」
「高校んときはインハイ目指してた」
「インカレもあるじゃんー・・・っていうか出ること目標って小せぇなぁー」

柿内は黙る。確かに出ることを目標としていた。出て・・・何が残る・・・

「私はさー、今は泳ぐよりも泳ぐ人を追いかけていたくてねー・・・昔はJOとか出てたんだよー?んでー、その頃から球ちゃんの虜ー」
「・・・まぁ、泳ぎすげぇよな」
「お!球ちゃんの泳ぎ判るー?もー全てを魅了するよね!あのパワフルな泳ぎ」

柿内はグラスを傾けて少しだけ頷く
球の大学で泳がせて貰ったときにも球の泳ぎは見ていたし、それに魅了されるのも理解できる・・・

「柚木 球・・・もーね、私はすごい大好き」
「・・・あれ?柿内、お前の同居人も柚木じゃなかった?」
「ちょ・・・」
「何?!同居人って何?!柚木って多い苗字じゃないよね?!何?!何?!もしかして球ちゃんの弟の秀ちゃん?!いや、秀ちゃんはまだ高校生だから・・・流ちゃんか・・・何?!どういう関係?!」

柚木の名前が出て柿内は固まる
球と秀が有名なのは判っているが、柚木の名前まで出てくるなんて目の前の女は柚木兄弟とどんな関係なのかと胸騒ぎまでしてくる

「っつかお前いちいちあちこちの会話入って来るなよ」
「えー!?オレの特技じゃーんっ!ねぇねぇ聞いてー?オレ、同時に別々の会話参加できるのー!すごくない?」

柿内は友人の自慢話にため息を吐くと澤口が隣で小さく「あ」と呟いたのに気付く

「流ちゃん・・・柿内・・・あぁ、柿内・・・カッキーか」
「は?!」
「そっか!カッキー!納得ー!んじゃたけちゃんの後輩だよね?」
「ちょ・・・あんたなんなの?」

澤口が笑う。確かに怪しい女なのは自分でも判っていること

「球ちゃんのすごーい追っかけ・・・球ちゃんもたけちゃんも友達だったりするよ?」





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騙されて魅せられて5 - 03/26 Sat

trackback (-) | comment (0) | その他SS
水嶋が置いたそれを見てますます判らなくて手を伸ばしてそれを受け取ればいいのかも判らずに水嶋の顔色を窺う

「天城さん、オレ、ホント大事にするから・・・一緒に住もう?」
「・・・え?」
「この間、夜中・・・天城さんが辛そうにしてるの見て思った・・・不安にさせたくないって」

水嶋の言葉は甘く甘く天城の胸へと突き刺さって心を蕩かしていく
そして同時に本当にこれを信じて受け取っていいのかとテーブルの上のカギを見つめたまま膝の上に置いた手を握りしめる
そんな天城の気持ちを察して水嶋は優しく笑う

「オレ、ね、天城さんが初めて付き合った人・・・」
「・・・え?」
「うん、だから、ぎこちなかったり、その、天城さんが求めることもちゃんとできてたかな・・・って不安で・・・や、オレ、年下だし、天城さん経験豊富そうだし・・・物足りないとか思われてるんじゃないかって・・・だから・・・もし、物足りないとかだったら直接言ってほしい・・・」

天城は目を丸くして水嶋を見上げる。少しだけ困った顔で自分を見ている水嶋・・・少し不安の混じった優しい顔・・・

「・・・初めてオレが声掛けたとき、オレも騙されたことあるって言ったの覚えてる?」
「そうだっけ・・・」

立ち上がった水嶋はそっと天城の席に移動して抱きしめる

「オレ、ね、学生時代、イイ感じになってた友達以上の奴がいて、そいつもゲイだったから告白したんです・・・でもね、告白したらね・・・オレみたいなキモいやつ無理だって。友達だと思ってたのに・・・ね・・・だから、怖くて・・・その次に告白されて、付き合った人はね、オレに告ったのは罰ゲームだって・・・誰も信じられなくて・・・もう付き合うの怖くて・・・だから次はもう騙す側になろうって思ったんだ」
「・・・まぁ、オレよりはマシ・・・か・・・」
「そう・・・でね、そんなオレを見かねた友達があのバー紹介してくれて、天城さんが騙されたーって話してるの聞こえたんだ・・・あれ?こないだも騙されたとか言ってなかったっけ?って思って興味持ったら・・・さ、ホント次々騙されていって・・・なのに懲りずに次へ向かっていって・・・あぁ、彼ならオレでも騙せる。騙されないって思うのと同時にオレなら絶対に裏切らない・・・この人なら・・・って思って・・・」

水嶋の言葉に何度も頷く
もう騙されたくない!と思ってもすぐ惚れてしまう・・・そしてまた騙されて裏切られて・・・
それでも恋をしてしまうのだから自分は前向きすぎだな・・・と思うほど

「それで、この間の深夜の呼び出し」
「ごめん。迷惑だったよね・・・」
「違う。そうじゃなくて・・・天城さん、抱きしめたらなんかそれでもう安心して眠れたでしょう?オレで本当に安心できるならできるだけ近くにいて今まで散々酷い目見てきた天城さんを癒したい・・・だから・・・だから・・・」

水嶋が天城の体から離れてその場に跪く

「オレと一緒に暮らしてください」
「本気・・・なの?」
「ん、オレの部屋・・・引っ越し作業全部終わってあとは天城さんが来ればいいだけになってる」
「え・・・」
「今日、話したかったコト・・・これなんだけど・・・騙そうとかそんな話じゃなくて・・・ホントはそんな話もしたくなかったけど近付いた理由も全部天城さんには話しておきたいと思ったから」

水嶋が見上げてくる。捨て犬のように見上げられて、こんなの拾わないわけにはいかなくなって・・・

「オレ、年上だよ?」
「うん。知ってる」
「オレ、今まで付き合ってきた奴多いよ?」
「うん。知ってる」
「オレ、酒癖も悪いし愚痴も多いし」
「うん。知ってる・・・でもイイ。全部天城さんだから」

天城は震える手で水嶋を抱きしめる。騙されてもイイ。また騙されているんだってかまわない。今、すごく幸せだから

今までで一番幸せ

今まで騙されて捨てられてきてよかったと思うほどに幸せだから

「水嶋くんの家・・・行かせてください」
「よかった・・・緊張した・・・」
「あと、ご飯途中だけど今すぐベッド行きたいです」
「うん・・・行きましょう?」
「あとっ・・・」
「うん?」

水嶋が立ち上がって天城の手を取ると天城の少しだけ赤くなった目で見つめられる

「もう、名前で呼んでもイイ?」
「いいですよ」

名前なんて酔って訳が分からなくなっている時に何度も呼ばれている・・・なんて言えない。目の前の愛しい人が望むことは叶えたい。今まで騙されながら何度も立ち上がってきた天城を幸せにしたい。小さな嘘もつきたくない。騙されるときは嘘の大きさ関係なく人は傷つくのだから




「かんちゃ・・・好きだよっ・・・」
「オレも好きです」
「騙されててもイイ。だから今だけ最大級の幸せ感じさせてっ」

水嶋は少しだけムッとした顔をして天城の頬を軽く抓る

「オレは騙してないし」
「でも騙そうとしたんでしょー?」
「それは・・・声掛けて話たら騙そうとか思ってた心消えたって言うか・・・天城さんにならまた騙されちゃってもイイかなとか思ったくらい・・・だから」

それは天城と同じ。騙されても構わない・・・あの瞬間、確実に恋に落ちた瞬間。騙されてイイと思ってしまった。辛く苦しい思いをしてもう二度と騙されないように騙す側に回ろうと思っていたのにそんな気持ちが吹き飛んでしまったのだ

「・・・じゃあ一緒に幸せになろう?今まで騙されて悲しんだ分・・・幸せになろう?」
「うん・・・幸せになろう」

騙された分だけ幸せになろう
騙された2人で騙すことのない生活を。嘘も隠し事もない生活を目指して・・・

深い深い口付けをしながらそう心でお互いに誓い合った



騙されて魅せられて おしまいおしまい





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騙されて魅せられて4 - 03/25 Fri

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満たされて満たされた・・・幸せすぎて・・・

夜ひとりになるとふっと昔を思い出して・・・あの裏切られた瞬間を思い出して急に怖くなる

怖い。怖かった・・・

「出て・・・出て・・・っ・・・」

天城は水嶋に電話をしてしまう。深夜2時・・・当然寝ているのは判っている。でも怖くて。怖くて怖くて・・・

『・・・もしもし・・・天城さん?・・・どうかした?』
「っ・・・水嶋くんっ・・・」
『ん・・・今何時・・・』
「ごめ・・・ごめ・・・でもっ・・・怖くて・・・水嶋くん、ごめん・・・」
『少しだけ待っていられる?今から行くから・・・』
「え・・・」

声が聞けただけで安心すると思ったのに、水嶋は飛んでくる
来て抱きしめて眠るまで頭を撫でて・・・優しく声を掛けてくれて・・・

「オレは裏切らないです・・・天城さん」
「ごめん・・・ごめん・・・こんなことで電話してごめん」
「いつでも電話ください・・・可能な限り飛んできます・・・眠って・・・明日も仕事でしょ?」
「ん・・・水嶋くんも・・・仕事あるのに・・・」
「うん・・・でも、天城さんに会えたから平気」

水嶋の声と心臓の音で安心して眠る・・・甘やかされすぎて怖い・・・明日急にこの手がなくなるかもしれないという不安・・・裏切りは突然やってくるのだから・・・






そして、その時は近付いてきた

『もしもし・・・天城さん?あの・・・話があります』

いつになく、真剣なその声は天城の胸を締め付け、覚悟を決めさせる。約1年・・・幸せだった・・・騙されていたとしても許せる。水嶋なら許せる・・・そう思うほどに天城は水嶋に惚れて惚れて・・・落ちていた

夕飯を簡単に用意しようと思ったが、最後なのだと思うとつい張り切って作りすぎる・・・机に並んだ食事を見て泣きたくなった・・・別れたくない。お金なら全部持って行ってくれてもイイ。保証人になるのもいい。内臓も売れるものなら売ってくれてもイイ・・・

それでも失いたくない・・・



「遅くなりました・・・え・・・何・・・すごい・・・」
「うん・・・上がって・・・まず、食べよう?」
「え・・・あ、はい・・・」

水嶋のコートを脱がせると席に着かせて食事が始まる・・・豪華な食事・・・それでも味なんて判らなくて、水嶋の喜ぶ顔をずっと見つめていた
最後でも笑ってくれてよかった・・・そう思いながら・・・

「天城さん・・・?え?どうしました?何?どっか痛い?」
「え・・・あ」

食事が水嶋の胃袋へと片付けられていくにつれて天城は胸が痛くて涙が零れていた

「天城さん・・・」
「水嶋くん、は・・・何を隠してたの?」
「え・・・あ・・・」

今日、言いたかったことを見透かされたようで水嶋は口を閉ざす

「勤め先?」
「や、名刺の通りです」
「借金とか・・・いくら?」
「や、ないですよ?」
「じゃあ・・・結婚してる?」
「え?ないです」
「じゃ・・・何?」

水嶋はひとつため息を吐く

「・・・あのね、天城さん・・・ずっと隠してたけど・・・」
「うん」
「オレ、天城さんのこと騙そうとしてた」
「・・・うん」

それは天城にとって別に驚くことでもない話。そして「やっぱり」と思う話

「あ、違うよ?今は全然・・・っていうか・・・天城さんのおかげで人を騙そうだなんてこと思えなくなったんだ」
「・・・?」

話が見えずに首を傾げる

「あーっと・・・話って言うのは・・・」

水嶋がポケットからひとつの銀色をとりだしてテーブルへと置いた






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騙されて魅せられて3 - 03/24 Thu

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気付いたときにはもう手遅れ。天城の心は完全に水嶋の虜・・・
見極めるとかそれ以前に「付き合ってください」の言葉に「うん」と即答した自分を呪った・・・しかし、それでも彼はイイ人のまま・・・出張の多い彼からお土産を貰い、そんなお土産で部屋があふれそうになった頃、近田が天城の部屋を訪れて部屋を見渡す

「・・・なんか、せっちゃん、物増えたね・・・」
「あー、うん・・・彼が色々くれるから・・・」

デートの時にもプレゼント。毎回要らないというのに、ぶらぶらと食器を見れば「これが欲しいなら今日の記念に・・・」と買って与えてくれる。甘やかされている自覚は充分すぎるほど

「・・・せっちゃん、上手く行ってんだ?」
「うまく・・・なのかなぁ・・・」
「いってるでしょ?」
「・・・コウタは・・・どれくらいでセックスする?」
「・・・え?何・・・もしかして、もしかして・・・まだないの?!」

満たされていた。すべてを満たしてくれる水嶋・・・だけれど、それは体以外の話・・・一度も触れようとしてこない水嶋・・・触れようとしてもさりげなく避けられている気がして・・・

「キス、は・・・したことあるよ・・・」
「え、待って。待って・・・付き合って結構経たなかった?」
「もうじき半年・・・」
「はぁぁぁ?!え、せっちゃん今までどうしてたの?!週末いつも彼といたよね?男他にいないよね?」
「・・・だから・・・自家発電?」
「せっちゃんが?!せっちゃんが?!ない!ないよ!よし!彼呼んでよ!説教してあげる!っていうか・・・せっちゃんが半年も男ナシの状態でよく・・・」

自分の性癖に気付いてからこの歳まで、ほぼ男が切れることなくいた天城にとって、水嶋と付き合い始めて半年・・・誰とも肌を重ねない期間としてはここ数年では最長であった

「いや、でも、そのほかはすっごい充実してんだよ」
「・・・でも、せっちゃん、それでいい?」
「いい・・・やっぱりよくない・・・オレ、魅力がなくなったんじゃ・・・」
「よし。バーに行ってナンパされよう!そしたらせっちゃんの魅力判るでしょ」
「ヤダよ・・・それで水嶋くんに嫌われでもしたら・・・」
「・・・だね・・・」
「騙してんならもうそろそろ・・・だよね・・・」
「うーん・・・」

そういえば、まだ水嶋の部屋も教えてもらえてない・・・もしかしたら妻子ある・・・しかし、土日ずっと一緒にいてくれる。疑ってはそれを頭で振り払う・・・その繰り返し・・・




「・・・え・・・今なんて?」
「だから・・・水嶋くんは、オレとしたくない?」
「・・・な・・・え・・・あーっと・・・したいですけど?」
「じゃあなんでっ!」

とうとうしびれを切らした天城が水嶋に詰め寄ったのは近田が来た次の週・・・またお土産・・・と前に好きだといったお菓子を持ってきた水嶋の手を握ってそう詰め寄る

「あー・・・イイ・・・んですか?」
「イイ・・・して」
「・・・はい」

そう返事した彼の声はやっぱり優しくて・・・そっと頬に触れてくる手も優しくて・・・この手が欲しかったことを再確認した




水嶋の荒い息遣いが耳元で響く。優しく触れて優しく撫でて・・・優しすぎて物足りなさを感じるほどに

「水嶋くんっ・・・も・・・もうっ・・・」
「ん・・・あ・・・挿れま・・・すねっ・・・」

水嶋の落ちてきた髪をそっと掻き上げるとすごい汗・・・紅潮した肌・・・愛しい気持ちがあふれそうだった・・・少しずつゆっくりゆっくり侵入してくる水嶋の雄を感じると押し広げられる感覚に震えた

「っ・・・」
「痛くない?」
「んっ・・・もっと・・・奥までイイっ」
「っ・・・キツくて・・・進めな・・・いっ」

いつの間にか固くなってしまっていたのか・・・と頭の中でどこかぼんやりと思いながら水嶋の動きを感じ、久々の押し上げられる感覚を楽しんだ






「水嶋くん・・・優しすぎって言われない?」
「え・・・」
「や、嬉しいよ?でも、もっと少し乱暴にしてもオレ、きっとよかった。なんか気を遣わせたっぽくて・・・」
「や、天城さん・・・あの・・・優しくしたいのはダメですか?」

果てた後、裸のまま抱き合いながらベッドの上で手を繋ぎながらの幸せな時間・・・

「水嶋くんが悦くないとイヤだなーって思っただけ」
「っ!すっごい・・・すっごい悦かったです!」
「ホントー?」
「本当です」

優しい目で見つめられて天城は微笑むと水嶋にキスを落とした




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騙されて魅せられて2 - 03/23 Wed

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出勤すると同僚の近田光多が「酒臭いー!」と言いながら天城の顔をつねる

「・・・コウタ・・・オレ、またやっちゃった・・・騙される。やばい」
「ええー?!またー?っつかせっちゃんモテんね・・・なんかズルい」
「・・・騙されるのに?」
「それはいーやー」

近田はそう言って書類の山を天城の前にドンと置いた

「・・・何これ・・・」
「ん?今日のお仕事」
「・・・え・・・」
「せっちゃん、お仕事って甘くないね」
「・・・ホントに・・・」

二日酔いで重い頭を抱えながらその書類をひとつ手に取って仕事を始める




なんとか今日の分の仕事を終えた天城は水嶋に連絡しようか迷っていた
謝りたかった・・・置いていった名刺は有名な大きな商社だったし、もしかしたらイイ人なのかもしれないと少し期待しながら・・・

部屋に戻って「うーん・・・」と悩むと悩むよりも行動だ!と電話をする
数コール後、聞こえた声は昨日聞いたあの優しい声・・・優しい目に優しい声・・・酔っていたけれどそれははっきりと思い出せる

「あ、オレ、天城・・・判る?」
『連絡くれると思わなかった・・・うん、ありがとう』
「・・・っていうか・・・ごめん。オレ、最後記憶ないんだけど・・・」
『あー、昨日?天城さん、オレに抱きついて、起きる時間言った後そのまま寝ちゃって・・・』
「え!」
『あ!オレ!何もしてないよ!本当です・・・』
「・・・朝飯・・・旨かった」
『よかった』

水嶋の声は心地よく天城を包み込む・・・騙されやすいのはこの惚れっぽい性格もあるんじゃないかとわかってはいるが、あの顔とあのスタイル、そしてこの声・・・天城の心を虜にするには十分

「水嶋くん、今度、その・・・」
『うん?』
「一緒にメシ食わない?」
『あぁ、オレが言おうと思ってました・・・いつにします?何か食べたいものがあれば予約もしますよ』

天城は「金曜日は?」と聞くとすぐに「いいですよ」と帰ってくる・・・

『あ、でも金曜日だと予約時間見えないかなぁ・・・天城さんは終わる時間決まってます?』
「決まってない・・・予約するような店じゃなくていいから・・・さ」
『わかりました。できるだけ早く仕事終わらせます』
「・・・うん」
『それじゃ・・・声、聞けて嬉しかった。ありがとう。また・・・』

電話を切ると天城はため息を吐く

「・・・まーた惚れてやんのー・・・」

それでも恋をせずにはいられない。もう簡単に好きにならない・・・だなんて昨日までは思っていたのに。人間の感情というのは全然見えない。どうしようもなく止まらない

待ち遠しかった。約束した金曜日が待ち遠しくて・・・

『もしもし?』
「・・・オレ・・・天城」
『えぇ。電話くださって嬉しいです』

彼の声がもっと聞きたくて。もっと知りたくて・・・優しくされたくて毎晩電話をしてしまう。それでも嫌がられることなく、いつも優しい包み込んでくれるような声に癒され、仕事の愚痴も人間関係の愚痴も全て電話で吐き出す。
まだたった1回会っただけ・・・なのに、きっと今までの彼氏よりもずっと長く話している




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騙されて魅せられて1 - 03/22 Tue

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人には騙される人と騙す人が存在する・・・彼、天城 雪太は騙される人のスペシャリスト・・・友人は皆、騙され屋と彼のことを呼ぶ・・・

「また騙されたんですって?」
「・・・誰に聞いたのー・・・」

行きつけのバーでカウンターに座るとマスターが少しだけ笑ってそう聞いてきた・・・騙された。これは事実だし、ここへ来る友人たちは知っているから隠しようがない

「さっきコウタくんが来てそう言ってました」
「そうかー・・・コウタかぁ・・・騙されたけどー・・・お金なくなったけどー・・・でも、騙されるオレが悪いんですよねぇ・・・あーあー新車買おうと思ったんだけどなぁ」

天城はため息を吐きながらグラスの中身を傾けた

「あーあー・・・なーんでこんなに騙されるんだろう・・・」
「・・・騙されたんですか?」
「・・・」

いつの間にか隣に人が来ていたことに気付き、大きな独り言を恥ずかしく思う
顔を上げると優しく微笑んでこちらを見ていて、こういう優しい顔にコロッと騙されるんだな・・・と思いながら笑う

「そう・・・何度目かなぁ・・・可愛いのは勤め先を隠してたとかねー・・・実際はプーでいつの間にか家に居着いてヒモになっててーで、いつの間にか男作って逃げてったやつー」
「それは辛い思いしたね・・・それでも可愛いものなんだ?」
「そうだよ!こないだのはーお金持ち逃げされた」
「・・・それ、何飲んでるんですか?奢るよ」
「飲み代に困るほどではないよ?」

ここまで来るととりあえず疑ってしまう。騙しやすい顔だと思われて近寄ってくる輩を牽制するために・・・牽制しても牽制しても大丈夫だと心を許した直後に騙され、逃げられてしまうのが天城なのではあるが・・・

「あぁ、ごめん・・・オレも騙されたことあるから・・・さ」
「・・・カシスウーロン・・・」
「うん。奢らせてくれるんですか?」
「一杯だけね!奢ってもらうだけ!」

男は微笑んでマスターに「カシスウーロン」と伝えるとまた優しい目で天城を見つめる

「オレ、水嶋 寛太。よかったら、そのドリンク飲み終わるまででもお話聞かせて?」
「・・・話だけだよ!」

天城は優しい目の水嶋に騙されストーリーを話し出す・・・それは終わることのない長い長い話・・・




「大丈夫?タクシー乗れる?」
「んー・・・だいじょぶー・・・ねぇ、かんちゃんー・・・聞きじょーずだねぇ」

結局、話を聞いてもらいつつ飲み物を奢ってもらい続けた天城は飲みすぎて水嶋に抱えられて道を歩く

「タクシーやっと止まった・・・天城さん、オレの連絡先ポケット入れておくから気が向いたら連絡して・・・他のお話もしてみたい」
「・・・んー?かんちゃんー・・・お家まで送ってくれないのー?」
「あー・・・判った。じゃあ天城さん、行先だけ言って・・・あとは寝ててもイイから」
「わーい・・・かんちゃんー」

天城は水嶋に抱きつくと行先を運転手に告げた直後に眠りに落ちた




「・・・頭痛いーーーー」

朝、目を覚ますと朝日が眩しくていつカーテン開けたのかと首を傾げながら冷蔵庫へと向かう

「あ、おはようございます」
「え!!!!えええええええ!!!!!」
「朝食、適当に作っちゃいました。えっと、オレ、仕事あるんで、先出ますね」
「え、あ・・・えっと・・・」
「そこ、オレの連絡先と一応怪しい者じゃないって証明じゃないけど名刺も置いてあるから・・・じゃあ」

きっちりとスーツを着た水嶋を呆然と見送ると天城はテーブルに並んだ朝食を見て「うわぁ」と声を漏らした。送ってもらったところまでは覚えている・・・いや、水嶋に抱きついて帰るなと言ったのも自分だと覚えている・・・しかし、そのあとは・・・

「やっべぇぇぇぇ!オレ!またやっちゃった?!」

誰もいない部屋でそう叫んで天城は頭を抱えた





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