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コイゴコロミズゴコロ3-31 - 03/31 Fri

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風呂を上がり、但馬は自販機前で新井に水でも飲むかと聞いていると「こっちー!」と待合室で手を振る父2人を見て絶句する

「な・・・はぁ?!」
「わー。イイなぁー!風呂上がりのビール美味しそう」
「何飲んでんだよ!車っ!」
「んー、シーズン直前でまだ部屋空きまくってるーって言うから2部屋取った」
「ばっ・・・何言ってんだよ」

但馬は時計を見上げるけれどバスはもうとっくに終わっている時間で、タクシーを呼ぶかと考えているのに新井はすっかり2人と馴染んでいて一緒に缶ビールで乾杯をし始める

「・・・新井さん!」
「だって、もう部屋取ったって言うし」
「・・・クッソ・・・あーもー!オレにも酒よこせー!!!」

やけになってそう叫んだ但馬に敏彦は笑って「部屋で飲むか」と腰を上げた






「オレの周りってなんでみんな勝手なわけ?そういう星回りなの?運命なの?ねぇ!なんなの?」

部屋でしばらく飲んでいると但馬がだんだんとめんどくさい口調になってきて新井は目を丸くしながらその様子を眺める

「なーに?瑞貴ちゃん驚いてるのー?」
「や、但馬がこんな風に酔っぱらうの初めて見る」
「カズー?こいつー、酔わせるといっつも超めんどくさい男ー!」
「や、部活の飲み会とかでも全然普通ですよ?!寧ろオレの世話焼いてるばっかりで」
「それはこいつがいい子ぶってんだよ。特に瑞貴くんの前ではそうなんじゃない?」

新井ははにかみながら但馬を見る。見たことがない但馬の姿が新鮮で、これが家族に見せる本当の但馬の姿なのではと思うと愛しくすらある
但馬のことが可愛い。愛しい・・・江口への感情とは全く違う感情・・・江口の子どもっぽい独占欲だとか態度も可愛く思ったけれど、今、溢れそうな感情は他では感じ得なかったもの

「あー、そろそろホントめんどくさいし、寝かせようかー」
「あ、はいっ。但馬ー、寝ようかー」
「新井さんはー江口さんに電話したんですかぁ?おやすみなさいの電話ですよぉー」
「・・・但馬ー、ほら、布団っ」
「江口さんからそろそろ電話かかって来るでしょー?ねぇー!オレには言わないくらいあまーい声で江口おやすみーとかさー、ねー、新井さーん」

そんな話を但馬の親の前で聞かせたくなかったのに但馬は止まらない

「オレだってー、ホントは毎日新井さんから聞きたいですーっおやすみー和範って言われたらオレ毎日頑張れますぅー!っていうかー、オレ、和範って言うんですよー?ちゃーんと覚えてくださいよー」
「うん。うん・・・判ったから」
「じゃあ、また明日ね。おやすみ。めんどくさいけどごめんねー?」

部屋を出て行く2人に頭を下げると部屋に2人きり・・・

「新井さーん」

なんとか布団に転がして新井もその隣の布団に転がると名前を呼ばれて但馬を見る

「いーんですかぁ?ホントにオレで」

呂律がちゃんと回っていないような口調だけれど、目は真剣で手を伸ばすとすぐに熱い手が新井の手を掴む

「まだ心配してる?オレが江口に話せるかどうか」
「オレズルいんですよー・・・オレの親に会わせたら新井さんの気持ち変わるかもとかズルいんですよー」
「ズルくないよ」
「ズルいんだよ!」

布擦れの音がして但馬が布団から起き上がり、新井の布団の上から覆いかぶさる

「・・・但馬?」
「オレ、応援しようと思ってたのに。出来ると思ったのに無理だった・・・新井さんが江口さんとのこと惚気る度に嫉妬したし苦しかったしオレヘタクソの癖に新井さんとエッチしたかった。すっごいすっごいしたい・・・したいよ・・・新井さん」
「但馬ぁ・・・」

心が緩む・・・但馬に見つめられるだけで熱を持つようで但馬の酔って潤んだ瞳に吸い込まれてしまう

「泣くぐらい気持ちよくできる江口さんが羨ましいよぉ・・・新井さんをすっごいすっごい感じさせたいよぉ」

抱き締められて但馬の体重を感じる・・・苦しませていた。ずっとずっと自分が楽なことを考えて但馬に酷いことを言ってばかりいたのだと自分の行動を後悔しながら新井は但馬にそっと触れると優しく撫でて名前を呼ぶ

「・・・?」

でも、反応もなくただ重たい但馬の体に但馬の寝息が響いてフフッと吹き出した新井は目尻に光る涙をそっと指で拭うと「和範、おやすみ」と笑って目を閉じた








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コイゴコロミズゴコロ3-30 - 03/30 Thu

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砂だらけになって戻ってきた新井と但馬を見て、予想通り高田が叫び声を上げながら2人の砂を落とすために腕を引いて外へ戻す

「ヤダ!もーーー!!!このままお風呂ー!!!」
「・・・オレの着替えまだある?」
「そりゃあるしっ!」
「新井さんもオレも着替え持ってきてない」
「もー!このまま待ってなさい!あーもー!!!」

バタバタと階上の自宅へと上がっていく高田を見ながら吹き出すと火を点けていないタバコを咥えた但馬の父、敏彦が外へと出てくる

「言うことは?」
「・・・あー・・・上手く行きました」
「え!」
「や、まだ行ってない?!っすね・・・まだ・・・ですね」
「や・・・あのっ・・・あのですねっ・・・親父さん、あの・・・オレ、その・・・」
「いいなー、親父さん・・・可愛い瑞貴くんに言われるとすごいイイ呼び方に聞こえる」
「ちょ!親父っ!何勝手に名前でっ・・・」
「オレの息子オレに似ててこいつの母親にも似てて全然可愛げもないけど瑞貴くんにならイイっ!」

焦る但馬と仲がイイ2人の関係に目を細める新井。本当にいつか入れてもらえるのかと思うと本当に欲しかったのは愛する人たちに囲まれて愛されることだったことに気付かされる

愛してほしかった。皆に見てほしくて愛されたくて愛したくて・・・
江口との未来はずっと一緒にいてくれるけれど、大きな隠し事をずっとし続けるということだから

「敏彦・・・若い子に優しいよねぇ?」
「はぁ?」
「どーせ僕はもうおじさんだし?!敏彦だって随分なおじさんだと思うけどさぁ、息子の恋人にデレデレするとかホンットヤダヤダ!あー、ヤダヤダ!」
「おい・・・何拗ねてんだよ。お前」
「新井くん、このエロ親父には気を付けてね!あー、ヤダヤダ!はいっ!これ!着替えっ!車の座席にシート張らないと・・・もー、ホントいい年してこの砂まみれっ!ヤーダ」

新井は「すいません」と謝ると敏彦が笑って手を振る

「あいつ、世話焼き体質だから好きなだけ世話焼かせとけばいいんだよ。ヤダヤダ言いながらカズが帰って来て嬉しいんだから・・・孫が来てもあいつだけテンション違いすぎる」
「・・・孫?」
「あー、こいつの上の兄貴はもう結婚して子どももいて、たまに孫連れてくるから」
「・・・そ・・・っか・・・あの・・・あの・・・但馬の」
「オレが孫連れてこられなくてももう問題ないだろ?親父と父さんの子どもは2人だよな?孫だって2人のだよな?」

新井の言いたかったことを但馬が横取りする形で敏彦に言うと敏彦はただニヤリと笑って但馬の頭を叩く

「バーカ。てめぇがオレらに気を遣ってホントに好きな奴諦める方がよくねぇんだよ」
「・・・親父さん、オレ、ダメな奴で但馬に助けられてばかりだけどっ、折角付き合ってくれた但馬とも別れて別の人と付き合ったけどっ・・・やっぱり但馬が好きだから全部全部終わったら海水浴来たいです」
「・・・おう?」
「・・・新井さん、ホント、頭混乱しすぎでしょ・・・オレは判ったけど多分意味わかんない。それ」
「え!海水浴、来たい」

本題がずれているけれどまぁ、新井だからと笑うと準備が全部できたと呼びに来た高田の車に乗り込む

「そういえば、母さんは?」
「仕事の途中で来たっつーからアイスコーヒー飲ませて帰れっつって帰らせた」
「あ、就職先は愛ちゃんがなんとかできるって言ってたけどさぁ、僕らもできるじゃん?大したお金出せなくてもイイならうちあるよー」
「・・・や・・・別にオレそういうつもりじゃなくて」
「でも・・・江口さんの言う就職先用意して一生一緒にいるってのに惹かれたんでしょ?」
「っ・・・」
「フハッ!和範それでフラれたのかー」
「・・・」
「違っ!!!あー、えっと」

賑やかな車内は目的地に着くまでずっと賑やかで戸惑いながらもすごく楽しくて幸せを感じていた






「やー、温泉はイイよねぇ。来ただけで僕テンション上がっちゃう」
「・・・です・・・ね・・・」

温泉と聞いてテンションが上がって忘れていたけれど、風呂へ入るということは全裸になるということで、体につけられた痕をどう隠し続ければいいのかと体を洗いながら悩む新井

「ねぇ、瑞貴くんでもイイ?」
「あ、はい」
「じゃあ、瑞貴くん、あの2人、体洗うの時間かかるからそれ、見られちゃう前にさくさくっとお風呂浸かっちゃおうか」
「・・・え!」
「つける方はホント考えてないんだよねぇ?その時の支配欲だとか興奮だとかで・・・」
「や・・・そのっ」
「カズがヤキモチ妬くかもしれないしー」
「っ・・・」

小刻みに頷いた新井は高田と一緒に湯船へ浸かる

「瑞貴くん、肌きれいだなぁ・・・若いなぁ」
「・・・いや、高田さんこそ」
「えー?僕のことはお父さんって呼んでくれないの?」
「・・・あ・・・」
「アハハー冗談だよー。・・・ねぇ。瑞貴くんはさー、カズのこと好き?」
「・・・っ・・・」
「や!軽い気持ちだよ?!軽い気持ちで好きか嫌いかって・・・父親に言い辛いことか!そうだ・・・僕父親だ」
「・・・オレ、ずっとずっと好きな人がいて、諦めて男漁りしてた時期があって、それ見た但馬が・・・オレに優しさと初めて付き合うっていうの教えてくれて、色々初めてをくれたんだけど・・・でも、でも、少し前にずっと好きだった人から告白されて、就職先もずっと先まで一緒にいるっていう未来用意できるのは自分だけだって告白されて・・・色々彼から将来のコト聞いてたら不安になって但馬と別れたけど・・・でも・・・なんか、オレ、自分で思った以上に但馬が好きみたいで・・・」
「・・・うん。うん?よくわかんないけど、好きってこと・・・であってる?!」
「あ、うん。合ってる。ちゃんと全部片付いたら但馬と戻りたい」
「っていうか付き合ってたの!?」

高田の言葉に頷くと「えー!」と口を尖らせて「なんで早く連れてこないんだよー」と文句を漏らす

「そりゃ、簡単に連れてこられるところじゃない」
「あ、但馬ぁ」
「・・・っす」
「お前催すといけねぇからこっちー」
「なんで親父がちゃっかり新井さんの隣陣取るんだよっ!っつかこの人の裸なんて見慣れてるっつーの!」

新井が頷いて但馬を見上げるのを見て「まぁ、温泉は別・・・だけど」と少し距離を取るのを見て敏彦が笑う

「瑞貴ちゃん、瑞貴ちゃん、あの・・・こんなおじさんでもカッコイイ?」
「え?!」
「だって・・・だってさぁ・・・」
「あー・・・えっと」

カッコイイと言えば、高田に悪い気がして、カッコよくないと言うと敏彦に悪い気がしてグルグルとどうしたらイイのか迷った新井は

「但馬がカッコイイですっ!」

と断言して但馬が吹き出すのを遠くで聞いた







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コイゴコロミズゴコロ3-29 - 03/29 Wed

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3人の親を離れた場所へ連れて行ったあとバツが悪そうに戻ってきた但馬は「少し出ましょうか」と新井に告げる

「・・・うん」
「あー、まぁ、何もないんだけど歩きます?」
「お腹苦しい」
「・・・ジャージ貸したほうがイイですかね?」

但馬の言葉に吹き出すと「歩けばすっきりするかも」と立ち上がる

「和範ー、お会計ー」
「後でするっつーの!っていうかツケとけ!」
「戻ってくる気あるんだな?」
「・・・判んないけど」
「新井くーんっ!夜近くの温泉行こう!連れて行ってあげるから戻って来てね!」
「・・・温泉!?温泉あんの!?」
「・・・ホント・・・父さん勝手だ・・・」

新井は頭を下げると喫茶店を出て行く・・・どう見てもイイ感じの息子たちにため息を漏らす3人

「あれ、付き合ってるでしょ?付き合ってないってなんなの?」
「カズはどこかヘタレてるからなぁ・・・」
「オレの息子の癖にホント情けない」
「でも、新井くん、あれ、和範に惚れてんよ?まぁ、あんだけイケメンに産んでやってその通り育ったんだ。惚れないわけがない」
「愛花、お前、仕事はいいのかよ」
「んー、超ダッシュで抜けてきたー・・・そのうち帰るわよ。周作、アイスコーヒー!」

高田が「はいはい」と腰を上げてコーヒーを淹れにカウンターへと入る

「でも、彼、きっと恋人いるのね・・・」
「・・・」
「結婚してる時の周作と同じような目をしてた」
「そうかもなぁ・・・」








何もないと但馬は言っていたけれど浜辺を歩くということ自体、新井にとっては珍しくて楽しいコト

「但馬ー」
「んー」

浜辺に足跡を付けたい!と靴と靴下を脱いだ新井が何故四つん這いで歩き始めたのかは全く理解できなかったけれど、靴と靴下を置いていくわけにもいかず但馬が持って四つん這いで謎の動きをする新井の後をただ歩く

「今日、但馬の両親に会わせたかったー?」
「・・・オレにも未来自体は作れるってどうしたら判ってもらえるかって考えて・・・無理して結婚しろとか孫見せろとか言わない親だと思うし・・・んなことしたら苦しいの本人たちが知ってるっつーか」
「うん・・・判ったー」
「・・・っす」

そして同時に但馬の、但馬を育てた人に会わせてくれたことを嬉しく思った

「幸せそうだったー!」
「まぁ、能天気っすよねぇ・・・オレは残念だけどそこら辺が全然似なかったんですけど」
「でんぐり返しー!」
「・・・砂まみれ・・・」

前転してそのまま砂浜に寝そべる新井

「オレ就職できないフリーターかもしれないけどそれでもイイ?」
「・・・え?」
「やー、オレ、バカだしー就職できないかもしれないけど・・・バイトぐらいかもしれないけど・・・イイ?」
「・・・ぁ・・・あ・・・それっ・・・」
「うん・・・それで・・・もし・・・もし・・・あの・・・そう・・・なったら・・・但馬のあの家族に入れてもらえる・・・のかな・・・」
「あー、やばい。やばい。今すぐ抱きしめたいんですけどっ・・・ここ外だしっ・・・抱きしめたら速攻勃つ自信ある」

頭を抱えて蹲った但馬に駆け寄ってしゃがむと「よろしくお願いします」と囁いた新井は素早く頬にキスをする
ビリビリと唇に感じて「静電気ーーー!!!」と叫んだ新井に我を取り戻した但馬が「うるさいです」と頭を軽く叩いた

「まぁ、まずは・・・江口と・・・あれだね。話すること・・・っていうか」
「・・・あ、待ってるんで・・・時間かかっても話してくれたら・・・」
「そんなのダメだよ。但馬苦しいもん」
「・・・今すぐ帰りたい・・・」
「え?」
「・・・新井さん・・・たい・・・です」
「?」

ぐいっと腕を引かれて耳元で「・・・したい」と囁かれると顔を赤くした新井に「但馬じゃないーーー!」と突き飛ばされて砂浜へ寝転がる

「だって、オレ・・・ずっと・・・キツかった・・・新井さんを知らないままだったら全然耐えられたのに江口さんが挑発するみたいに際どい場所にキスマーク付けてて・・・あーダメ・・・でも、江口さんと話してからじゃないと・・・っすよね」

但馬のすぐ隣に寝転がると薄暗くなってきた空を見上げる

「オレも逃げてた・・・但馬に捨てられるかもしれない未来から・・・でもさー、冷静になって考えたら・・・江口もずっとオレのコト好きでいてくれるって保証もないよねそしたらやっぱり1人だー・・・未来なんて誰も保証してくれないんだもんねー・・・」
「・・・ですね・・・」

手を伸ばしてきた但馬にそっと手を伸ばすと触れた瞬間またビリビリして「静電気ー!」と叫び、手を離した新井の手をぎゅっと掴む

「・・・?!」
「静電気・・・ですか?ホントに」
「でも、ジンジンビリビリ・・・するよ?」
「オレも今、新井さんに触れてる場所全部熱くてビリビリしてるよ」

静電気じゃなかったことを理解すると新井はただ掴まれ、掴んだ手を見つめて笑う
好きだなんて心よりも先に体が判っていた。但馬が好きだって全身で訴えていた。隠し事に慣れた心が気付かなくても体中が叫んでいた

「砂だらけでお父さんたちに怒られるかなぁー」
「・・・間違いなく父さんに怒られますね」
「父さんってどっちー」
「父さんは周作のほうで親父が敏彦です」
「オレもそう呼んでイイのかなぁー」

但馬は楽しそうに笑う新井を見つめて「はい」と頷くと今笑っているのが自分といるからだと実感してただ自分の欲を押さえるように新井の手を握っていた









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コイゴコロミズゴコロ3-28 - 03/28 Tue

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「・・・え・・・えぇっ!?」
「あ、引いた?ごめん・・・簡単に受けいられることじゃないとは思うけど」

新井は慌てて頭を横に振る
聞いてない。両親が2人とも同性だって聞いていない・・・初耳で、確かに新井がゲイだと但馬に言ってからも偏見も何もないと言っていたけれどまさか但馬の父がそうだったなんて知らなくて

「あ・・・わっ・・・や・・・オレっ・・・えーっと・・・オレも・・・っていうか・・・あ、や!違う!但馬は違うっ!違うっ・・・ますよ?!」
「え!違うの?」
「・・・但馬の優しさにオレはずっと甘えてるだけです」

高田が「ふぅん?」と言いながら立ち上がって新しく淹れたコーヒーを新井に出す

「あ!しまった!何も聞かずにホットコーヒー淹れてた・・・ごめん。飲める?」
「はい。ありがとうございます」
「・・・敏彦もすごい優しかったから判るよ・・・僕らね、学生時代付き合ってて、社会に出て暫くするとうちの親が結構年で彼女連れて来いとか結婚は早くしろ孫見せろってうるさくてさぁ、当時、就職先でも結構きつくて家帰ってからもキツくて・・・僕、逃げたんだぁ・・・優しくて僕らの関係知ってる子と浮気して・・・子どもできて。敏彦と別れた」

江口の言う通り、やっぱり親が色々言うから別れることになったパターンだと思いながらコーヒーを啜ると口を火傷して「熱っ!」と舌を出す

「えええー!大丈夫?ほら!氷水氷水ー!」
「や、いつものことなんで気になさらず続けてくださいっ!」
「・・・ホント?・・・まぁ、うん。別れてね、暫くは幸せだったけどー・・・ある日、奥さん病気であっという間に死んじゃってー・・・子ども1人抱えてどうしようー!ってなってたらさー、敏彦は敏彦で子ども産み逃げされたとかホントおかしなことになっててさー・・・2人顔見合わせて笑ったよ・・・あの時は」
「・・・それで・・・」
「うん。カズの母親がねぇ、敏彦と当時会社立ち上げてたのに「子ども育てろ」って追い出されて無職になってさー・・・色々あったけど2人で子どもたち立派に育てようってなってここ、借りて・・・今、2度目の青春謳歌中ーって感じかなぁ」
「・・・」

重いような話を軽々とする高田を見てどんな反応をすればいいのか判らないけれど、ひたすら幸せそうだと純粋に感じて小さく頷くと微笑むとニコニコとしていた高田が首を掴まれて「邪魔だ」と立ち上がらされ、湯気の立ったオムライスが2つ新井の前に出される

「はい。お待たせしました。オムライスです」
「・・・唐揚げまでついてるっ・・・」
「こいつに聞いたら唐揚げも好きだって言うからサービス」
「いただきますっ」
「・・・覚えてます?食べ比べですからね?」
「うん!但馬のがどっちかだよね!?」
「や、どっちが・・・旨いか・・・っつーか・・・」
「百年早ぇよ」

但馬が父親に頭を叩かれるのを見て、家族が少し羨ましくて笑う
傍から見れば普通じゃない家族。複雑だと言った但馬の言葉通り複雑で歪んでいるのかもしれない。でも、ここには愛情があふれていて・・・普通じゃない。恥だと追い出された自分とは違う。温かくて優しい気持ちになれる・・・

オムライスを口に入れると大好きな味が口に広がる

「どう・・・っすか」
「美味しい・・・」
「え・・・はぁ?!ちょ・・・ちょっと」

思わず涙をこぼした新井に慌てておしぼりを差し出すけれどただ首を振って笑顔を見せる新井にますます困惑し、2人の父に助けの視線を送る

「これってオレのオムライスが泣くほど旨かったとかかなぁ・・・」
「え!敏彦のオムライスそこまでじゃないと思うよ?」
「おいっ・・・おいっ・・・」
「色々溜め込んでたんだよねぇ?新井くん・・・イイよー。泣きなー。いっぱいいっぱい泣いていいよー」

高田は優しく新井の頭を撫でると新井は頷きながらオムライスをただ口へと運んでいく。幸せの味・・・どちらが美味しいかだなんて判らないどちらも美味しいし幸せな気分になるから。そう。幸せの味・・・





「ごちそうさまでした」
「さすが若いねー!2人前ペロリだー」
「・・・や、正直最後キツかった・・・苦しくて動けない・・・」

新井が腹を摩るのを見て笑って但馬が「デザートも?」と尋ねてきてすぐに迷う新井
苦しくてもデザートなら・・・いや、今ここに詰め込んだら大変なことになるかと悩む

「・・・うちは多分、ちょっと複雑なんで、オレが子ども作らないっつっても何も言わないと思うんですよね」
「・・・」
「だから、ずっと新井さんだけを・・・ってごめん!また困らせること言ってる・・・」
「でも・・・お父さんたちは・・・」
「まぁ、ホント就職先だけはオレにはどうにもなんないかもしれないっていうか・・・」
「あら?就職先ならうちに来たらイイんじゃないの?」
「っ!?」

急に頭の上で声がして顔を上げる但馬と新井。そして但馬が慌てて「なんで!」と女性に向かって叫ぶとすぐに父親の顔を見る

「和範が面白いことに新井くん連れて来たからってメールした」
「ちょ!!!」
「初めましてぇー!但馬 和範の生物学的な母親、浜村 愛花ですー」
「・・・ふぇ・・・はっ!!!新井 瑞貴ですっ!いつも但馬っ・・・くんにはお世話になってます!」
「やだ。この子、写真で見るよりテレビで見るより可愛いじゃない。和範!よくやった!」
「待った!待った!超複雑になってっから!母さん出てきたら余計複雑だから!っていうか新井さんが困るからっ!新井さんとは別にっ・・・」

但馬の3人の親が目を丸くして新井を見つめているのが判って新井が困ったように小さくなっていくのを見て慌てて但馬が3人の親を少し離れた場所へと背中を押して連れていくのだった









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コイゴコロミズゴコロ3-27 - 03/27 Mon

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柚木に自分の気持ちを明らかにされても但馬を選ぶことができなくて、江口から離れる決心もつかなくてとうとう但馬との約束の日を迎えた

但馬の実家にオムライスを食べに行く約束・・・

トントントン

但馬のノックの音だと顔を上げてドアを開けると「準備できました?」といつも通りの但馬。いつだってしっかりしていて優しい但馬が柿内の前ではすごくめんどくさいというのが想像できなくて頷くと鍵を閉めようとして鍵がないことに気付き但馬を困ったように見上げた

「・・・昨日着てた服は?」
「・・・ない」
「じゃあ風呂場」
「えー!そんなところにないよぉー」

新井は笑いながらバスルームへ向かうとドアの前に落ちているのを見つけて「エスパーだ!」と感動しながら但馬を尊敬の眼差しで見上げながら鍵を閉める

「なんでー?なんでー?」
「あんた、風呂入る時にポケットのモノ全部出してその場に置く癖あるから」
「そう?」
「そう!」
「そ・・・っか・・・」

自分の癖も知っている。いつも見ていてくれる安心感・・・江口だったら「瑞貴はバカだなぁ」というだけで一緒に探すこともしてくれないのではないだろうか・・・

「ねぇねぇ!やっぱり喫茶店!って感じなの?レトロなの?どーなの!?」
「・・・アンティーク・・・感・・・はある・・・かもしれない」
「えぇ?!アンティーク感!?古いの?!レトロとは違うの!?オムライス!」
「いや、突然オムライスって意味わかんないけど・・・オムライス2人前食えるくらいには腹空かしてください」

大きく頷いた新井と2人分の切符を買って電車に乗り込む
新井とこの電車に乗るのは2回目・・・あの時はデートの行き先が思いつかなくてただ一緒にいたくて自分の中で逃げ場を失くすために早めに終バスのなくなる地元のあの場所を選んだ。今日は違う。ちゃんとした目的も目的地もあって向かう故郷・・・

「電車の後はまたバスー?」
「いや、歩きます」
「駅近いの?」
「新井さんの近いと地元の近いは違うかもしれないけど、バスもこの時間微妙なんで・・・」

よく判らなかったけれど適当に頷いた新井も以前但馬と一緒にこの電車に乗ったことを思い出して少し笑う

「なんですか」
「ううん。前も但馬とこれに乗ったなぁ・・・って。あの時は行き場所も教えてもらえなかったけど」
「・・・っすね」

あの時とはまた状況も関係も違う・・・あの日、関係が不安になった。抱いてくれない但馬とはもう別れた方がイイと思った・・・でも、それも乗り越えて、今ここにいる・・・もう抱き合うような関係でもなくてただの元先輩と元後輩という関係でもない・・・じゃあ、この関係の名前は?親友?親友というのは新井にとっては柚木のような気もして、但馬との関係が上手く表現できないでいた



駅に到着すると海の香りがして思い切り空気を吸い込む

「海の匂いー!」
「もう少ししたら海水浴に来るって手もあったなぁ」
「あぁ!じゃあまた来る!」
「・・・っすね」

またこうやって一緒に出掛けてくれるのだと安心して但馬は先を進む
暫く歩くと海水浴場があって新井は「イイなー海!」と言いながら但馬の背中を追いかけてまた暫くして足を止めた但馬に顔を上げて建物を見上げる

「・・・え?」
「ここ・・・ですね」
「えええー?!なんか想像と違うっ!おしゃれっ!わかんないっ!アンティークってこーゆーこと!?すごいっ!え!普通のTシャツだけど大丈夫?!お財布大丈夫?!」
「や、実家だっつってんじゃん・・・」
「え!でも」

戸惑う新井を横目にさっさとドアを開ける但馬

「はい。いらっしゃい」

そう聞こえて顔を上げると但馬によく似た但馬の部屋から出てきた人がカウンターの中にいて新井は「ぁ」と小さく声を上げると入り口で固まった

「なんだよ。和範か・・・」
「カズーおかえ・・・り・・・って新井くんだー!!!」

テーブルを拭いていた大会で「但馬の父」だと話し掛けてきた男性が顔を上げるとすぐに2人に近付いて来て新井はこの状況がよく判らなくてただ頭を下げる
実家だと聞いていた。家庭環境が複雑だとも聞いていたけれど、どうして2人の父親が同じ店で働いているのかと・・・

「あ?何。今、忙しくないから手伝わなくてもゆっくり友達とコーヒーでも飲んでりゃいいのに」
「オムライス」
「あ?」
「あの人にオレのオムライスと親父のオムライス食べ比べさせる」
「へぇ?オレと勝負か?あ?でっかく出たなぁ?」

さっさと厨房へと消えていった但馬にどうしたらイイのか判らず新井はおろおろするがすぐに「こちらへどうぞ」と席を用意されて新井は頭を下げながら席へ着く

「絶妙な時間に来たなぁー・・・さすがこの店がいつ混んでていつ空いてるのか知り尽くしてる息子ー」
「・・・えーっと、挨拶もロクにできてないんですけどイイんですかね」
「新井くんでしょー?あ!僕!?あ、自己紹介してなかったっけ?高田です。高田 周作・・・」
「・・・あーっと・・・新井 瑞貴です」

苗字が違うと思いながら複雑だという言葉を思い出して黙り込む

「ふふー。但馬じゃないんだーとか思ったー?」
「や・・・えっと」
「カズー!僕らの関係言ってないのー?言っていいのー?」

厨房へ向かってそう声を上げた高田に厨房から「どうぞ」と但馬の声がして「そっかー」と笑った高田が再び新井の向かいに座る

「僕らの関係伝えていいって言うからにはカズの特別なんだねぇ・・・あ、そりゃ特別かぁ!カズは新井くん追いかけて行ったんだもんねぇ・・・僕はカズの父だけど血縁関係も戸籍もどこにも関係はないよ」
「・・・?」
「あっちがカズの父親。本物の」
「えぇ、似てます・・・よね?」
「でもねぇ、僕も父親。カズともう1人僕の子どもと4人で家族。僕も敏彦も2人で2人の子ども育てて来たからさー」
「・・・えっと・・・」

シングルファーザーが2組・・・ということかとよく判らないけれど納得したようにうなずくと急に高田が吹き出す

「あ、ごめん。なんか新鮮だったからー・・・ここ来る人たちはもう結構受け入れちゃってるからさー・・・オレらゲイカップルね」






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コイゴコロミズゴコロ3-26 - 03/26 Sun

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「うっわー。超めんどくせぇ!酔ってなくてもめんどくせぇのに酔ったら酔ったで超めんどくせぇ!!!」
「そんなこと言って!!!大体なぁ?オレの気が済むまで飲んでメシ作るっつったのお前だからなぁ?!」

柿内は何時間も絡まれてうんざりした顔で目の前で赤い顔をした友人に冷たい視線を送っていた。祝いの席になると思っていたけれど、やっぱりフラれたとやってきた但馬に約束通り酒を出し、料理も作ったのだが、酔っぱらった但馬がこんなにめんどくさいとは思わなかった
一緒に住んでいる柚木はめんどくさいことを予感したのかさっさと出て行ってしまったし自分の部屋に2人きりという状況に逃げることもできず今日何度目かのため息か判らないため息を吐き出した

「どーせオレは弱いですよー。ダメですよー」
「でも勝ったんだろ」
「勝ちましたよー!勝ちました勝ちました。大会新まで出せましたー!けどレースに勝ったところで選んでもらえるわけじゃあありませーん」
「・・・めんどくせぇ・・・」
「イイんだー。オレなんて。2番手でイイー。新井さんが江口さんを好きでもオレの所に江口さんの愚痴だとか惚気だとか言いにくりゃあーイイんだよー。どんだけ新井さんにキスマークついてたってべーつにオレはイイんだー・・・イイけどー・・・イイけどぉ・・・」

但馬が新しい缶に手を伸ばしたのを見て慌ててそれをひったくる。が、また奪われる

「飲んで忘れろっつったのお前だからなー!柿内はイイよー!柚木さんとずーっと幸せーラブラブー!あー!イイね。イイよ。すっばらしー!クソっ!お前羨ましいんだよ!大体なぁ!なーんでお前は柚木さんにずーっと愛されるんだよっ!なんでオレはダメなんだよっ!」
「・・・これ、ムービー撮って新井さんに送りつけたらすげぇ色々解決しそうだよな・・・」
「新井さんはオレのコト好きっつってんのにダメなのはやっぱりあれか?顔?・・・おい!柿内!なんでお前そのツラで柚木さんにずっと好きって言って貰えてんだよっ!オレがダメでお前がイイっつー理由を言え!」
「・・・すっげぇ腹立つ奴だったんだな・・・お前・・・っつか溜め込みすぎだろ・・・」
「っていうかー!っていうかぁー!決勝当日にキスマーク付けて来て調子万全に戻るってさー!なんだよー!宿戻って何してんだよぉー!セックスしたら調子戻るとかーーー!レース前は体に負担掛けないよーにとかそーゆーもんじゃないんですかねぇ?あぁー!もー・・・あれか?オレがヘタだったからぁー?江口は上手いとか言ってたその差ですかー!気持ちよすぎて毎回泣いちゃうとかなんでオレに聞かせるんだよ!バーカ」
「呼び捨てになってるし・・・」

めんどくさいならもう話なんて聞かずに適当にしていればいいのにちゃんと聞いてツッコミまでしてしまうのは柿内の性・・・

「柿内!正直に言うぞ!オレは正直に言う!」
「めんどくせぇ・・・」
「セックスがしたい」
「うっぜぇ!!!」
「イイだろ!お前はいつだって好きにできる人がいるんだから!オレなんてなぁ!オレはなぁ!!!・・・お前にこの気持ちが判るわけなーい!同棲しちゃってやりまくりの毎日のお前になんかー!」
「あー、めんどくせぇ・・・ホントめんどくさい・・・柚木さん早く帰って来て・・・」

柿内は膝に頭を埋めると横へ移動してきた但馬にそれからも何時間も絡まれ揺らされ続け、人に揺らされ続けても酔うということを知った









「・・・またなんでオレは正座させられているんでしょうか」

困った顔をしながら自分の部屋で腕を組み、難しい顔をしている友人の顔を見上げる新井

「但馬に説教しようかと思ったけど但馬すげぇめんどくさいことになってるから柿内に渡してきた。だからオレは瑞貴に説教する」
「・・・や、なんでまた・・・っていうか但馬も何してんの・・・」
「コトの経緯は全部但馬が酔っぱらう前に説明したから理解した」

柚木の部屋で酔っているのか・・・と納得したが、酔ってもそうめんどくさいタイプの人間じゃなかった気がして首を傾げる

「折角、但馬が必死で江口に勝って瑞貴が江口に彼女と別れろって言えるようになったのになんでそれ断ってんだよ」
「そりゃ・・・江口はそれでいいから」
「何がイイんだよ」
「・・・オレ、嫌われたくないし」
「はぁ?」
「だって、そんな・・・重くてめんどくさいこと言ったら折角ずっと一緒にいてくれるって言うのに邪魔臭いって思われるかもしれないでしょ・・・だからそれを我慢すればいいならオレは」

柚木は頭を掻いて新井の近くへ座り直すと俯く新井を覗きこむ

「なんで付き合ってんのに我慢すんの」
「そりゃ・・・好きだから・・・っていうか、オレは流ちゃんとカッキーとは違うもん。江口はオレのコト好きって言ってくれるけどカッキーみたいに流ちゃんがいなくちゃダメ!な感じじゃないもんっ!」

また人と比べるのか・・・と思いながらもどうしたものかと柚木はため息を吐き新井の頭に手を乗せる

「あいつもオレがいなきゃっつーわけでもないとおもうけどなぁ・・・オレはあいつのこと好きだからあいつにだけワガママ言う。めんどくさいことも言う」
「それは」
「っていうか、瑞貴、お前、但馬には結構言ってるだろ」
「・・・だって、但馬・・・許してくれるし」
「瑞貴が全面的に悪い」

悪い・・・そんな判り切ったことを言われて新井は体をますます小さくするけれどくしゃりと頭を撫でられると顔を上げて親友の整った顔を見つめる

「オレはそれでも瑞貴の友達だから許すけど、但馬には女なり男なり紹介するから」
「っ・・・」
「あれはダメだ。あんなに凹んでたらもう誰か無理矢理宛がうしかねぇわ」
「・・・だよね・・・それはオレに何か言う権利なんて・・・」
「言いたいのか?」

新井の瞳が揺れる
どうしようもない独占欲。江口を選んだのに但馬とは付き合えないと突っぱねたのに今、柚木に但馬に誰かを紹介すると聞いてそれは嫌だと叫びたい・・・

「但馬はなぁ・・・どっか積極的だけど放っておけないタイプで・・・顔はどんなんがタイプなんだぁ?元カノだと競泳女子の香織ちゃんー?」
「・・・」
「っつかあいつ、今フリーだったよな・・・香織ちゃんさえよけりゃ但馬のコト判ってて1番イイ相手なんだけどな・・・」
「っ・・・ヤダぁ・・・ヤダ・・・ヤダヤダヤダっ!」

柚木の体にしがみつくと必死に首を振って懇願する新井
但馬があの優しい目で優しい笑顔で優しい手で誰かを抱きしめ撫でる・・・そう考えたら誰にも渡したくなくて・・・ワガママ。判っている。自分が悪い。何も言う権利なんてない・・・言えない。でも言いたい

「瑞貴ー・・・今、自分の気持ち1番判ってるのお前だろー・・・」
「っ・・・ヤダ・・・」
「江口には自分のほかにも恋人がいてもよくて但馬はダメとか・・・さぁ・・・」

柚木は全部判っていたかのように新井の頭を抱きしめると撫でる
こんな自分の気持ちもちゃんと判らないようなダメな親友にはダメでも芯はしっかりしている但馬に任せたい。早く幸せになってほしい・・・









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コイゴコロミズゴコロ3-25 - 03/25 Sat

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米が炊きあがって少し待つとケチャップライスのいい香りがしてすぐに黄色い玉子の上に祝と書かれたオムライスと隣に添えられた唐揚げが目の前に出てきて「わーい」と声を上げる新井

「いただきます」
「いただきます・・・そして、おめでとう」
「あ!うんっ!おめでとうっ!」

スプーンを入れるとケチャップライスと少し甘い玉子が口の中に広がる

「美味しいー」
「オムライスでできてんですか。あんたは」
「あのねー、こないだコンビニで買ったオムライスいまいちだったー」
「・・・はぁ?」
「但馬のオムライスが1番美味しい」
「・・・」

少し笑った但馬は顔を赤くして俯く
こんなときに柿内の言葉が頭に浮かんで軽く頭を横に振る。胃袋を掴んだら強みだと言っていた・・・それが本当なら毎日でも新井の好きなオムライスを作るのに・・・

「但馬、すごかったね!こー・・・なんていうかバシャバシャースススー!みたいな」
「・・・なんていうか今すっげぇあんたの語録のなさにがっかりしてる」
「うーん・・・江口は調子良くて、タイムも悪くなかったのに但馬は勝った!だからすごいよ」
「・・・賭けてたんで」
「・・・うん」

新井は困ったように手を止めて但馬の顔が見れなくなる
オムライスにつられてついて来てしまった。憧れていた2人での祝賀会に浮かれて2人きりの空間・・・別に江口を裏切るわけでもないし、こんなに困ってしまうのはこの後、但馬に言われるだろうことを受け入れられないから

「新井さんを困らせたいわけじゃないよ」
「・・・」
「たださ・・・オレ、ずっと逃げることしか考えてなかったから・・・新井さんにちゃんと伝えないとって・・・思っただけだから」
「但馬、オレ・・・但馬とはもう戻れないよ!?だから」
「うん。知ってる」

優しい目で微笑まれると心臓が掴まれたみたいに胸が痛む・・・こんなにも好きなのに2人と同時に付き合うことはできない・・・

「オレは江口さんみたいに新井さんに就職先、用意することもできない・・・でも、オレは新井さんがいれば誰とも付き合わない。新井さんだけを見てる」
「・・・でも・・・」
「新井さんを1人にしないよ?勝つとか負けるとかじゃなくて・・・うん。色々と負けるてるとは思うけどさ・・・」
「・・・江口が・・・好き・・・ずっと好きだった」
「・・・うん。そうだよね。知ってるよ」

知っている。ずっと片想いしていたのを知っている・・・

「但馬のことも好き・・・好きだよ・・・」
「うん。ありがとう・・・オレ、自分で新井さんの手を離した。新井さんを困らせるからって。でも、ホントは新井さんのせいにして逃げただけ・・・でも、柿内に怒られて、めちゃくちゃ叱られて・・・励まされて・・・江口さんが彼女と別れないしこれからも彼女作るって言う新井さん見てやっぱり伝えなくちゃって思った」

顔が上げられない。顔を上げたら優しい目が自分を見つめていることを知っているから・・・

「新井さんが江口さんを好きなのも判ってるよ。江口さんの強気で強引なところも好きなの知ってる。全部オレにはないし、オレから見てもカッコイイことだって憧れるから判ってる。でも、でもさ・・・オレはあんな風に人を引っ張る力もないし、強さもないけど、新井さんがオレを選んでくれたら新井さんとずっと一緒にいることはできる・・・情けないのは判ってるからそれもこれから頑張って強くなるから。少し時間はかかるだろうけど新井さんを守れるくらいには強くなるから・・・これだけは・・・言いたくて・・・」

痛い痛い痛い痛い痛い・・・心臓が・・・目の前のオムライスは大好きで、お腹も空いているから早く食べたいのに口へと持っていけない。胸が締め付けられすぎて・・・苦しくて
応えたい。今すぐ。今すぐに・・・好きだと言って抱きついて抱き返してほしい・・・でも、でも・・・

「ご・・・め・・・」
「うん。イイよ。今のままでもイイ。あとは新井さんが江口さんにちゃんと言うだけ」
「?」
「彼女と別れてほしいって。自分だけ見ててくれって」
「・・・言・・・ないっ・・・言えるわけないっ!」
「新井さんだけが苦しいのはダメでしょ」
「苦しいよっ!苦しいっ!でもっ・・・苦しいのオレだけじゃない・・・でしょ」

今、1番苦しいのは但馬ではないのか・・・好きだと言ってくれたのに・・・結局江口を選んだ自分に好きだと言ってくれたのにそれを断ったのだから・・・自分だけじゃない。苦しいのは但馬も・・・

「イイ・・・イイっ!」
「なんで・・・」
「但馬、苦しいから・・・オレだけじゃない・・・ダメ・・・頭も心臓もおかしくなる・・・オレ、但馬が好きだよ。これ、本当・・・本当・・・だけどだけど・・・」
「新井さん・・・」
「ホントは勝ってほしくなかった!でも勝って欲しかった!わけわかんないだろうけどオレもわけわかんない」
「ごめん・・・オレ、ホントに新井さんを困らせたいわけじゃなくて」
「結婚して子ども作って・・・それでもたまに思い出して頭撫でてくれて抱きしめてくれたらそれでいいんだよ・・・オレなんて・・・オレだけって言われて捨てられて1人ぼっちになるよりもずっとイイ・・・」
「それ、新井さんの正直な気持ち?」

新井は少し迷った後小さく首を振り頷く。きっとどちらも正解・・・

「・・・新井さん・・・今度、オレの実家の喫茶店・・・行きませんか」
「・・・え?や、でもオレは」
「オムライス、まだまだ親父を越えられないんですよねぇ・・・」
「もっとおいしいの?」
「玉子が絶妙な焼き加減・・・まぁ、めちゃくちゃ特訓させられたから近付いてはいると思うけど悔しいけど敵わない」
「・・・オムライス食べに?但馬の実家?」
「んー、っすね・・・」
「・・・行く・・・」

但馬は笑って「じゃあ、とりあえずこの話し忘れて食いましょう」と新井の下ろしたスプーンを手渡す

「・・・但馬のオムライス美味しい・・・」
「じゃあ、今度親父のオムライスと食べ比べしてくださいね」
「あー!じゃあー2人の並べてどっちが但馬のか内緒にして出してね?で、但馬の当てるー!」
「いや、そういう・・・まぁ、なんでもいいや・・・」

オムライスを口に運ぶ新井を見て「話は終わり」と言ったらすぐに切り替えられる新井に感心しながらただ微笑んでいた。今のこの瞬間が楽しくて幸せだったから
自分は2番手でもイイ。新井の苦しみも悲しみも判ってあげられる存在でいられればそれで・・・皆はきっと納得しないのだろうけれど2番目に好きでいてもらえるのなら好きでいてもらえるのならそれで充分






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コイゴコロミズゴコロ3-24 - 03/24 Fri

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もし、但馬に再度告白されて、但馬を選んだらまた優しく笑って優しく撫でてもらいながら優しい言葉を近くで聞ける・・・そう思ったら胸が熱い・・・手を握って開く。繰り返しその動作をすると錆びていた体に油を差したかのように動く手・・・

「・・・」

但馬のことが好きかと問われれば好き。でも、これからのことを考えるとやっぱり江口が好き。今までもずっと江口のことが好きだったのだからこれからももっともっと好きになるかもしれない
それでも忘れられない但馬の手・・・江口と同じように大きくてゴツゴツしている男の手なのにいつだって優しくて温かい但馬の手・・・
小さく笑うと戻ってきた但馬と目が合って頭を下げられてすぐに「おめでとう」とう言いたかったのに言葉が出てこない・・・

「瑞貴ーーーっ!」
「うわぁ!江口ー!お疲れ様ー」
「負けたーーーっ!但馬に負けちゃったよぉー!慰めろー」
「アハハ」

ふざけたようなじゃれ合いが皆の前でもできるのはそれが江口と新井の関係だから・・・新井がわざとらしく「よーしよし」と頭を撫でても周りは気にしない。仲のいい友人関係・・・但馬は少しだけ目を細めるとすぐにその場を離れて喜んでくれる同学年のチームメイトたちに囲まれる

まだ震える手と皆の祝いの言葉がジンジンと胸に熱く響いていた









閉会式を終えると、移動しながら祝賀会の打ち合わせと軽いミーティングが行われ、バスが大学へ着くまで各自、寝たりゲームをしたりと好きに過ごす

「戻ったら今日、明日はゆっくり体を休めること。お疲れさん」

皆、バラバラへ捌けていく・・・新井は江口の肩を掴むと「今日は?」と尋ねた

「あ?」
「え・・・っと・・・そのまま帰る?」
「んー、今日は約束がある・・・かな」
「そ・・・っか!じゃあ、お疲れっ」

約束・・・それがすぐに彼女との約束だと判って笑顔を作る新井。2人でそろってインカレへと進める祝賀会をして、昨晩の続きがしたかった・・・

手を振って江口を見送ると後ろに但馬がいるのが判ってそのまま歩きはじめる。どうにか逃げたかったけれど、それでも同じマンションに住んでいるのだから逃げることもできなくて気まずい雰囲気のまま歩く

「・・・新井さん」

暫く無言で歩いていたけれど、声を掛けられて足を止め、振り返る

「腹、減ってないっすか?」
「・・・え?」
「今日冷蔵庫になんもないんでオレ、買ってくか食っていくかしようかなって思ってたけど新井さんどうします?」
「・・・うん、オレもないよ」
「食っていきます?」

一緒に食べるのもどこか今の気持ちのままでは気まずい・・・だからと言って買ったら部屋で一緒に食べることになるのかと思うとそれも気まずい気がして

「・・・あー、でも、オムライスぐらいならできるかなぁ・・・」
「え?」
「オムライス」
「オムライス好き」
「・・・コンビニ寄るけどデザート買います?」
「でも・・・」

困った顔をした新井に笑う但馬

「警戒しなくても大丈夫だって・・・いつも通りの新井さんは?」
「デザートはアイス・・・」
「はいはい。奢りますよ」
「え!なんで?!」
「調子戻ったみたいだし見事インカレ出場決定だから?」
「そんなのっ・・・但馬の方が・・・すごいじゃん・・・」
「・・・うん・・・だから・・・オレのワガママ付き合ってもらえません?」

ワガママと言われて首を傾げる新井

「一緒に祝ってください。オレ、勝ったんで・・・気が早い祝賀会」
「・・・うんっ!イイよ!イイっ!やる!」

江口としたかった2人きりの祝賀会。でも江口には与えてもらえなくて、その代わりに但馬が与えてくれる。欲しいモノ、したいことを与えてくれる但馬・・・

「ねぇ、但馬ー!但馬ー!オムライス!ケチャップで祝!って書いてー!」
「はいはい」
「あとねーあとねー、ホントはプリンの隣にアイス乗っけたい」
「はいはい」

コンビニでいつも通りの新井に戻ったと小さく笑うと新井の望む通りの品を買い物かごへと入れていく

「あ!但馬ー但馬ー!」

レジの前で唐揚げを見た新井が声を上げたのを見て「これも?」と聞くと新井は首を振る

「オレが買って但馬にあげる」
「・・・?」
「但馬の大会新祝いじゃ安すぎるけど・・・」
「・・・や、嬉しいですけど」

この唐揚げが好きなのは新井さんですよね。という言葉は飲み込んでただ楽しそうに笑う新井を横目で見つめていた





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コイゴコロミズゴコロ3-23 - 03/23 Thu

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チームメイトはただ息を飲む。応援することも一瞬忘れて但馬の気迫とそれを受ける江口の泳ぎをただ見て声を失った
明らかに2人ともいつものレースの状態じゃなかった
それはターンした時のタイムからも判ること。2人の独走・・・中央2人が飛びぬけて速いレース

「但馬ぁー!このまま行けぇぇぇぇぇぇっーーーー!」

但馬の同級生が上げたその声に皆気付き、応援を再開するが、新井はただ口元を押さえてレースの状況を見つめる
力強く水を掻く様子、キックし、上がる水飛沫の様子・・・但馬が勝ったらまた告白してくれると言った。それは避けたい。でも、勝って欲しい、告白してほしい。但馬からの愛を聞きたい・・・そう思う矛盾した気持ち

レースの決着がつくのに1分もかからない。水飛沫を上げてタッチをした2人。チームメイトからも判らないその勝負の行方・・・ただ振り返って電光掲示板を見るとタイムの前にGRという文字・・・

「大会新・・・」
「但馬が・・・やった・・・江口に勝った」

わぁぁぁーと盛り上がる中、信じられないという目で電光掲示板を見つめて震える新井・・・実力はあった。でも、安定しないタイムと、ここまで伸びると思わなくて・・・





「・・・くっそ・・・」

但馬のタイムを見て小さく悪態を吐いた後、隣のコースで電光掲示板を見つめていた但馬に手を伸ばす

「・・・あ」
「よくやった」

そしてがっしりと握手し一瞬水の中に沈んだ後、プールから上がる2人

「あー、ちっくしょ。調子よかったのにな・・・」
「っすね・・・」
「なんだよ。余裕かぁ?」
「や・・・自分でも驚いてます」

情けなく笑った但馬にいつもの但馬だと笑った江口は但馬の背中を叩いてペチンと音を鳴らす

「遅ぇんだよ・・・力出すの」
「・・・どうせミジンコメンタルなんで」
「そのミジンコメンタル、克服したらこのタイム出るっつーなら早くミジンコメンタル克服しとけっつー話だ」
「・・・治そうと思って治るもんでもないんで」
「あーあー、オレ、今年で最後だもんなぁ・・・あーくっそ。オレの名前消えたしー」
「そういえば、江口さんの記録でしたね・・・」
「おう・・・オレの記録だっつーの!この地区最強だったオレの記録ーーーーっ!ちっくしょ」

純粋に悔しがる江口が微笑ましくて笑う但馬
ずっと勝てるわけがないと思っていた相手。もっと早くに挑めばよかった。最初から勝てるわけがないと諦めて心にセーブして同時に体もどこかセーブさせられていた感覚・・・解放したらこんなにもライバルとして気持ちよく話せたという事実

「まぁ・・・?賭けはお前の勝ちだ・・・でも、何も変わんねぇよ?どーすんだよ」
「・・・強引なところも江口さんのイイところであの人が惚れてるひとつだとは思うんですよ・・・でも、遮らずに新井さんの話、聞いてあげてください」
「・・・で?お前は?瑞貴をオレから奪うとかそういうのねぇの?」
「強引にっていうのはオレ・・・向いてないんで」
「・・・まぁ、お前っぽくはねぇけど」

タオルでガシガシ濡れた頭を拭くとまだドキドキしている心臓に勝ったという実感がやっと沸いて来て指先が震える

「でも、伝えることはしたいです・・・」
「あぁ?」
「そりゃ、オレも男だし、欲はあるんで付き合ってほしいとは思うんスけど選ぶのは新井さんで決めるのはオレじゃないんで」
「・・・」

なぜそこで諦められるのかが江口には判らない。どうしても欲しいモノならば、どんな手を使ってでも自分のモノにするべきで・・・最初からどこか諦めて他人の手に、感情に任せたような言い方が気に入らない。尤も、無理矢理自分のモノにする。そう言われてもやっと手に入れた新井を手放すわけでもないけれど

「あいつが好きなのはオレだぞ?」
「えぇ・・・最初から聞いてますよ」
「・・・あいつの話聞いてやって、別れてほしいとか言うと思ってんのか?」
「いや・・・そうなったらすっげぇ嬉しいんですけど・・・どうですかね・・・」
「ホント意味判んねぇやつだなぁ・・・お前」

但馬は「ですよね」と笑った







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コイゴコロミズゴコロ3-22 - 03/22 Wed

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朝、目を覚ますと昨晩、結局新井は来なかったと思いながら背伸びをする

「なぁ、但馬ー!お前、今日マジで頑張れよ?!」
「あー、まぁ、頑張る」
「お前オレら3年の希望だっつーの!上にも下にもすごい選手いるのに丁度オレらの年ってイマイチだったけど但馬ならもしかするともしかするじゃんっ!っつーかなんだよ。この調子いいのってなんかやっぱり精神的なもんなの?!お前にとっての麻薬みたいなやつがあんの!?」

同学年のチームメイトたちに囲まれると苦笑する
精神的な調子としては最高とは言えない。恋人だった人は長年好きだった親友と付き合うことになったし、その背中を押したのにやっぱりこの気持ちに決着がつかなくてずっと腹の中にモヤモヤがある

「江口先輩にも勝っちゃうんじゃね?」
「そしたらそしたらっ!来年は但馬が部長だよな!」
「あー!そうだ!部長だー!」
「・・・気が早ぇし・・・オレ、部長って柄でもない」
「・・・まぁ、確かにー」

皆で笑いあう。新井も3年だけれど、本来は4年だからここではなく、4年の部屋に居る。新井は登録の関係で今年ラスト・・・悔いのない泳ぎをして欲しい・・・そして、自分の泳ぎも見てほしい
江口との戦いも見てほしい・・・







朝から会っても目が合わない新井。避けられているのは判っていたけれど、それが昼になってたまたま人が周りにいなくなって2人きりのような状況になっても呼びかけにも無視されるとは思ってもなかった

痛い苦しい。逃げたい・・・自分が何のために江口に戦いを挑んだのか判らなくなる

避けられている人間のためにどうして・・・?
新井のために江口に戦いを挑んだのにどうして・・・?

色々な考えが浮かぶけれど頭を小さく振って拳を握る
新井のためじゃない。自分のため・・・そう。自分のため。自己満足のために戦うのだ。色々な思いを断ち切るために。弱い自分と決別するために

但馬が立ち上がるとその時、一瞬見えたのは新井の首筋に小さく赤い痕
どうして避けるのか・・・理解し、小さく自嘲すると歩き出す
あの時と同じ・・・牽制。そして江口のモノだという証・・・もしかしたら江口が但馬を動揺させてタイムを落とさせる作戦かもしれない・・・でも、不思議と動揺はなかった。今、新井が江口のモノなのはわかっていること。ずっと好きだった相手に好きだと言われてこれからの未来を提示されて江口と一緒にいることを決めたのは新井だから
けれど、江口が話を聞かなくて、新井の本当の気持ちを知らないから。それは解消したい。余計なおせっかいかもしれない。でも、新井は本当は江口が彼女と別れないことも、これからもそれが変わらないことにホントは心を痛めていることを知るべきだと思うから・・・新井だけが苦しい状況をどうにかしたい。ただそれだけ



「但馬ぁー」
「はい」
「浮かない顔してるけどちゃんとメシ食ったか?」
「・・・えぇ」
「ふーん?お前が食ってる所昨日から見てねぇけど、勝てなかった言い訳にすんなよ?」

食事はあの時からあまり喉を通らない・・・それは変わらない。だからこそ今のタイムがおかしい。でも、本当に体は自然に動くのだ

「まぁ、お前が勝っても負けても何も変わんねぇよ。オレは瑞貴の話よーく聞いてやってるし」
「・・・」
「瑞貴もそう言ってた」
「・・・言わせたんじゃないんですか?」
「言わせた?オレが?んなわけねぇだろ」
「・・・今、オレが何を言える立場でもないんで・・・でも、勝ったら別です。話聞いてもらうし、伝えることも伝えます」
「・・・お前、ホントに但馬かぁ?但馬っつったら・・・何も言えねぇ奴だろ・・・」

江口の言葉に苦笑する
但馬じゃないよう・・・それは但馬本人が1番思っていること

「オレ、新井さんと別れるときに弱虫な自分とも別れたのかもしれないです」
「へぇ?」
「じゃあ、すこし体温めてくるので失礼します」

頭を下げて会場を出ると少しストレッチをしてから会場周りを軽く走る
自分の欲をもっと言えばたくさんある
新井を自分のモノにしたい。無理矢理にでも彼女を作る江口よりも自分の方がずっとイイ。そう言いたい。でも、強くなると誓ってもそうは言えない。新井の気持ちを優先したいから。好きだから。大事だから・・・ずっとずっと憧れて大切にしていた人だから








泣こうが笑おうが逃げようが戦おうが江口と賭けをした勝負はこのレースで決まる・・・
勝負は単純。この飛び込み台を蹴ってターンして早く帰って来た方が勝ち。判りやすい戦い・・・

笛の音が響くと周りのざわめきもだんだんと聞こえなくなってきて前屈体制を取る膝を曲げて爪先に力を入れて台を蹴る準備・・・電子音が聞こえた瞬間に力の入った爪先を蹴って水へと飛び込む

水を蹴る
水を掻く

ただインカレ出場を賭けたレースじゃない。1人の人間を愛する2人の戦いが始まったのだ








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