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透き通るブルー12 - 05/31 Wed

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授業が終わり、HRを終えるとすぐに巴の名前を呼びながら振り返る高尾

「・・・巴くんならもう出てったけど」
「・・・クソ」

すぐにカバンを掴むと教室を出て追いかける高尾。廊下を曲がって階段へ向かう巴の背中を見つけてすぐに走って追いかける

「巴っ!巴っ!!!待てって!」

高尾の声は聞こえているハズなのに止まらない巴に高尾はショートカットして階段を半階分ジャンプして降りる

「っ!?な・・・ばっ・・・な・・・」
「ヘヘー!追いついたぁ」
「バカ!何した!バカっ!ケガでもしたら・・・」
「んー、足痛い」
「なっ・・・」
「でも巴止まったー」
「立てるか?」
「足痛いー」
「バカ」

巴はため息を吐きながら高尾に肩を貸すと立ち上がらせる

「歩けるか?」
「んー、まぁ、いやー、痛い」
「・・・おぶってやろうか?」
「保健室連れてってくれんのー?」
「ホントは放置して帰りたい」
「ハハー!でも巴優しいから置いていけないんだろー・・・肩貸しててー!」
「ん・・・」

ゆっくりと階段を降り始めると帰り道を急ぐ生徒に「高尾どしたー?」と何度も声を掛けられる。これなら放置して帰っても誰かが助けてくれただろう・・・そう思いながら巴は高尾に合わせて足を出す

「飛び降りたら足捻ったー!」
「バカじゃね?」
「ハハ。真似すんなよー?結構痛い」
「じゃーなー!また明日なー!」

高尾に声を掛ける人間はたくさんいるのに、巴がそこにいるからか一緒に保健室まで付き合おうという人間が皆無なのが気になる。それは自分のせいなのか、皆、薄情者なのか・・・

「巴ー」
「何」
「昨日ごめんなぁ?」
「・・・別にお前は悪くない。オレの方が・・・」
「んー?」

高尾まで帰らせることになってしまったのは巴も反省している。折角一緒に何か食べに行こうと誘ってくれたのにそれすらも高尾が気を悪くしそうな態度で帰ってしまったのに、高尾はそれも忘れているのか・・・

「オレさー、山辺にもよく言われるけど無神経らしいからー」
「・・・そんなことないだろう」
「傷つけるつもりなくても傷つけてることたくさんあるらしいしー・・・だから巴も傷つけたんだろうなぁーって」
「バカだとは思うけど無神経だとか思ったことはないよ」

階段を降り切ると保健室への廊下を進む

「でもさー、今日昼飯も巴いなかったじゃん。オレと顔合わせるのも嫌だったんだろ?」

高尾と顔を合わせるのが嫌だった・・・のではなく、どんな顔をしたらいいのか判らなくて逃げた・・・そしてそれを高尾が気にしているのも判っていたけれど、判っていたからこそ帰りもすぐに逃げた。そして高尾がケガをする羽目になった・・・

「高・・・」
「保健室とーちゃーくっ!センセー!センセー!足痛いー!」

巴は自分の方こそ謝らなくてはいけないことがたくさんだと言いたかったのにタイミング悪く到着した保健室。勢いよくドアを開けた高尾に何も言えなくなって再び口を閉じる

「あぁ、高尾かー・・・今日は何やったの」
「階段から飛び降りたら足痛い」
「残念だなぁー。バカにつける薬はないんだー」
「酷っでぇー!」

どこに行っても高尾は高尾だと認識されているし、高尾の周りは笑顔で溢れていてたまに息苦しくなる・・・自分は高尾の友達でもイイのかと考えてしまう・・・こんなにも一緒に泳ぎたいと思える友人と諦めていたのに出会えたのに高尾はたまに眩しすぎるから

「ん、折れてはないっぽいけど念のため病院行ったほうがいいね」
「ほーい」
「もう2度と階段から飛び降りたりするなよ?」
「それはー約束できないなぁー」
「なんだとー?」
「だってこいつがオレを無視して帰ったらやっぱりまた飛び降りる」
「ほぉ・・・じゃあ、キミ、高尾はうるさい奴だけど無視しないこと」
「・・・はぁ・・・」
「はい!んじゃおしまい!帰れ帰れー!テスト勉強しろー!」
「テスト勉強しなくてもオレは天才だから!」
「はいはいはいはい」

足首に湿布を貼ってもらっただけで部屋を追い出される2人。手当てはしてもらったけれどそれですぐに痛みも引くわけでもなくて高尾は再び巴の肩に腕を回す

「あー、この時間じゃあまだ兄ちゃんも帰って来てねぇしなぁー・・・うちさー、母さん運転できないし、父さんも夜遅いからさー」
「・・・」
「ちょっと時間潰すの手伝ってくれね?家までこの足で帰るのキツイ」
「そうか・・・そうだな」
「よし。んじゃーとりあえず兄ちゃんにメールしとく」







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透き通るブルー11 - 05/30 Tue

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先に部屋を出て行った巴を追いかける高尾

「巴ー!待てよー!巴ー?」
「・・・」

高尾の声に足を止めて振り返る
顔が赤い気がして手を伸ばすと額に手を当てる

「熱じゃなさそう・・・?」
「違う・・・悪い。オレ、帰る・・・わ。雰囲気壊すし。荷物、持って来てくれないか」
「んなことねぇって!っていうか・・・お前、楽しくない?」

トイレの前にあったソファに溜息を漏らしながら座る巴は本当に体調が良くなさそうで高尾も隣に腰を下ろす

「んじゃぁさー、金だけ置いてくるからさー、なんか食いに行こうか」
「あ?いや、お前はいればいいし」
「え!だってオレ、巴と遊ぼうと思って誘ったし」
「・・・でもお前」
「イイってイイってー!適当に言い訳してくるから後で口裏合わせとけよー?」
「・・・」

笑って戻って行った高尾を見て、やっぱり高尾のように、他の同じ男子高校生のように女の子と付き合うことなんてできないのだと自分の腕を掴む
巴が負った傷は巴自身が思っている以上に深い物。これが治るまでは皆と同じように遊ぶこともできないのだと思うとただ高尾が戻って来るまで震えていた






「たっだいまー!んじゃ行こうぜー?ほら、荷物」
「あ・・・あぁ」
「オレら先輩に呼び出されたことになってっから!水泳部の先輩にー!」
「・・・は?」
「ん?だからオレら水泳部だからさー、部活の先輩に呼び出されたら逆らえないじゃん?」

言い訳に部活の先輩を使ったことはどうかと思ったけれど背中を押されながら巴は店を出て高尾と共に歩いていく

「で、どしたー?」
「・・・苦手なんだ」
「さっちゃんが?!」
「いや・・・」
「え!女の子みんな苦手?!」
「さぁ・・・どうかな・・・でも・・・触られたりするのはちょっと」

そう呟いた巴に首を傾げながら巴の顔を見上げる
自分よりも大きな体。悔しいくらいに整った顔・・・

「んー、巴ってさー、童貞?」
「・・・」
「あ、いや、バカにしてねぇよ?みんなはオレが捨てんの早すぎだって言ってっし。さっきのあいつらもほぼみんなそうだし」
「・・・悪い。やっぱり帰る」
「え!ちょ・・・ごめん!巴!?」

高尾の言葉に顔色を変えた巴は高尾を振り切るように走り出して、高尾はその場に立ち尽くす
悪いことを聞いた・・・地雷を踏んだのかとため息を吐くと仕方なく家へ向けて歩き出した






翌日、いつものように昼休み、昼ご飯を一緒に食べようとパンの入った袋を掴んだ高尾が教室内で巴を探すけれど巴は既に教室にいなくて「え・・・?」とキョロキョロ巴の姿を探す
それでもやっぱりいなくて唇を噛むとため息を吐きながら周りに「高尾ーメシ一緒に食うー?」と誘う声も断りながら教室を出た

「山辺ー山辺山辺山辺ーーー!やーまーべぇーーーー」
「・・・呼びすぎだから」
「メシ、食お?」
「・・・いいけど」

わざわざ高尾が呼びに来たことを疑問に思いながら屋上へと向かう

「・・・山辺ってさー、巴のコト中学から知ってんだろ」
「まぁ、巴有名人だったし?」
「んー」

あぁ、巴のことを聞きたいのかと自分をわざわざ呼び出した理由を察した

「それで?」
「うん?」

屋上の適当なベンチに座った2人はそれぞれ口へと昼食を運ぶ

「最近ずっと巴といる高尾がオレと一緒にご飯ってどういうこと?」
「あー・・・地雷踏んだっぽいー」
「まぁ、高尾は結構あるよなぁー。無神経だしー」
「いやー、でもそんな傷つけるつもりじゃないしっ!」
「判ってるよ。でも、それでも傷つけることはある」

山辺の言ってることは尤もだと高尾は一応反省するが「でもー」とまだ腑に落ちなくてぼやく

「昨日さー、巴も誘って、カラオケ行ったんだー」
「へぇ?」
「んでさー・・・巴、女の子苦手っつーし、その反応?がー、山辺と似てたからさー、お前童貞なのー?って聞いただけだしー」
「・・・巴に・・・聞いたわけ?」
「んー、でもさー、別にただの疑問っつーか、っていうかあいつモテそうなのにどーなんだろーみたいな?」

山辺は箸を止めて「そっか」と頷きながらドキドキする胸を押さえる
山辺の知っている巴に関する噂が本当だったら・・・

「山辺なんか知ってんの?」
「あー・・・いや・・・」
「何・・・オレ、そんな悪いコト聞いてないだろ?」
「巴は・・・経験・・・あると思うっていうか・・・あるっていう噂っていうか」
「なんだよその噂!さっちゃんとはなんともないよ!」

ひとつ深呼吸した山辺は自分が言っていい話なのか判らなくて瞳を揺らす

「山辺ぇー!山辺ぇー!教えてー!何その噂ー!オレ知らないー!」
「・・・高尾・・・」
「山辺ぇー!やまべー!!!」

ゆらゆら揺らされてベンチがガタガタ揺れる

「噂だしっ!事実じゃないかもしれないしっ!」
「なんだよー!噂ってなんだよなんだよー!」
「巴っ・・・兄弟で色んな女の子と関係持って通ってたスクール退学になったっ・・・っていう・・・それで・・・水泳強豪校の推薦もなくなった・・・っていう噂・・・」
「・・・巴が・・・?」
「噂・・・だってば・・・」
「・・・いや、ないないー!ないってー!巴だよ?女の子と話してる姿すら想像つかないやつだよ?なんなら男とも話してないっつーし!女の子苦手だっつって気分悪くなってた意味もわかんねぇしー」
「自重しようとして女の子避けてる・・・とか・・・」
「ハハ!なんだーその噂ー!バカみたい。噂は噂だよなぁー」

高尾は笑い飛ばして山辺の言う噂を知ってパンを再び齧りはじめる
ただの噂は巴からは考えられない噂。じゃあ、何がそんなに巴を傷つけたのか・・・そう考えると判らなくてため息を空に漏らした









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透き通るブルー10 - 05/29 Mon

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部活のほかに学生の本業として、勉強をしなくてはいけない時もやってくる

中間テストが近付き、部活動の休止・・・

「よぉっしゃぁあぁぁああ!!!巴!遊び行くぞ!」
「・・・何言ってんだお前」
「ん?部活って休みないじゃん。じゃあ部活休みの今しか遊びに行けないじゃん?」
「・・・部活がなんで休みになるのかちゃんとわかってんのか?」
「うん?勉強?まぁ、そりゃー帰ってからやるっつーことでー!なっ!なっなっ!お前と遊び行ったことないじゃん?今日、みんなとカラオケ行くことになってっからお前も来いっ!」
「いや、行かない」
「・・・勉強すんの?お前が?ホントに?」

巴は答えに詰まる。帰って確かに勉強はしないだろう・・・

「でも、オレが行っても周り白けるだけだ」
「なんで?」
「なんでって・・・」

こうやって高尾が話しかけてきて隣に高尾がいるときはその周りも多少一緒に巴を囲むことはあった。でもやっぱり距離があって見えない境界線を感じる

「お前とオレ友達じゃん」
「・・・」

友達・・・確かに、高尾とは友達になったと思うけれど、周りは?

「あ、そ、そう!巴も来いって!女の子も来るしっ」
「・・・そうか・・・じゃあ・・・行く」
「よーしっ!決まりー!」

高尾の友人らもそう言うならと立ち上がるとすぐに高尾が肩に手を回してくる

「なーなー、お前歌、歌えんのー?」
「・・・まぁ」
「体育できなくても歌はイけんのかー!あーやっべぇー!女の子独り占めかー?!」
「そー!高尾の言う通りそれがなー・・・」
「?」

長身で整った顔。無口なところも余計なことを話さないクールさがあってイイ!近寄りがたいけれど、遠巻きに見ているだけで目の保養。と言われている巴と一緒に行けば全部美味しいところを巴に奪われるんじゃという不安

「んー、まぁ、そこもオレが勝ーーーーーーつっ!!!」
「ハハ!高尾らしいよなぁー・・・あ、でもさでもさー、こっちにも回せよ?な?いつもみたいにさー」
「おう!お前らのタイプはみんな把握してる!!!」

歯を見せて笑った高尾がふと気付いて顔を上げて巴を見る

「お前のタイプは知らない」
「あ?」
「っていうかーさっちゃんを可愛いと思わないならどんなんがイイんだ?んー?でも、話したい子いたら言えよ!取り持ってやっからー!」
「・・・」

巴は口を結ぶ
正直、女の子は苦手・・・だからといって男が好きと言うわけでもないけれど、恋愛にはまだ早いと思っている・・・可愛い。そう思ってもそこから先は難しい・・・巴にはとても難しいコト







カラオケでは周りが盛り上がっていて、ひとり飲み物に口を付けながらやっぱり境界線を感じる巴

「あー!次オレのー!高尾 陸斗歌いますっ!!」
「ちょ!お前相変わらず立って歌うのかよ!」
「オレの美声を1番イイ美声で届けたいだろ?」
「ぶはっ!なんだよそれー!」
「あー!じゃあじゃああたし女性パートの一緒に歌ってあげるー!」

高尾はやっぱりどこへ行っても高尾で自分の曲が始まると立ち上がって巴の隣からいなくなり余計に疎外感を感じるのはこの環境に馴染めないせい・・・
高尾の腕に手を回す女の子はきっと高尾に気があるんだろうし、満更でもなさそうな高尾の表情を見ていると何故高尾は自分を誘ったのか、そして自分は誘いに乗ったのかと判らなくて再びウーロン茶に口を付けた

「巴くん、隣イイ?」

顔を上げると見覚えのある顔。あぁ、そうだ。彼女は以前告白してきて高尾の想い人・・・

「・・・どうぞ」
「ありがと」

感じていた境界線・・・でも、それを無理矢理割って入って来る人間も高尾と同じような人間もいる・・・

「こないだは突然ごめんねぇ?びっくりさせちゃったんだよね」
「え」
「全然知らない人に告られたってねー・・・困るよねぇ」
「・・・」

膝に手を添えられて体温が上がる・・・振り払おうとした手を拳にして耐える
振り払ってしまったら傷つけてしまうから。皆がいるこの雰囲気も壊してしまいそうだから

「何歌う?」

心臓の音が早くなっていく・・・耳の中で自分の血管を流れる血液の音がうるさい・・・ドクドクうるさい・・・

「・・・悪い。トイレ」

気持ちが悪い・・・一気に上がった心拍数。泳いで上がるのには問題ないのに、これは気分が悪くなる・・・

フラフラと立ち上がってトイレへ向かった巴を見て首を傾げた高尾が「オレもトイレー!ツレションしよー!ツレショーンッ!」と巴を追いかけていった






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透き通るブルー9 - 05/28 Sun

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巴と高尾が飛び込むと練習を始めていた部員たちが息を飲む・・・1年の第1陣が一斉に飛び込んだというのに、巴と高尾が飛び出したレースは2人だけのレースのような気もする

勝負は見なくても判っているつもり・・・けれど、今日も期待しないではいられない。高尾が巴に勝つのではないか・・・そんな甘い希望を抱いてしまう・・・

何故、最強の巴ではなく、高尾を応援してしまうのかは誰にも判らない

それに、もし高尾が勝ったとしても巴に勝った高尾に勝てるわけでもない。だからスピードの問題じゃない・・・気持ちの問題

巴に高尾が勝つ日が来たとしてもそれは最強が負けた日になるだけで、皆の中で、高尾が最強になる日というわけでもないからかもしれない




水を蹴り、水を掻く。今日は以前とは違う。最初から高尾の泳ぎで
スタートした瞬間、出遅れたわけでもないのに前にいた巴。最初から追いかける高尾・・・巴も高尾の実力をもう知っているから最初から全力で逃げ切ろうとする

自分とは違って水泳だけじゃない高尾に絶対追いつけない背中を見せつけたい。高尾の心に火を点けたまま、その炎をどんどん大きいものにしたい。それは例え、恐ろしい強敵を、最強と言われた巴の名に傷を付けるかもしれないライバルを作るものだとしても・・・

そもそも、巴自身、自分が最強だなんて思っていない

強い人間は全国に出れば他にもいたし、優勝を逃したことだってある。でも、それでも消えない最強の名・・・誰かに破ってほしい気もある。最強と言う名を下ろして、ただの巴 宏海として泳ぎたいときもある・・・

だから高尾との勝負はこんなにも楽しく燃えるもの・・・巴を最強の男だと思わない高尾との勝負は自由で負けられない最高の闘い






「あーーーっっっっ!!!くっそぉぉぉぉぉ!!!また負けたぁぁぁぁぁっ!!!」

高尾の悔しそうな声が響く
今日もまた負けた。2戦2敗。今回のは前回と違って大した練習量ではないけれどそれでも高尾にとって始めて真面目に練習を続けた結果。前回のように巴を舐めていたわけでもないし、自分の中でも全力を出せたと思うのにそれでもまだまだ追いつけない背中

「・・・今日も悪くはなかった」
「うっさい!!!負けは負けだーーー!くっそぉぉぉぉー」
「別に負けたから何しろとか言ってないだろ」
「バカか!悔しいもんは悔しいだろ」

それもそうだと巴は頷きながらプールを上がってタイムはどうだったか記録している野原に近寄る
野原がノートに書き込んでいくのを見ながら高尾を振り返り拳を振り上げると続けて近寄ってきた高尾の腕がぶつかる

「・・・あー、1年1陣が終わっただけでもう3年も2年も1人ずつとかー・・・山辺ー、とんでもないやつ連れて来ちゃったよなぁ。強くなるからいいけどさぁ」
「え!オレ?!」

2人のタイムが気になって上がってきた山辺がブンブンと頭を振る

「そもそも、高尾は来てなかっただけで最初から水泳部員ですよ」
「・・・そっか・・・そうだった」

そして野原は溜息を漏らすと自分の名前に横線を引く

気持ちがイイくらい完全に負けた・・・これがタッチの差で負けていたら3年なのにともっと悔しかったかもしれない。でも、今は悔しいけれど、思い切って託せる。まだ1年の半分が残っているのにもうリレーメンバーが決まってしまった気がする・・・先に巴と高尾を泳がせたのは間違いだった。そう野原は思いながら「1年!2陣っ!行くぞ!」と声を張り上げた





「リレーメンバーは3年盛谷、2年氷室、1年巴と高尾で決まりだ」
「安心してください。インハイ。連れて行きますんで」
「盛谷がドジらなきゃあーなぁ?」
「え!待って!オレ?!そこ、タイム的に4位の氷室じゃなくて3位のオレ?!」
「あ、ってことはオレ2位のタイムなの?やっぱりそうなの?!やっぱりオレ強者なの?!だよなぁ!そうだよなぁー!」
「・・・オレとの差がこんなになけりゃあな?」
「くっそぉぉぉー!巴に絶対勝ってやる!!!」

リレーのメンバーが決定し、山辺は自分もいつかこの2人と一緒に出たいと静かに拳を握る。一生懸命練習してきた。さっきも必死に泳いだのに、1年2陣レース内ではトップで帰って来たけれどリレーメンバーには入ることができなかった・・・追いつくには、そのためには練習だと一足先にプールへと戻ると壁を蹴って泳ぎ始める
今は強すぎる同級生2人・・・追いつける気がしない。でも、追いつかなくては一緒に進めないから。足を止めたら進めないから・・・一緒に進みたい。中学から憧れた身近な友人と、最強と呼ばれてきたまた新たな友人と共に進みたいから









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透き通るブルー8 - 05/27 Sat

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授業を終えて巴と高尾は水着に着替えるとプールへ向かう
もう皆集まっていて、各自アップを始めていたりストレッチをしていて高尾はジャージを着こんだ状態でプールサイドで準備運動を始める

「今日はタイムトライアルでリレーのメンバー選出する。400と800、そしてメドレー。だからフリーは全員100と200、あとは種目別・・・とりあえず順番に計っていくから」
「んじゃー3年からいくかー」

盛谷が腕をぐるぐる回すと野原が持っていたストップウォッチとホイッスルを2年を纏めている増田に渡すと何人かが自分からストップウォッチを取りに行き、どのコースのタイムを計るか手早く打ち合わせをする
3年がコースに並ぶと各自スタートの体勢を取る
3年で1番速いのは盛谷。そして野原と続くが、盛谷が言うには3年は「不作の年」目立って速い人間もいなくて、2年にも特別目立った生徒は入ってこなかった。しかし、盛谷が部長になった今年、入ってきた1年に中学生最強と言われた男に続いて巴に負けない闘志を持った速い男が入ってきた・・・
これが嬉しくて嬉しくて・・・だからこそ盛谷は負けられない。水泳部部長として、共にレースに出たら勝てない2人。けれど、ここの部長として情けない背中を見せるわけにはいかないから

一斉に飛び込むと水の音が響く。キックするとその飛沫が飛び上がり、それが光でキラキラとして見える
この瞬間がたまらなく好きだった。必死に練習するのをバカにしたのは手に入れられないと思ったから。こうやって皆で練習し、戦うのはできないことだと思ったから。欲しくて欲しくてでも手に入らないからと自ら背を向けていたことだから・・・

「・・・盛谷さんぐらい・・・だな」
「副部長も結構イけてんじゃん」
「・・・いや・・・2年は氷室さんがいる」

増田の隣で腕を組んだ氷室に視線を移し、そして再び3年のレースへ

「リレーは正直、誰が決まっても厳しい・・・2年と3年のタイムをせめてお前くらいに上げないと・・・」
「せめてって・・・オレ速いじゃん」
「・・・遅くはない・・・でもお前が知らないだけで速い人間はたくさんいる」
「なんだと?」
「だから、もっと速くなれ・・・期待してるから。オレだけじゃなくて、みんなが。お前が練習で伸びるのを期待してる。全員でレベル底上げしてオレもお前もそこから更に速くならなくちゃいけない」

期待・・・胸が躍る。求められて期待されているのだ。期待されてひとり特別メニューを組まされることもない。共に強くなろうとする皆がいる

「っっっっ・・・なるっ!オレはっ・・・超練習するっ!!!」

高尾の表情はすっきりしていて、巴は笑うと高尾の肩を叩く
練習をバカにしていた高尾が練習するとキラキラした顔で言っているのだ。でも驚かない。ちゃんと泳ぎ始めてから大した時間は流れていないけれど寒いと言いながらも寒さと冷たさ以外には文句も言わずに練習に文句を付けず全て巴について来ているから

3年のレースが終わると思った通り盛谷、野原の1、2着で、他はだいぶ遅れてのゴール

「増田ー!タイム見せてー!」
「あ、はい。去年の盛谷さんのベストからいくと落ちてますけど」
「余計なこと言わないでよぉぉぉー」
「落ちてる盛谷に負けた・・・クッソ」
「あ、野原さんは去年よりもイイですよ」
「だぁかぁらぁ!!!」

ストップウォッチを集めて各自のタイムをノートに書き入れると現時点のTOP4をホワイトボードへ書く

「次!2年っ!」

呼ばれた2年がジャージを脱いだり、腕を回して準備していく。これが終わればまた巴との闘い・・・

「負けない」
「ん?」
「3年にも2年にもっ!お前にも負けないっ!!!」
「・・・おう・・・勝ってみろって」

顔を見合わせてニッと笑うと拳を合わせる
イイ友達。仲間・・・そして・・・ライバル




「今の所ー・・・オレトップー!で、2年の米倉で次が野原!こーれでぇぇぇー?野原がーーー?入れるかぁぁぁぁ?ってとこかー!」

ニヤニヤ笑った盛谷の尻を野原が足で押すとそのままプールへ落ちていき、顔を出した盛谷が文句を言いつつも笑う

「野原のことなんて気にせずリレーの座奪っちまえー!」
「お前、安全圏にいると思うなよ?!下手すりゃ2年も3年もいない1年だけのリレー構成かもしれないだろ!」
「へーへー!速いならそれでも構わないもーんっ」
「もーん!とかキモイ!うっせぇ!ほら!1年っ!やんぞー」

巴と高尾は顔を見合わせる

「勝負だ!」
「だな・・・」
「今日は勝つ!タッチの差でもイイ!勝つ!」

高尾のいつもと同じ燃え上がるような闘志に巴は口端を上げると「イイ目だ」と言いながらスタート台へと上がり爪先を掛ける

そして、再び巴と高尾の冷たい水中での熱い闘いが始まったのだ















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透き通るブルー7 - 05/26 Fri

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「あ、巴、はよー!」

翌朝、巴と擦れ違った高尾は多分初めてクラスにいる巴を認識して挨拶をした
175センチもある巴を認識したことがなかったというのもおかしな話ではあったが、高尾は興味のないモノに対しては何も認識できないタイプ

「あ・・・あぁ。おは・・・よう」
「あー眠ぃーーーっ!」

背伸びをする高尾の手にいつものカバンに加えて、カバンが1つ増えている。中身は見えないけれどきっと水着だと思うと巴は小さく微笑む

「・・・何だよ。ニヤニヤして・・・」
「いや・・・それ、水着かと思ったら・・・な」
「う・・・うっせぇしっ!行くとか言ってないからなっ!!!」

カバンで軽く殴られた巴はまた今日もワクワクするような闘志に引き込んでほしい・・・そう願った







高尾 陸斗という男は、クラスに、いや学校のどこにいても存在感がある男で、彼の周りにはいつもたくさんの友人が集まって来る
対照的に、巴 宏海の周りはまるでそこに境界線でもあるような雰囲気で誰も寄り付かない場所。いや、実際には本当は近付きたいのに近付けない輩ばかりなのだが、当の本人はそれを知る余地もないから自分は嫌われているのか相当に存在感がないのだろうと思うばかり

「巴ー、何メシひとりで食ってんの?」

昼休み突然声を掛けられて巴の周りに当然のようにしてあった静寂が崩れる。あったはずの境界線なんて透明な囲いなんて高尾の前には何もなかったようでただ目を丸くして箸を止めて高尾を見る

「なんだよー!お前いっつもぽっちなの?よしよし。オレが一緒に食ってやるってー」
「・・・は?」
「ん?」

巴の了承もないうちに高尾は巴の前の席に座って巴の机に購買のパンを乗せて食べ始めた
高尾の友人たちは遠巻きに巴と高尾を見つめて固まっているのに高尾だけがいつものよう振舞う。まるで時間が止まっているのに高尾と巴の周りだけ時間が流れているように

「あー!弁当めっちゃうまそー!いいなぁ・・・いいなぁーーーー」
「・・・何が食べたいんだ」
「え!イイの?!」
「いや、何か欲しくて言ったんじゃないのか」
「フハッ!そう!玉子焼きー!玉子焼き好きー!」

巴はどうぞ。と言うが一向に取る様子がなく高尾を見ると大きな口を開けて待っている高尾がいて戸惑う

「ん?くれるんじゃないの?」
「っーーーー!!!」

高尾 陸斗という男は1度懐に入れてしまえば距離感がなくなる男。水泳部としての活動を高尾が始めて1週間・・・毎日部活後、震える高尾をあまりにも哀れに思って毎日コンビニまで温かい飲み物を買いに行ってやっている巴は高尾の中ですっかり「イイ奴」であり、何故水泳部へ入る羽目になったかも忘れてしまった高尾の中ですごく仲のイイ友達の1人という認識になっている

「巴、巴ー、高尾はねぇ、もうそういう人間だから周りが順応して慣れるしかないよ?」
「や、山辺っ!?どっから出てきた?!」
「いやー、盛谷さんからの伝言ー!今日リレーメンバー選出のタイムトライアルやるから遅れるなってー」
「・・・」

慣れるしかない。山辺の言葉通りだと思いながら卵焼きを掴んで高尾の口へと放り込む

「美味しいー!オレの好きな甘いやつー!」
「ねぇ、聞いてた?伝えたからね?」
「んーほいほーい!なぁなぁ、この焼きそばパン半分やるからそのミートボールもちょうだーい」
「・・・ん」

再び口を開いた高尾の口にミートボールを押し込む

「なぁなぁー次体育じゃーん?午後イチの体育って腹重たいよなー」
「・・・そうか?」
「っていうかさー、巴ってペア組めって言われた時もぽっちじゃね?オレが組んでやるってー!っていうか早めに言えよー」
「いや、別に・・・困ってはない」
「なぁなぁ、やまべぇ知ってるー?こいつ、あんな泳ぐの速い癖に他のイマイチなんだぜ?」
「うるさい」
「え!意外っ!」

山辺も弁当を開くとピックに刺さったトマトを高尾の口へと放り込む

「山辺、相変わらずトマト嫌いなぁー」
「嫌いっつってんのに容赦なく弁当に入れてくる・・・巴、なんでも運動できそうなのにー」
「だろー?足とかも遅いしー!」
「・・・うるさい」
「ハハ!巴怒ってるー!巴が怒ってるしー!!!」
「もう弁当やらん」
「あ!ごめんー!ごめんってばぁー!だからお恵みをぉぉぉぉーーー!!!」








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透き通るブルー5 - 05/25 Thu

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「くっそぉぉぉぉぉぉ!!!!」

壁に手をついた高尾が大きな声を上げて悔しさが皆に広がる
同じ部に最強と呼ばれる男が入ってきて嬉しかったのに戦えば勝ち目なんてない圧倒的力を持った巴に皆、憧れと同時に悔しさがあった
それを打ち崩すような気迫の泳ぎを見せた高尾にもう既に何人かは高尾の魅力に引き込まれていて一緒に悔しい気持ちを胸に広げる

一足先にタッチし、プールから上がる巴も高尾の闘志を、気迫をプール内で感じていた

「山辺」

寒がりな高尾のために自分のタオルを掴んで駆け寄ろうとした山辺が呼ばれて振り返る

同い年だとはとても思えない完成されつつある体からポタポタと流れ落ちる雫

「あいつ、毎日連れてこい」
「え?」
「まだ、上がる。まだ・・・伸びる」
「え、あ・・・」

高尾が巴に認められたのが山辺は自分のことのように嬉しく感じる
ずっと抱いていた憧れは間違いじゃなかったのだ。最強だと言われている巴が認めた高尾に憧れていたのは間違いじゃなかった・・・山辺は高尾になりたい


「高尾、大丈夫?」
「寒い・・・無理・・・無理・・・」
「ほら、オレのだけどジャージも着てっ!早く着替えなって」
「寒い・・・悔しい・・・クソ・・・悔しいっ!!!あいつにっ!巴に・・・負けたっ!!」

プールを上がった高尾はさっきよりもガタガタ震えていて山辺は高尾にグルグルタオルを巻きつけた上からジャージを羽織らせる

「高尾・・・」
「クソ・・・謝りゃイイんすか?バカにしてすいませんでしたって言えばイイんすかねぇ?」

ガチガチ歯を鳴らした高尾の所にやってきた盛谷と野原が手に持ったタオルで山辺と同じように高尾をぐるぐる巻く

「・・・ども」
「勝てなかった・・・悔しい・・・その気持ちがあるなら部活、ちゃんとやってみないか?」
「はい?」
「オレらもお前がここまでやれるとは思わなかった。巴との力の差見せつけてもう2度とここへ足を踏み入れるなと言うつもりだった・・・けど、今の見て、気が変わった!」
「・・・?」

高尾はそのつもりだったのに目の前の2人は真剣な眼差しで高尾を見つめ続けている

「それにお前ホントは一緒にやりたい・・・とどっかで思ってるんじゃないのか?」
「はぁ?ないしっ!」
「じゃあ、部活に強制参加しなくてもいいこの高校でどうして入部届を出していたんだ?」

高尾はひゅっと音を立てて空気を吸い込む
確かに何故入部届を出したのか・・・真面目に泳ぐつもりも大会に出たいという気持ちもなかったはずで・・・なのにどうして・・・
でも、これは高尾にとってカッコ悪いコト。小学生時代、周りよりも秀でて速かったから周りとは別のメニューを組まされて、もっと速くなるようにと皆よりも練習させられた。同じ部活の友達と一緒に帰ることも許されなくて1人プールで泳がされた・・・それが寂しくて嫌で・・・皆と一緒に楽しく練習したいのに1人ぼっち・・・
だから、練習に行かなくなった。練習に行かないのに高尾は速かったから・・・周りよりもずっとずっと速く泳げた。だから、1人ぼっちで辛い練習よりも。皆と一緒に泳げないのならば、練習なんて行かずに皆で遊んで楽しくしている方が幸せだと思ったから

「確かに練習はバカらしいと思うこともあるだろう・・・でも、お前の才能、ここで潰すのももったいない」
「・・・オレは・・・」

部活に参加するようになれば、この1ヶ月のように友達と帰り道遊ぶことはない・・・

「今年からまたこの水泳部は強くなる。その強さの1つにならないか?」

求められている・・・欲しがられている・・・高尾の力をこの部活は求めている。そして、勝てない男、巴がいる限り、特別なメニューを組まされて1人で泳ぐこともないのではないか・・・

「・・・っす・・・」
「だったら早くそれ脱いでプール入れよ」
「あぁ!?や!まだ決めたとは言ってないっていうかやめろっ!寒いっ!」
「オレはお前と一緒にインハイ行く」
「はぁ?」
「決めた」
「決めたってお前っ!何言ってんだよっ!ちょ!やめろっ!やめっ!マジでっ!寒い!!!寒いーーーーっ」

1枚1枚着ていたものを巴に剥がれていった高尾は再びガタガタ大きく震えながら冷たいプールへ飛び込まされた







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透き通るブルー6 - 05/25 Thu

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結局練習に参加した高尾はプールから上がると止まらない震えのせいでなかなか制服のボタンが留められず、見かねた山辺にボタンを留めてもらう
何故、練習に参加しなくてはならなかったのか・・・今日は好きだった榎本にフラれて、巴という人間がどんな奴なのか気になって、そしてひとこと榎本をフッたのは何故か聞きたくて水泳部に乗り込んで、何故かその巴と勝負をすることになって・・・一気に高尾の予定とは違うことが起こっていて、更に体の芯まで冷えていて頭が全然回らない

「ちょっ・・・ちょっと動くの止めてよ!留めにくいー!」
「むっ・・・無理言うなっ・・・ワザとじゃないーーー」

ガチガチ歯を鳴らし震える高尾を横目に「おつかれっしたー」と去っていく部員達。上級生も苦笑して山辺にカギを託して帰っていく

「っていうか、高尾まだ中にニットのベストなんて着てんの?」
「朝と帰り寒い」
「えー!!!・・・まぁ、中学のときからそうだったかぁ・・・」

山辺はまだ震える高尾にジャージを差し出すと高尾はすぐに制服の上からジャージを羽織る

「ダメだ・・・まだ寒い・・・」
「あーもぉぉぉー!ちょっとは我慢しようよ!とりあえず鍵返さなくちゃだから出るよ!」

部室から追い出すように高尾の背中を無理矢理押して部室を出るとまだ冷たい夜風が吹く

「さーむーーーいぃぃぃぃぃっ」

両腕で抱えるようにしゃがみ込んだ高尾に「女子かっ!」とツッコミを入れる

「・・・」
「あ?」

しゃがみ込んだ高尾の視界にスニーカーが見えて顔を上げると巴の姿

「ん・・・」

差し出されたものを訝しげに見るともう1度「ん」と差し出されてそろりと手を伸ばす

「熱っ!!!」
「・・・巴?」
「中から温めねぇともうそれダメだろ」
「・・・は?」

確か、校内の自販機に温かい飲み物はなかったはずで、山辺は驚きの表情で先に出て行った巴を見つめる

「あ、鍵・・・返してくる・・・高尾!それ、ありがたく貰って飲んで待ってて!」
「あぁ」

冷えた体にジンジン熱い缶が指先に熱を与えてくれる

「・・・飲めよ」
「あー・・・ありがと・・・?」

巴が何故か高尾の隣に腰を下ろし、そっと高尾は温かい缶に口を付ける
巴にケンカを売りに行ったのに、そして勝負して負けたのに巴がわざわざ温かい飲み物を買って来てくれる意味が判らない

「・・・一足遅かったら間に合わなかったな」
「あ?あぁ・・・っつか何この距離」
「?・・・おかしいか?」
「おかしいかっつーか・・・おかしいだろ!なんでお前と並んで座らなくちゃいけないの!」

巴は少し考えて首を傾げる
元々スキンシップも激しく、人懐こい高尾がクラスでこうやって友人と肩を並べるのはいつも見ていること。だからおかしくないハズで。でも、相手は巴。今日初めて認識した人物で、負けた相手で・・・考えがまとまらなくて考えるのもバカらしくなってきて考えるのをやめる

「だって・・・オレは・・・はぁ・・・なんかもう今日ダメだ。頭全然回んない」
「榎本って子には可哀想かもしれないけど、付き合ったとしても気持ちは動かないだろうし、そっちのほうが可哀想だろ」
「・・・さっちゃん可愛いのに」
「それはお前の好みっていうだけだろ」
「好みとか・・・いや、あれは一般的に超可愛いレベルっ!」

巴がふわりと笑って高尾の背中をパンッと叩く

「震え、止まったな」
「あ・・・ホントだ・・・あ!金!払う」
「・・・や、まぁ・・・明日からも部活来るなら奢りでイイ」
「来たくないから金払いますぅー」
「おい・・・来いって」
「寒いっつーの!マジでっ!オレ寒いの嫌い!」
「毎日コンビニまでおつかい行ってやってもいいぞ」
「・・・やっぱりコンビニまで行ってくれたわけか・・・あー、くっそ!お前のコトめちゃくちゃムカついてて嫌いだったのに超イイ奴なわけ?」

高尾の目がキラキラ光った気がして、あぁ、クラスの中心にいるいつもの高尾だ。そう巴は苦笑する
敵意剥き出しの目で睨まれて、これは本当にいつも友達に囲まれてニコニコヘラヘラ笑っている高尾なのかと疑った。八方美人なのも気に入らなかったけれど、それ以上に腹の立つことを言われていい機会だと思った。徹底的に潰して凹ませて高尾を鼻で笑いたかった・・・
でも、結果は周りの人間と同じように高尾に引き込まれることになってしまった・・・勝負の結果的には勝ったのに総合的には負けた気分・・・しかも清々しい程の負けを巴は感じていた
そしてどうしても高尾と一緒に泳ぎたい。巴にとって初めての感情。今日、高尾と共に泳いで感じた楽しさ。それが今、1番巴にとっては大事で求めていたもの








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透き通るブルー4 - 05/24 Wed

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水着に着替えた高尾がプールへと戻ってきたが、ガクガク小刻みに震えていてとてもさっきまで威勢を張っていた人間と同一人物だとは思えない

「た、高尾大丈夫?!」
「さ、寒い」
「やめてもいいんだぞ?別に無理することは」
「いや!勝つんで!オレ、勝つんでっ!」

さっきと同じ勢いだけれどガクガク震える高尾はとても勝てるような雰囲気はどこにもなくて山辺はため息をついた。相変わらず極度の寒がりで水泳には向いていない・・・
そもそも、寒がりなのは自分でも判っているハズなのにどうして中学の時も水泳部を選んだのか・・・そして、高校でも水泳部の入部届を出していたのか・・・

少しストレッチをした高尾が足の先をプールにつけて飛び上がる
プールで泳ぐ水泳部員たちを見て頭おかしい。そう思いながら1度ざぶんとプールへと浸かってプールサイドへ打ち上げられた魚のように飛び上がった

「高尾ぉーーー大丈夫?」
「よ、よし、やる!やるぞ!」

後には引けなかった。もう引けない。引くつもりもない
大袈裟に震える高尾だったけれど高尾の決意は明らかで野原がホイッスルを咥えると短く数回鳴らす

ガクガク震えながらもコースに設置された小さなスタート台へ上がる高尾の隣で巴も同じように上がる

「よーいっ」

つま先をスタート台にかけると飛び込みの姿勢を取る

ピーーーーッ

さっきよりも大きな笛の音がプールに響いた瞬間2人はスタート台を蹴ってプールへと飛び込んだ

パワースイマーだと言われている巴の泳ぎはもう皆が知っている圧倒的力で周りをねじ伏せるような泳ぎ・・・水を打ち、水を掻き分けていく様子は野原がつけた通り戦艦のように大きく力強いもの
でも、今日、皆が「おおっ」と声を上げたのは巴の泳ぎにじゃない

ガタガタ震えていた高尾の泳ぎ・・・水に入ればその震えは見えなくなったけれど、きっとまだ冷たい水は肌に刺さるように感じるだろう

巴に比べれば大きくはない高尾だったが、水をも味方につけるような、いや、水が自ら高尾を前に進ませているような泳ぎ

静と動、いや、静と剛・・・そう表現されるのが正しいレース

「おい、2人ともこないだまで中学生だった奴らかよ」
「あいつ、ホントに結構・・・いや、すごいやつじゃないか」

口先だけじゃない泳ぎ
巴の泳ぎに圧倒されない泳ぎ
どんどん水に押し進められていく高尾の泳ぎ

「高尾・・・?」
「どうした?山辺」

高尾の泳ぎに驚く山辺。山辺は今までにも見てきただろうと盛谷は山辺に声をかけると「違う」と呟いているのが判る。中学の時より速くなっているのかと思うと再び「違うっ」と今度は強く言いながら盛谷を見る

「あいつもパワースイマーなんです」
「は?いや、だって」

パワースイマーと言うほどの力は感じない。ターンをする巴。ダン!と響くような衝撃を離れたプールサイドでも感じるのだから相当の力で壁を蹴っている。そして再びダンッと衝撃を足の裏から感じて巴に少し遅れを見せながらターンをした高尾。さっき、感じた巴のターンと同じような、いや、それ以上の衝撃

「な・・・」

ターンを切り、浮上した高尾のさっきとは全く違う泳ぎ。水を打つ音を感じる。ビリビリとするような水の破裂音

「あ、高尾だ」
「これはっ・・・」

皆が息を飲む。巴との差は明らかなのにもう追いつけない距離だと思うのに追いつきそうな気迫を高尾から感じる
静と剛から動と剛へ移り変わる

「高尾ぉぉぉーーー!ラストぉぉぉぉーーー!」

山辺の声が響く。普段声を荒げたりしない山辺の叫び声。さっきまで自分たちをバカにするような発言をして巴に差を見せられて凹めばいい。そう皆が思っていたのに心のどこかで願わずにはいられない
この中学生最強と呼ばれた戦艦のような男に勝つ人間がいるとしたらきっと高尾のように燃え上がる闘志を隠しもしない男・・・そして、巴の泳ぎを見ても怯まない男

レースとしての時間は酷く短いもの。もっともっと見続けたいそう思うのにあっという間に決着がついてしまう
最初から皆が予想した結果。でもその内容は皆が予想しなかった、できなかった内容








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透き通るブルー3 - 05/23 Tue

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「小さい地区大会ぐらいでお山の大将気取ってるわけだ?どうせ、お前真面目に練習したところでそれ以上になんねぇもんな」
「あぁ?」
「必死になってから負けるのがカッコ悪いとか思ってんだろ?テスト前に必死で勉強したのに赤点取ってショック受けるより最初から勉強しなかったことにした方が体裁イイしな」
「・・・なんだと?コラ・・・やんのか?」

対立する高尾と巴の雰囲気に部長である盛谷(もりたに)が2人の間に入る

「なぁ、高尾、ここはプールだ。ここにいるのは水泳部。やるならプールで!」
「はい?」
「高尾は速さに自信があるんだろう?だったら巴とレースして勝てばイイ」
「・・・」
「練習しなくても速いんだろ?だったらこの巴を負かしてみればいい。そしてどちらが正しいのかって証明してくれよ。ここにいる皆に」

確かに、今、目の前にいる男を負かせればイイ。この気が立った気持ちも治まるかもしれない。すっきりするかもしれない

「盛谷さん、でもオレとじゃ」
「巴ー、イイからイイからー!とりあえず黙って泳いどけー!水着、予備のが部室に洗って干してある」

人の水着なんて・・・と言いかけてそれを「逃げ」と思われるのも癪で「お願いします」と言うと盛谷と共に部室へ向かう高尾

「面白いことになってきたなぁ・・・」
「野原さん・・・イイんすか?」

副部長の野原(のはら)が部室へ向かった盛谷と高尾の背中を見ながらニヤニヤする

「お前もあいつにムカついただろ・・・ビビらせろよ。山辺、んで、あいつホントに強ぇの?」
「・・・協調性がなくて極度の寒がりなんで部活にはホント来なかったけど・・・速いです・・・あ、巴程じゃない!うん・・・でも・・・でも、なんていうか、あいつのこと今みんなムカついてんだろうけど、オレもムカついてるけど・・・憎めないやつなんですよ・・・いつの間にか引き込まれてる・・・」
「まぁ、うちの戦艦巴には勝てるヤツいないってー!」
「本気でそのあだ名広めないでください」
「えー?広い海を行く戦艦巴!完璧じゃんっ!巴 宏海(ともえ ひろみ)すべてを使ってやった!」

野原の言葉に頭を押さえながら巴は大きなため息を吐いた



元々、ここは公立にしては強いと言われる高校の水泳部。黄金期と呼ばれた時代にはインターハイ出場者もいたけれど、それは個人的に強い人間がたまたまいたからで。ここ数年は大した功績も残せずにいた
でも、それも去年までの話
今年は、中学生最強と呼ばれるこの巴が入学してきたのだ
強豪私立からの誘いが多々あった中、あるきっかけでそれがすべて白紙になり、一部では水泳を辞めたとまで噂されていた巴が入ってきた
本物の巴なのかと疑った人間もいたし、噂を知ってコソコソ陰で言うものもいたけれど、泳ぎ始めたら最強と言われた男が本物だと判り、噂なんてどうだっていい程に皆憧れた

そんな巴に、挑もうというのは無謀だとしか思えない。ただの無知なバカなのだと思った。泳ぎ始めたら実力の差を見せつけられて凹ませられるのを知らないのだ。そう思っていた

山辺以外は・・・

山辺は高尾という人間をよく知っている。ムカつくこともあるけれど、振り回されることもあるけれど、高尾の周りはいつだって笑いに溢れていて話題の中心で人気者で、山辺の憧れの存在。いい加減でお調子者でダメなところもいっぱいあるのに人を惹きつけてやまない高尾 陸斗という人間を知っている
自信家なのは実力があるから。水泳もだけれど、運動全般なんでもできて授業の体育でも球技大会でも体育大会でもいつだって1番目立っていた男・・・

そんな高尾でもさすがに中学生最強と呼ばれた巴に勝てるとは思えなかったけれど、もしかしたら・・・という一抹の期待を抱いてしまう



自分の憧れた高尾だったら。自慢の友人だったら・・・もしかしたら・・・そう願ってしまう








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