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青春はプールの中で13-27 - 05/31 Thu

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「光多」
「統一ぅー!」
「柿内は?!」
「あ、流ちゃんも一緒だったんだ。今、会計行ってる」

病院へ到着した柚木と安田の顔を見てホッとする近田

ずっと緊張していた。いつの間にか合鍵まで作られていて今までも部屋に入られていたかもしれない事実。事情聴取は明日にしてもらえたけれどそれもまた緊張するし、柿内の血を見て怪我自体は大したことないと言われたけれどそれでも怖かったし、気にするなと柿内は言ったけれどこれからどうしたらいいのか判らなくて頭の中がぐちゃぐちゃになっていたから

「柿内!」

柿内の姿を辺りを見回していた柚木がいち早く見つけて駆け寄ると柿内は一瞬驚いた顔をしてバツの悪い顔に変わる

「大丈夫なのか?!ケガは?!歩いても平気なのか?!帰るのか?!入院は?!」
「いや、大したことねぇから帰るけど」
「手だけか?!ホントに帰っても大丈夫なケガなのか?!」
「ホント大したことねぇから」

柚木の顔がまともに見られなかった

あんなに酷いことをしたのに柚木はいつも通りで余計に苦しくなる。日常的に誰かと体だけと割り切った関係を持っているような振る舞いだから
いや、本当は柚木にそんな相手がいたって構わない。柚木に関してじゃなく、自分が許せないのだ。柚木の体に触れた男が何人もいるということが

「ねぇ、光多」
「うん。流ちゃんのあんな取り乱してる姿初めてだよねー」
「あぁ、さっき連絡きた直後の方がヤバかったけど」
「・・・そっか・・・」
「流ちゃんってさ・・・柿内くんのこと本気でまだ好きだよね」
「あ?あー・・・うん。だな。きっと、そう」

近田は「だよね」と頷きながら真っ直ぐ柿内の隣で心配そうな顔をする柚木を見つめた

「じゃあ、ライバルだ」
「・・・本気なんだな?流ちゃんだぞ?いいのか?光多」
「本気だよ。それに、オレ、流ちゃんみたいに待ってれば叶うとか待ち続けてれば想っていれば全部思い通りにことが進むって人、ヤダ。流ちゃんは特別好きだけどそういう人ホントは嫌い」
「おい」
「ヤダ!判んない!嘘!嫌いなわけないっ!流ちゃんのこと大好きだけど柿内くんは欲しいっ!絶対!」

こうなったら止められないことは判っていたから安田は困ったように笑うと近田の背中をポンポンと叩いて「判ったよ。応援するから」と呟くと歩き出す

「今日はオレの部屋泊まってね?!」
「えー!あいつ捕まったんならよくない?」
「でも怖いんだもん!で!明日事情聴取とかあるから統一も仕事休んで!」
「えーーーー!!!」
「その後部屋探すの付き合うのっ!」
「えーーーーーーーー」

それでもきっと明日は仕事を休んで全部近田に付き合う1日になるのだと思うと友人に振り回されすぎだな。と反省するのだった







帰りのタクシーの中でずっと無言だった。あまりにも無言が続くと話しかけようにも何を話せばいいのか、どう話しかければいいのか判らなくなってしまう。普段はどう話していたのかすら判らなくて無言で2人帰宅する

部屋に入ると静かすぎる部屋に息が詰まりそうだったけれど安田と飲んでいたグラスを片付けようとする柿内の手を止めさせる

「オレがやるから」
「あぁ。流し持って行くだけ」
「それもオレがっ!」

柿内の手からひったくるようにグラスを奪うと苦笑いした柿内が口を開く

「重傷じゃねぇんだけど」
「けど!」
「・・・相手が持ってたのが包丁とかナイフなら危なかったかもしれねぇけどな、小さい梱包用のカッターだぞ?」
「それでも!」

柿内が近田のストーカーに襲われて刺された。と聞いた時心臓が止まるという感覚を初めて知った
背中に流れる冷汗の感覚、手足が冷たくなって行く感覚、不安で恐怖で体が震えることを初めて知った

「・・・心配してくれてありがとな」
「そんなの当たり前だろ!」
「あぁ・・・でも、平気だから」

柿内との間に見えない溝を感じる。今まで感じて来なかったその溝。離れていたのにすぐに昔のように友人関係になれたのは柿内のお陰なのだと改めて感じた

「・・・もう、会わないんだろ?」
「あ?」
「ストーカー捕まったから・・・光多と」
「あー・・・その方がいいだろうな。勘違いさせちまいそうだし」

勘違い・・・その言葉ですぐ察してしまう

「告白されたか?」
「あー・・・まぁ・・・」
「そ・・・か」

でも、勘違いさせてしまうから会わない方がいい。と言うのなら柿内にはやっぱり付き合う気はないということで心がふわりと軽くなる

「だ、よな・・・お前もう恋愛しないんだもんな!好きになれないんだもんな!お前優しいからこれ以上は光多も諦めきれなくなる」

ん?と言う顔で振り返る柿内に胸が締め付けられる

違うのか?また恋ができる予感があったのか

「好きになれねぇとか言ってねぇよ」
「え」
「好きになるとか、それはもう自分の意志だけじゃどうしようもねぇことだろ」

軽くなった胸にズシンと重りが乗っかった

柿内は人と付き合うことはしない。そう言った。でも人を好きになるのだ

これからも人を好きになっていく・・・柚木の知らないところで秘めた想いを抱えていくのだ








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青春はプールの中で13-26 - 05/30 Wed

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ストーカーが拘束され、やっとトイレから出ていい許可を受けた近田は半狂乱になりながら柿内の血だらけの腕を見ると慌てて洗面所からタオルを出してきてぐるぐると巻きつけると促されるように病院へと付き添った

「泣くなよ」
「バカ!バカ!!!」
「お前刺されなくてよかったじゃねぇか」
「良くない!バカ!柿内くんは大丈夫とか言って何なの!」

病院へ向かう間ずっと泣きながらバカバカ言ってくる近田に溜め息を吐く
きっと栗山も同じ反応だっただろうな。と思いながら






「どうしてオレなんか・・・放っておけばよかったのに」

病院の待合室でそう近田が尋ねる
もしかして、柿内も自分のことが好きで守ってくれたのではないかと期待して。好きだと言って部屋に来てくれたのだから、怪我をしてまで守ってくれたのだからきっとそうだと確信して

「・・・何でだろうな」

それは思っていた、期待していた言葉とは全く違うもの
「好きだから」そう言ってくれると思ったのに全く違う言葉。予想していなかった言葉
でも、実際に柿内としてはどうしてなのか説明が上手くできなかった

柚木みたいになりたかった。頼られていい気分になったのは事実。だから柚木のように他人の問題をサラッと解決して軽快に笑って見せたかった

「何それ」
「・・・オレの大事な・・・大事だった奴に似てたからかもな」
「・・・」
「そいつにはフラれたけど」

それだけ?自分には何も感情はなかったのか?!その人にはフラれたけれど自分への感情は?!

問い質そうとしたけれど処置室から呼ばれて柿内が席を立つ

大事な人・・・柚木と自分は全く似ていないからまた別の誰かのことなのか。でも、大事な人に似ているのならば自分にもまだ望みはあるのではないか

近田は立ち上がると電話を掛ける。親友の安田に報告と迎えに来て欲しい旨を伝える為に








「流ちゃーん!だからさぁ!出掛けようよぉー!時間は取り戻せねぇよ?明日は今日より1う年取るんだよ?」
「出掛けるなら1人で行けよ」
「オレがここにいるってことは判る?光多は柿内さんと一緒ー!」

それでも出掛ける気になんてなれない。部屋に戻って来てすぐに自室に籠る柿内が柚木を避けているのは嫌でも判った。でも、今日こそ話ができるんじゃないか。そう期待してあれから毎日この部屋で柿内を待ち続けている

「じゃあ柿内さんと光多が寝ちゃったらオレと出掛けてくれるー?」
「あいつはそんなことしねぇよ」
「なーんでそんなこと言えるんだよ!溜まってたら誰でもいい時あんじゃーん!流ちゃんだってあるっしょー?!」
「ない」
「流ちゃんつれないなー」

安田が口を尖らせたのを笑いながら柚木はポテトスナックを口へ頬張る

「あ、待って。オレの携帯が呼んでる。オレ、モテるからお誘いじゃない?」

ポケットの中で震える携帯を取り出した安田が「あー、なんだー光多だー」と言いながら電話に出る

「おー、何ー?暇なったから呼んだー?そろそろ出逢い探しに行くかー?」
『あいつ、捕まった』
「・・・それってまさか」
『それで、柿内くん刺された』
「は?!」
『今、病院。迎え来て。一緒にいて』
「何!それどういう状況?!」
『もー今夜はとことん付き合ってもらう!』
「や、光多!そうじゃなくって!!!」

突然電話口で聞かされたことは驚くことばかりで頭が付いていかない。言いたいことだけ言って切った近田に溜め息を吐きながら顔を上げると「ん?」という顔をした柚木にどこから、いや、何をどう話せばいいのか判らなくなって再び大きな溜め息を吐いた








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青春はプールの中で13-25 - 05/29 Tue

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近田の最寄駅で降りたところで男の姿が見えなくなる。自分たちを見失ったのか、または諦めたのかと思ってホッとしつつ、それでも今から部屋へ初めて上がってくれる柿内に舞い上がっている近田

初めて上がってくれるだけじゃない。さっき告白したばかりなのだ。そんなの期待するに決まっている

「・・・あの男、お前の部屋まで尾けてきたことあんのか?」
「え?いや、1人のときはできるだけ遠回りしたり寄り道してるから・・・途中で撒いてると思う」
「・・・」

悪い予感がする。ここまで執拗に追いかけてきたのに最寄駅であっさり尾けるのをやめたのは理由があるんじゃないかと思ってしまう

「柿内くん?」
「あー?」
「部屋、通り過ぎちゃう」
「あぁ、そうだった」

周りを気にしすぎていて通り過ぎるところだったのを近田に止められてハッとし、普段登ることのなかったアパートの階段を上がる

「柿内くん来るならもっと掃除しとけばよかったなぁ」

そう言いながら鍵を開けて部屋に入るとすぐに襲って来る影にずっと警戒していた柿内が反応して近田を庇いながら相手に体重を掛けて押し倒す

「クソ!光多!なんでだよ!なんでオレのこと好きなのにこいつなんかと!」
「っ!?なんで?!なんでっ!」
「近田!警察っ!早くっ!」

血走った目が男が正気じゃない証拠な気がして柿内はもがく男を必死に捕まえる

「ひと目合った瞬間からオレたち恋に落ちてただろ?!なぁ!光多!運命だったろ!オレを追いかけて同じビル内の会社に入ったのだって運命だったろ!」
「光多!早くっ!」
「もしもしっ!部屋に帰ったら知らない男が部屋にいてっ!」
「知らない?!知ってるだろ!オレはお前の恋人だろ!!!!」

元々力はそうある方じゃない柿内が跳ね除けられる

それでも近田に近寄らせないように足を掴むと転んだ男より早く体を起こし、近田をトイレへと押し込める

「え!ヤダ!柿内くん?!」
「鍵かけろ」
「ヤダ!」
「警察来るまでそこにいろ!言うこと聞け!」
「柿内くん!怖いっ!ヤダ!!!」
「狙いはお前なんだ!お前が入ってりゃ問題ねぇ!!!オレは関係ねぇ人間なんだからっ!」

男が近付いてくる。転倒した時に顔を床にぶつけたせいか鼻から血を流しながら近寄って来る

「なぁ、あんた金持ちなのか?金の力で光多を?頼むから邪魔しないでくれよ。オレと光多はあんたよりも強い力で結ばれてるんだ」
「自分より格下相手にしか強く出れねぇとか弱ぇなお前」
「何だと?」
「イケメンには敵わねぇって避けてたのになぁ?オレが出てきて残念だ」
「残念なのはお前の顔だろ!!!」

襲ってきた男を足で止めながら男の手に光るものが見えて青褪める

守ってやろうだなんてヒーロー願望なんて持たない方がいい。弱いくせに怖がる柚木の友人を助けてやろうだなんて考えなきゃよかった

鋭い痛みを手首に感じて舌打ちをする

叫びたい。痛いと声に出したい。でも、薄い扉の向こうにいる近田が心配して鍵を開けて出てきてしまっては意味がない

「光多ー!教えてくれよ!オレはお前をこんなに愛してるのにどうして拒絶するんだー!」
「臆病者は嫌いだってさ」

また鋭い痛みを腕に感じる。でもそのまま話し続ける。近田に気付かれないように。心配させないように。いつもの調子を変えないように

柚木だったらもっと強くて簡単に倒せたかもしれないのに。あの時、柚木よりもはるかに大きな相手2人を素早く倒したのを思い出すと自分の非力さを改めて感じてしまう。柚木が強すぎる。それだけじゃない・・・自分が非力なのだ。人を守るヒーローなんかに自分はなれない。柚木とは違うのだ

「光多ー!あの時言ったろー?真面目で優しい人が好きって!だからオレは真面目に働いて光多が友達といるときはできるだけ邪魔しないように遠くで見守ってきたのに」
「残念ながら光多はオレが好きだってよ」

男の目の色が変わり、柿内を見据えて刃物を大きく振りかぶる

ドンドン

「警察です!通報を受けました!大丈夫ですか?!」

玄関のドアの向こうで声が聞こえて近田はスッと息を吸い込むと「助けて!!!!!」と大声で叫び、同時に警察が踏み込んで来てすぐ男は取り押さえられ、柿内も深く息を吐き出した






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青春はプールの中で13-24 - 05/28 Mon

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顔を合わせ難いのもある。でも、それ以上に平日は早朝に家を出るし、帰りはなんだかんだで遅い生活

仕事が終わるのが遅いわけじゃない。終業時間がきっちり決まっているその会社では特殊な事例がない限り残業は許されず、それは出向という形の柿内も同じだった。だから、遅くなるのは別の理由。主に近田だった








近田から連絡が来て近田の職場のある駅で途中下車し、待ち合わせまで向かう

大抵は近田の職場近くのカフェ

夜になるとダイニングバーになるそのカフェは待ち合わせしつつ、簡単な食事を摂るのに適した待ち合わせ場所

「お待たせ!待った?!」
「いや?まぁ、もう少しかかるかと思ってさっき注文しちまった」
「あ!じゃあオレも頼もーっと」

メニューを見て注文をした近田がいつも通り高いテンションで話し始めたのを何となく聞きながら最近遅くなる理由をつけて出来るだけ柚木と顔を合わせないようにしようとしていることを反省する
これまでは待ち合わせに早く着いたとしても食事を注文することはなかったのに。ワザと外でゆっくり近田と食事をして帰る。柚木に拒絶されたくなくて、あの部屋から出て行けと言われるのも怖くて自分から柚木を避けていた

柚木の性格から考えてそんなこと言うとは思えなかったけれど、あの日から、柚木と離れることになったあの日からどうしても頭の中で最悪な状況を思い描くようになってしまっていた

「・・・」

突然静かになった近田に柚木のことを考えていて相槌も忘れていた事に気付き「悪い、何」と呟きながら顔を上げると顔を強張らせた近田の姿

「?」
「・・・いる」
「あ?」
「誰かと一緒にいたら近付いて来なかったのに」
「・・・」

柿内が店内をぐるりと見回す。怪しい人間がいるとも思えなくて近田を見ると近田の斜め後ろに1人でじっとこのテーブルを見つめる人間に気付く

「あいつか?メガネかけたひょろっとした・・・」
「・・・」

青い顔をして頷く近田に柿内は男を値踏みするように見つめる

「なんで・・・」
「あー?」
「いつもなら誰かと一緒って判ったらすぐ避けていくのに」

安田でも他の同僚でも友人でも誰かと一緒ならこんなに近付かれたりしないのに、今日はすぐ近くまで来ている。エスカレートしている。そう思って近田は小さく震えた

「あー・・・安田だっけ?あいつもだけど、お前のいつも一緒にいた奴って、アレだろ。イケメン。大体そういう系の奴らとつるんでんだろ」
「え?」
「まぁ、気持ちも判るな。自分以下だと思われてるだけだろ」
「柿内くんは別に・・・オレは好きだけど」

小さい声で呟くと柿内は出てきた料理のポテトをつまんで聞き流されたと思い、もう1度「好きなんだ」と言ってグラスのワインに口をつけた

「そうか・・・」
「・・・オレ本気だよ?」
「今日は食ったらすぐ出るぞ」
「・・・」
「お前の部屋まで付いていく」
「え」

期待していいのか。そう顔を綻ばせながらだったらダラダラと食べるのではなく、早く食べてしまおう。と急いで料理と飲み物を口へと運んでいく

一方、そんな近田とは違って、柿内はすぐ近くにいる男から意識を反らさずハンバーガーを無言で食べた








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青春はプールの中で13-23 - 05/27 Sun

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目を覚ますと明るくなった部屋に朝が来たのだと理解する
体を起こすとギシギシと痛むような体に小さく呻き声を上げた

「痛っ・・・」

普段使わない筋肉の痛み

体を動かしている方である柚木だったけれど昨日のそれはどうにも久し振りなことで普段使わない筋肉を使うのだと理解せざるを得なかった

だが、そんなことよりも

夢じゃなかった

でも幻影だと思われていた時の方が幸せだったかもしれない

後悔ばかりで現実が怖い

リビングに向かうと掃除され、整頓された部屋

「・・・?」

畳まれた洗濯物、机の上に並んだ好物ばかりの料理

でも、肝心の柿内の姿はどこにもなくて柚木は柿内の部屋をノックし、ドアを開く

「・・・いない」

もう戻らないんじゃないか。そう不安になったけれど部屋の荷物はいつの間にか段ボール箱が消えていたし、出て行く雰囲気でもないことを確認する

柚木はリビングに戻ってテーブルに乗った料理をつまんで口へ運んだ

柿内の料理

柚木が好きな味

柿内が自分のために作ったもの

柿内が自分のために料理の腕を上げたという経緯まで理解しているからこそ柿内の料理は柚木にとって特別なものだった

柿内も後悔しているのだと思うと心苦しい。柿内のせいじゃない。煽ったのは自分。そしていつも自分たちには言葉が足りない

恋人の時も今も

お互い考えすぎていて爆発するまで本音を隠してしまう
お互いがお互いを理解し合っているようでそうじゃない。気を遣っているわけじゃないのに感情が邪魔をして考えすぎてしまう
柿内が苦しまないように
柚木が悩まないように
2人ともそう考えるあまり、自分の考えを素直にすぐ打ち明けられない。正直な自分でいられるのに。一緒にいると1番心が休まるのに

特別であるが故に特別な場所を失いたくなくて言えないことがたくさんある

「話したい・・・柿内」

冷めた料理を口へ運びながらそう呟く

素直になるのは照れくさい。幻滅されそうで怖い。本音を言わなくても楽しいのに本音を言う必要があるのか判らない

本当の自分でいられるだけで、受け入れられていることが幸せで・・・そうだった。柿内は本当はワガママで意地っ張りで強がりで甘ったれな自分を受け入れてくれた。それが理想と違うから受け入れてくれない?何故そんなこと思ったのだろう。思えたのだろう

柿内が部屋探しをすると言った時、正直に引き止めた自分だって柿内は優しく受け入れてくれたのだ。もし、今更だとしても、裏切った自分だとしても好きだといえば付き合う、付き合わないは問題じゃない。受け入れてくれるに決まっている

「・・・戻ってこいよ。柿内ー。流石に食い切れねぇよぉ」

柚木はそうボヤいて手にしたフォークでハンバーグを突き刺した







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青春はプールの中で13-22 - 05/26 Sat

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何度達したかだなんて判らない。ただ、判るのはこの独特の疲労と倦怠感。そして、全身についた噛み跡だけ

顔が近付けられる度、キスを期待したのに最後まで唇にはくれなかった。これが柿内の『線引き』なのだろう。柿内らしいといえば、柿内らしい

「・・・悪かった」
「・・・」
「こんなことするつもりじゃなかった」

カチンとくる言葉

じゃあどんなつもりだった?柿内はどんな気持ちで自分を抱いたのか

同情?最初から判っている。これにあの時と同じ愛情なんてカケラもなかったことくらい

嫉妬?理想の柚木 流じゃなかったから?じゃあ柿内にとっての理想の柚木 流はなんだったのだ

友情?友達とセックスするなら親友の但馬とだって求められたらするのか?

「ふざけんな・・・」
「・・・悪かった」

再び謝られて、そこに謝る理由なんてないはずなのに愛がなくてごめん。と言われているようで、愛なんてない行為だったと突きつけられているようで唇を噛む

ベッドから立ち上がって部屋を出ていく柿内の背中を掴みたい。好きだから。柿内だけが好きだから期待してた。全部柿内だけ。出逢いを求めに行ったけれど、結局は柿内以外は心も体も許せないと判ったから。モテないなりにも誘われたこともある。でも、ついて行かなかった。ついて行けなかった。だって、彼らは柿内じゃなかったから。ずっと柿内を想いながら偽物のそれで自分を慰めていた。言えない。これも柿内の理想とはきっと違う柚木 流だから

「・・・ぁ・・・」

ゴミ箱に捨てられたコンドームには精を吐き出した形跡がなくて柚木は天井を仰ぎながら左手で顔を覆う

感じてたのは、快楽に溺れたのは自分だけ。柿内は自分の中で感じることさえしてくれなかったのだと思うと罪悪感と虚無感で心が押し潰されそうだった
柚木は嬉しかったのに。こんな関係はよくない。そう思う気持ちもあったけれど、柿内が自分を求めてくれていることが嬉しかったのに・・・結局は独り善がり・・・















心が痛い。柚木に乱暴した。もう二度とあんなことしない。そう誓ったのは何年も前のこと。柚木が泣くまで体を打ち付け、止めろと懇願されても止めてやらなかった

これが夢でも幻影でもなく、現実なのは背中に立てられた爪の跡がヒリヒリと教えてくれる

「・・・」

達せなかった理由は判らない。柚木が他の男に抱かれている。そう思っただけで頭に血が上り、あり得ないほど興奮を覚えたのに快楽は感じていたのに昇りつめることができなかった

射精障害かなにかかと思ったけれど自室では問題なく達することができたし、柚木に触れ、挿入し、快感は確かに感じていたのに自分の体も心も判らない

天井を見上げて壁を見つめる。壁の向こうに柚木がいる。もっと抱きしめて優しくしてやりたい。でも、怖い。柚木にまた拒絶されることが怖い

柚木に乱暴して自分はもうこの部屋にいるべきではないのかもしれない。でも、柚木を癒したい。その為に柚木が間違った方へ進まないように・・・いや、自分が嫌なのだ

柚木の傍を離れることも、体の関係だけの相手を作ることも許せない

恋人でもないのに、恋人になるつもりもないくせにこんな独占欲間違っている

判っているのに手離せない。手離せないからこそ柚木からの拒絶が恐ろしい

柿内は立ち上がるとキッチンに立つ
何かしていないと落ち着かなかった。柚木への謝罪がこんなことでできるとは思えないけれどせめて冷蔵庫全てを柚木の好物で満たそう、そう思って

いや、自分がここにいていい理由を作りたくて

それでも柚木が許さなかったら???

「クソ・・・キツいっ・・・」

柿内は苦しくて息が詰まる感覚に胸を押さえた






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青春はプールの中で13-21 - 05/25 Fri

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柚木の部屋に連れていかれ手荒に全てを脱がされる。あの時と似ているな。と思いながら柿内が乳首に噛み付くのを身を捩りながら耐える

あの時、柚木の浮気を疑った柿内は全身に赤い鬱血の跡をつけた

荒々しく強引に無理矢理内部を暴かれて揺らされ強制的に快楽を引き出され、でも、愛を感じた。柿内がこれ以上なく柚木を愛しているのだとしっかり感じられた

「っ・・・いっ」

薄い脇腹を噛まれると目を強く閉じて痛みに耐える

「・・・」
「っひあっ」

痛いと訴えればそこを優しく舐め上げられ、優しく丁寧に舌で愛撫される
痛みを与えられた敏感な場所を愛撫されると痺れるような甘い快楽が襲ってきた

「ぁ・・・柿内」
「あ?」

オスの顔をした柿内に背中がぞわりと粟立つ

久し振りに見る飢えた獣のような顔も愛しい。好きなのに裏切った自分から言えなくて、言ったら柿内が困るのを判っているから

「ホント、どんだけだよ・・・男にモテねぇっつってたのにここ、柔けぇ」

後孔に指を這わせただけで飲み込んだそこは柿内のためだけに、いや、自分が柿内とできるならと期待して触っていた場所

「ゴムとかあんだよな?」
「あ、待って」

サイドボードから取り出した開封済みのコンドームの箱と使いかけのローションに舌打ちをした柿内に柚木は唇を噛む

自分で使っていた分だけれど今は何を言ったって無意味

「中も出来上がってんだけど?何これ。どんだけヤってんだよ・・・どこのどいつだよっ!クソっ!クソっ!!」
「っ・・・イイからっ!も、イイから!お前、挿れられるんだろ?も、できるんだろ?ならっ」
「イヤだ」

「え?」と驚きの声を漏らすと気配を感じて体を強張らせる

「や!待っ!っっっーーー」

内部を指でぐるりと撫で上げられ、口内へ自身を含まれると両方から来る刺激に体を仰け反らせながら襲って来る快楽に耐える

気を抜いたら達してしまいそうな快楽。他の誰でもない、柿内にされているから

柿内に愛されているように感じるから

いや、きっと愛はあるのだろう。乱暴な中にある優しさ。恋人への愛情ではなくても柚木への愛情は変わらず柿内の中に存在するから

「も、離せっ!ムリ!達くっ」

柿内の頭を掴んでも動かない柿内の口へ精を放ち快楽の余韻に浸る

「・・・柿内、待って!待って!オレっ達ったばっかぁ」
「待たねぇ」
「っーーー!!!あっ、やっ!」
「あんたの気持ちいいところ中も外も全部、全部擦り上げてやっから・・・」
「や、やぁっ!そこっ!待てってっ」

柚木が達した後すぐに押し付けられた柿内の昂りはゆっくりゆっくり柚木の中へ埋められていく
ゆっくりな挿入の後、ゆっくりと柚木の感じる場所を的確にゆっくりゆっくり押し上げていく。もうずっと触れられてなかったのに。忘れていなかった場所。柚木の感じる場所をしっかり覚えているような柿内の動き

「ぁ・・・また達くからっ!続けて達くのキツいっ」
「達けよ。あんたのセフレの誰より感じさせてやるから」
「っ・・・」

違うのに。セフレなんていないのに。理想と違う自分がそんなに許せないのかと思うと冷えていく心と快楽に責め立てられながら柚木は柿内の背中に爪を立てた










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青春はプールの中で13-20 - 05/24 Thu

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柿内と顔を合わせてもいつもの柿内でどこか変わった様子もなく、話しても近田の話も出てこない。安田から聞いた話は安田の勘違いじゃないかだと思う程。いや、きっとそれは柚木の願望

「暑っつーーー!やばい!今日暑かった!シャワー行ってくる!」

近田の話を聞きたい。聞けない。聞きたくない。そんな休日。柚木はいつものように野球の練習とフットサルの試合出掛け、戻ってきたが、これから汗をシャワーで流したらフットサルのメンバーと飲みに行く約束がある休日

柿内は静かに何かの本を読んでいたし、柚木もいつも通り

「んじゃ行ってくる!飲みだから遅くなるかも!!!」
「っておい!練習着脱ぎっぱなしかよ!」

慌ただしく出掛けて行く柚木はいつも通りで、柿内もため息を吐きながら柚木の練習着を拾って洗濯機へと入れようと立ち上がる

「・・・」

柚木の練習着を拾った瞬間、懐かしい匂い

よくない。こんなことはよくない

そう思いながらも練習着に顔を近付ける

変わらない。いい香りがするわけじゃない。でも、あの頃と変わらない柚木の匂い

汗の匂い

土の匂い

そして太陽の匂い

太陽のもとで走り回る柚木。太陽に愛されているんじゃないかと思う程にいつも太陽の存在を感じていた
変わってしまったもの、変わったしまったことはたくさんあるのに、変わらないこともこうやって存在するのだと実感する

「柚木さん・・・」
「んー、なんかデジャヴ?」
「っ?!」

顔を近付けていた柚木の練習着を落とすとバツの悪い顔を見せる柿内に柚木は微笑む

チャンスだと思った。柿内があの頃と同じように自分にまだ性的欲求を持ってくれるならば、近田よりも自分を求めてくれるならば

「何しようとしてんだよ。オレの練習着で」

あの時を繰り返すならそれもいい。そう思って悪戯っぽく笑う

「・・・加齢臭チェック?」
「またおかしな言い訳すんだな!お前ー!あん時はなんて言ったんだっけ・・・嫌がらせ・・・だっけ?」

笑いながら「まぁいい」とシャツを脱ぎ捨てる

「お前がまだオレにそう言う劣情抱いてくれてんなら丁度準備もしてあるし予定キャンセルしてヤろうぜ?」

準備は実はずっとしていた。あの時、柿内が柚木の幻影だと思って柚木を抱いてから。一緒に暮らし始めてからずっと。ずっと

「は・・・?」

柚木にソファーへ押し倒されながら怪訝な顔を浮かべる柿内

「・・・?」

強張った表情の柿内に柚木はシャツを脱がせようとしていた手を止める

「え、マジで、何?加齢臭チェックだった?」

柿内はそんな気なかったのに自分は何をしようとしているのかと戸惑いシャツを離し身体を起こす

「・・・悪い。っつか、オレ財布忘れてさ。取りに来ただけなんだよな」

慌てて立ち上がる柚木の腕を掴む

「何?準備って」
「え?」
「あんた・・・クソ」

クシャクシャと髪を掻き毟るように苛立つ柿内

「飲みに行くメンバーに恋人いんのか?」
「違・・・」
「じゃあ何?その後誰か、恋人と会うのか?」
「違う!いねぇよ・・・」

柿内と期待して・・・あの日のように求められたらすぐに応えられるように期待して。そんなことあの日を幻影だと思っている柿内に言えるわけない

じゃあなんて言えばいい?なんと言えば納得してもらえる?柿内を傷つけないで納得してもらうには?

「恋人いねぇのに・・・っんなの!あんたらしくねぇだろうが!」

自分らしくない?

何が?どれが?

冷える。好きだという感情がこんなにも熱く溢れているのに腹の底から冷えていく感覚

「お前もオレに理想押し付けんのかよ」
「あ?!」
「皆が勝手に想像して理想を作り上げてる柚木 流じゃねぇとお前もダメなのかよ!」
「んなこと言ってねぇ!」
「同じだ!皆勝手に理想押し付けて違ったら幻滅すんだろ!だから!だからオレは」
「誰でもいい理由になんねぇ!体鎮められりゃ誰でもいいならオレだっていいんだろ!どこの輩か判んねぇような奴より!変な病気持ってるかもしれねぇ奴よりオレだったら!!!」

柿内に首筋を噛みつかれて痛みと快感が襲う

痛みで快感を感じるだなんて柚木にはあり得ない。でも、歯を立てたのは柿内だから。ずっとずっと欲しかった柿内だから

柿内を誰にも奪られたくない。柿内全部自分のものにしたい。これが柚木の本音。誰かと幸せになるのを祝福したい。そんなの皆の望む「柚木 流」の願望でしかない。本当は、自分らしい柚木 流は柿内の全てを手に入れたい

優しい柿内も怒った柿内も笑った柿内も辛い柿内も全部全部自分だけが見ていたい

だから、今、この怒りで欲望を剥き出しにした柿内も自分だけのものにしたい








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青春はプールの中で13-19 - 05/23 Wed

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本当に部屋の前まで送ってくれた柿内に近田は1人になってから甘いため息を漏らす

優しい人。今までもそんな人と付き合ったことはある。でも、どこか表面的で近田の付き合った男は皆、裏があった。暴力的になる人、ヒモみたいな人、合鍵を渡されて舞い上がっていたところにすぐ本命がいるから返せと言った人

彼らの優しさと柿内は全く別の優しさを持っていた。冷たい、雑、言葉はキツい。でも、混み合っているはずの電車で他の人に触れられないようそっと守るようにしてくれた柿内。道で道路側を譲らなかった柿内。部屋に入るまで外で見張るように待っていた柿内

女じゃないのだからそこまでしてもらわなくても構わなかった。でも、柿内は特別女扱いするような素振りもなく、ただ、怖がっている人間を守るように近田に接してくれた

「本気で惚れそう。ヤバい」

柚木が柿内に惚れていたのが判る。恋人にはきっともっと優しくなるんだと思うと胸に湧き上がる恋心が止められなさそうでベッドに転がるとバタバタと足を動かした



「帰り、誰も一緒に電車乗る奴居なけりゃオレに連絡してもいい」
「え?」
「まぁ、お前の職場からここまでだったら通り道だし」
「いいの?」
「だからって毎日連絡してくんな。色々条件が重なりゃ一緒に電車乗ってやらねぇこともねぇっつーだけだから」

帰り際に言われた言葉を何度も何度も頭の中で再現する。柚木が忘れられないのも頷ける。親身になって相談に乗ってくれる柚木が惚れた男。最初見た時はいい体。としか思えなかったけれど惚れるに決まってる









「流ちゃーん」
「また来たのか・・・っつか今日も柿内いねぇよ?」

柚木が部屋のドアを開けると安田の姿があって苦笑しながら中へと促す

こんな風に毎日のように新井や弟の秀がやって来たのを思い出す。柿内がいて嵐のような新井に2人でため息を吐きながら笑って、秀を2人で甘やかしたりして笑って・・・もうずっと前のコトなのに昨日のことのように思い出せるのは再び柿内と共に暮らすようになったから

「最近1人なのは光多にフラれっぱなしなのかよ」
「うん?」
「統一と光多っていっつも一緒だろ?」
「まぁ、職場が同じビル内だし?」
「だろ」

持ってきたワインボトルを机に置くと「これも買ってきた」と言いながらワイングラスのセットを並べる

「入り浸るつもりでとうとう持ってきたか。いつかはやるだろうと思ってたけど」
「やっぱりワイングラスじゃないとさー」

柿内と顔を合わせる時間が少ない生活になってから反比例するように部屋を訪れる回数が多くなった安田。しかも1人で。それが気になってあんなに仲の良かった近田と何かあったのかと邪推し、あまり深く聞くに聞けない状態が続いていた

「柿内さん、今日も遅いのー?」
「まぁ、遅いっちゃ遅いけど」
「そっかぁ」
「柿内に会いに来てんのかよ?」
「流ちゃんとワインを楽しむため!」

ふわりと微笑んだ安田にワインを注がれたグラスを渡されてそれを受け取る

「オレさー、就職してから結構すぐゲイバーで光多に会って「あ!こいつ同じビルで働いてる奴だー」って意気投合してそれから結構ずっといつも一緒だったんだよねー。まぁ、職場同じビルだし、家も結構近いし」

今日は近田のことを話したい気分なのかと柚木は黙って安田の話を聞きながら頷いた

「光多に彼氏できてもオレに彼氏できても毎日会ってたし、あ、今でも朝一緒に会社行くから会ってるには変わりないんだけど」
「あぁ」

痴漢に遭ってから1人で電車に乗るのが怖いと言っていたのは覚えている

「でも、帰りは別のことが多くなったわけー」
「・・・」

ああ、彼氏ができたのか。と思いながら安田を見ると優しく微笑まれる

「本命できたみたいよ?どうする?流ちゃん」
「なんでオレ」
「相手、柿内さんだから」
「そ、そうなのか・・・でも、こないだ少し会っただけ・・・?」

そこまで口にしてハッと気付く。本命が柿内ならば安田と共にここへやって来るはずで、一緒に帰らないという理由にはならない

「光多さー、ストーカーされてんじゃんー?同じビル内の奴にー」
「あぁ、まだ解決してなかったのか」
「うんー。たまたまオレが直帰の日にさー、そいつにつけられてただでさえも電車苦手なのに追われて逃げるために逆の電車乗ってった時、たまたま降りた駅で偶然柿内さんに会ったらしくてさー」
「・・・」

聞いていない。近田と会っただなんて。いや、そもそも報告は必要か?

「優しいよねー。柿内さん。オレが一緒に帰らない日は柿内さんに送ってもらえる日なんだとさー」
「・・・そうか」
「どーする?流ちゃん」

どうするも何も、何もない

逆に本気になったところで叶わない恋を同情するだけ。自分と同じ想いを抱える人間が増えただけ

「あいつは・・・オレがあいつを傷付けたからもう誰とも付き合わないって言ってたからな・・・光多に教えてやったほうがいいのかもなぁ」
「何それ」
「オレはあいつを傷付けた。裏切って拒絶して・・・次のやつで癒されたのにまた失ってボロボロになるのが嫌だからもう恋愛しないらしい」

安田は鼻で笑う

いい歳して恋だの愛だのキレイなことばかり言う柚木がおかしく見えて

「流ちゃん男でしょ?」
「は?」
「柿内さんも男じゃん」
「だから?」

柚木のグラスにワインを注ぐ

「心と身体は別問題」
「いや」
「恋はしない?そんなこと言ったって目の前に美味しそうな物件が口開けてたら突っ込むでしょ」
「・・・そう言うやつじゃ」
「何?信じるねー!信じたいのは判るけどー」

どんな綺麗事を言ったところで肉欲には敵わない。そう思っている

「あいつはそんなやつじゃない。昔からあいつを知ってるから」

柿内は性欲よりも精神的な繋がりで相手を求める人間だから

「昔はそうかもだよねー?だってそれ、学生時代の話でしょ?いい大人が綺麗事だけで何年も生きてなくないー?それに、流ちゃん柿内さんと離れてた期間あったんでしょー?人間は環境でも付き合う人間でも変わるって」

変わる?変わった?柿内が?

確かに話していて知らない柿内もいた。でも、それでもやっぱり柿内は柿内で、知らない間を話すことで埋めたかった。少しずつ埋められてきている。そう思っていた

「流ちゃんは見た目がそこそこタイプの人に抱きたいとか抱かれたいって迫られたら?」

でも柿内は自分とは違う

「あ、もしかして!そもそも柿内さん、光多のことタイプじゃない?!」

タイプ?柿内のタイプ?知らない。でも近田を思い浮かべると栗山の姿がチラつく。似ている。どこが、ではなくてタイプ的に似ている

「アハハー!流ちゃんどーすんのー?」

安田に言われて苦笑しながら首を振る

「どうするもなにもなぁ・・・」

友人の恋は応援したい。でも、相手が柿内だったら?

誰とも付き合わない。そう言った柿内だけれど栗山のように柿内の傷を癒す存在になったら?

愛されることで柿内が心を開いて甘やかし、愛するようになったら?

嫌だ。友人の幸せも柿内の幸せも望みたいのに望んでいるのに心が否定する
柿内の隣で1番近い存在が自分じゃないなんて嫌だった









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青春はプールの中で13-18 - 05/22 Tue

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柿内の直行直帰生活が始まる。柚木に伝えた時、驚きはしたが、大変だな。と言ったくらいで特別何も言われなかった。これがもし栗山だったらきっと文句ばかり出ただろう。朝も早くて帰りも大変だ!だとか体力的に大丈夫なのかとか心配してきただろう・・・いや、これを栗山と比べるのは間違っている。そう思い直してまだ比較的空いている早朝の電車で小さく首を振った

比べる理由がない。栗山は恋人だったし、柚木は違う。もし、柚木が恋人だったとしたら?なんて有りもしない「もしも」を想像したけれどその時も柚木はやっぱり「仕事だから大変だけど仕方ないな」という答え。柿内も同じ考え。柚木が仕事で朝早く出て、帰りも遅くなるとしたって大変だだとか体はもつか、心配はあるかもしれないけれど仕事なら仕方ない。と何も言わないだろう

栗山と柚木。比べようがない存在。どちらも恋人だったことはあったけれど共通点といえば高校の部活が同じだったこと、どちらも男だということくらい

性格も違ったし、歳も違う、タイプも体型も全部違ったのだ

けれど、どちらも柿内を愛してくれた人

どちらも柿内が愛した人








最初はなかなかの山道を自転車で行く日々がキツく感じたが、それも1週間すると体を動かせる喜びへと変わった。ただ、汗をかいたまま電車に乗るのは毎回なんとも言えない気分になったけれど

「・・・」

その日、柿内はいつも通り、水分を補充しつつ電車を待っていた

そして、見覚えのある顔に目を止める

「ぁ」

あぁ、やっぱりそうか。確か、柚木の友人で近田という名前だったと思い出しながらと小さく会釈をするとすぐに近田が立ち上がって柿内に近付いて来た

「柿内さん、帰りですか?」
「あぁ。あんたもだろ」
「まぁ、そう・・・なんですけど」

この間会った時と様子が違うのは仕事帰りだからなのか?と思いながら間も無く電車がやって来るというアナウンスに耳を傾けた

アナウンス通り、電車がやって来る。柿内はそのまま前を向いて乗り込もうとして動こうとしない近田を振り返る

「乗らねぇの?」
「あ、乗・・・る」

乗ると言いながら動かない近田をよく見ると小さく震えているようで、顔色も悪いことに気付き、ため息を吐くとベンチへ座らせた

「調子悪いのか?」

首を振る近田に「なんか飲むか」と自販機を指す

「・・・オレ、1人の時はできるだけタクシーで帰ることにしてるんですよね」
「あ?」
「・・・笑っていいよ。1人で乗る電車怖いとか、今月は結構厳しいからタクシー使うのもなーっていうのとか」
「・・・まぁ、オレも電車、大して好きではねぇけど」

再び首を振る近田

「オレねー電車苦手で」
「まぁ、そう言う奴もいるな。気分悪くなる奴見たことあるし」

近田が喋り出したから柿内も仕方なくベンチへ腰を下ろす。もしかしたら、やっぱり電車に乗って気分が悪くなったからここで休憩でもしていたのだろうか

「ここまではなんとか来たんですよね。でも、実は家反対方向みたいなー」

方向音痴なのか、電車の乗り方が判っていない不安から電車が苦手なのかと推測してしまう

「オレね、男運ないって流ちゃんから聞いた?」
「あ?」

何を突然話し出したのかと顔を上げると青い顔をした近田に栗山の姿が重なって息を飲む

そうだ。あの時は気付かなかったけれど似ている。どこか栗山に似た印象の近田

だからなのか、ワガママを聞いてやりたくなる。そんな感情が心の中で渦巻いて行く
この間のように皆に気を遣わせないように普段は必要以上にバカみたいに明るく振舞っているのではないだろうか。栗山のように

「ストーカーって言うとさ、なんかモテ自慢とか言う人いるけどさ。痴漢されたとか男のオレが、ましてやゲイのオレだとさ、喜んでるとか、嬉しいとかさ」
「・・・待てよ。お前、誰かに狙われてんのか?!」
「ハハ。何でだろ。会ったの2回目なのに何重い話してんだろ。オレ。こんなつもりじゃなかったんだけど」
「んなことどうでもいい。誰かに狙われてんのか?」
「・・・楽しまれてんのかも。怖がる姿を見て・・・オレも最近平和だったしもうほとぼり冷めたって油断したのも悪かったけどまさか、追っかけてきて電車で汚い物押し付けて来るとは思わないじゃん・・・」

再びアナウンスが流れる

「立て」
「え?」
「誰かと一緒なら乗れんだろ?オレがいるから乗れるっつーことだよな?」
「・・・でも」
「不安なら家まで送ってやる」
「そんな」
「怖ぇとか感じるのに男も女も関係ねぇよ」

ホームにやって来た電車のドアが開いて柿内は近田の腕を掴むと電車に乗り込んだ










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