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柚木君と竹市くん11-4 - 06/30 Sat

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疲れすぎているとなかなか寝付けなかったりする。それが今の竹市の状態
柿内が突然扉を開いたことも影響しているんじゃないかと思うと柿内を恨んだ。今の状況をちゃんと弁えているのに、突然入ってきて言いたいことを言ってすぐ出て行った柿内。いつか自分たちの部屋に遊びに来ることがあったら同じことをしてやろう。そう思いながらため息を吐く

体は疲れて眠いのに頭が興奮しているのか球の頭を撫でながらなかなか眠れない状態に再び寝返りを打った

「あー眠れねぇなー」

球を起こさないよう体を起こすと何か飲み物でも貰いに行こうと立ち上がる
人の部屋でも勝手にできるのは昔から知る人間の部屋だから。そして今はもう家族の部屋だから

「って・・・っ」

しかし静かな夜に響くような声に動きを止める

「マジか・・・」

聞きたくなかった。自分には注意しに来たくせに、いや、注意しつつもするなと言わなかったのはこう言うことかと頭を掻くと再び球の隣で寝転がる

「起きて中断させてもなぁー?」
「んー・・・」
「球ー、オレらもヤっちゃうー?」
「んん・・・」

軽く身動ぎしただけの球に目を細めてポンポンとあやすように肩を叩く。疲れているのだと思う。自分よりもギリギリまで予定がぎっちり詰まっていた球。それでも弟に会うために頑張っていたのだ

1度気になるとそこへ意識が集中するようで耳につく声




「もっ・・・吸うなっ」
「らせよ」
「っく・・・」
「らせって」
「咥えたままっ・・・喋んなっ!」

顔を押しのけられて雄を口から吐き出すと柿内に抱えられ引き起こされる

「あんたに自由にされっと声、出ちまうんだっつーの」

恥ずかしそうに言った柿内が可愛くて愛しくてぎゅっと抱きしめると顔を上げて柿内を覗き込む

「じゃあどーする?」
「・・・」
「お?兜合わせっつーやつ?」
「黙れ」
「昔から思ってたけどお前ムッツリだよなーエロいこと大好きなのに色々知ってんのに・・・ん、そこ、もっと強く」

柿内の手の上から握るとさっきまで舐めていた唾液と先走りがヌルヌルと滑りを良くしていく

「ローション垂らしてもっとぐちゃぐちゃにして」
「あんたっ・・・ホントっ」
「エロいってー?オレ普通だからなー?お前ほど初心じゃないだけで」

余裕のある柚木が笑ってローションを垂らすと余裕ない柿内の顔に微笑む

全部自分のもの。こんなに余裕のない柿内はもう誰にも渡さない。見せたくもない

「ヌルヌル気持ちいい」
「汚れっ・・・だろっ」
「オレが洗うし」
「絶対だなっ!」

おう。と頷いた柚木を押し倒すと雄剥き出しの柿内の表情にぞくりと震えた

「お前のその顔、すげぇイイよ」
「黙って感じてろっ」
「ふはっ!それ、オレも言いたい。オレを感じろ。オレで感じろ」

甘い空気は要らない。友達、親友のやり取りが1番似合う。でも、友達じゃない。ただの親友じゃない

愛し合うこの感情は友情じゃない。確かにそこに存在する愛情








1人もぞもぞ眠れない時間を過ごしていた竹市だったけれど隣から漏れてくる声に耐えきれなくなって洋服を着込むとコートを着て立ち上がる

リビングでゴソゴソしていては気を遣わせるかも知れないけれど玄関からすぐの柿内の部屋からだったらコンビニくらいは行ってもバレないだろう。という考え

そっと部屋のドアを開ける

「っ?!」
「・・・」

しかし、そこにはタイミングが悪すぎたとしか言えない全裸の柚木を抱き上げ、バスルームへ向かう下着1枚の柿内の姿

「コンビニ行ってくるからごゆっくり。あー、でも球さん起こすなよ」
「いってらっしゃい」
「っーーーーーー」

普段通りの柚木とその場に蹲る柿内を鼻で笑うと竹市は冷たい夜の空気の中へと出て行った









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柚木君と竹市くん11-3 - 06/29 Fri

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自分の部屋の扉を思い切り開けた後にもし、もうコトに及んでいたら・・・と気付いて気まずい顔をしたが、球を抱きしめながら横になっていた竹市が「はぁ?」と言いながら体を起こす

「・・・なんだよ」
「っあ・・・オレの布団でヤ・・・んなとは言わねぇけど!汚すなよ?!痕跡残すな!」
「・・・それだけ・・・」
「おう・・・」

慌ただしく出て行った柿内にため息を吐きながら球の大きな体を引き寄せながら横になる

「そーんなサルじゃねぇよーってな?」

眠る球の髪を撫でて額にキスをすると「たけちゃんー」と口を開いた球を優しく撫でながら微笑んだ

穏やかな時間。お互い忙しくてなかなかゆっくり時間が取れない日もあるけれどこんな風に眠る球を抱きしめられる時間が好きだった。現役引退しても忙しい球が自分のものだと実感できる秘密の時間

竹市にとってやっと自分のものになった気がするそんな時間



「愛してる」



何度伝えたか判らない。元々竹市の好みとは全然違う。そもそも男相手にするだなんて考えたことすらなかった

半ば強制された付き合いは長く続くなんて思わなかった

ただ、相手が有名人で、手の届かない人。そんな球が多少学校でモテたりはしていたけれど至って平凡な自分を好きだと言うことで優越感を感じていた

その優越感がいつから愛情に変わったのか・・・もう思い出せないけれど

今、こんなにも愛しい

それだけは事実






竹市にひとつ注意をしたくて自分の部屋へ行ったあと、そのままバスルームへ向かい、戻って来るとリビングのソファーベッドが濡れているのを見て「はぁ?」と声を漏らす

「悪いー!水こぼしたー」
「ワザとっつーの隠す気もねぇだろ」
「まぁ、ない!」
「・・・クッソ!可愛いことすんな!バーカ。っつか染みになっからこぼすな」
「素直になんない誰かが悪いんだろー」
「・・・あんたのベッド行ってイイわけ?」
「来いって最初から言ってんだけど」

顔合わせて笑い合うと柚木は柿内の手を引っ張って自室のドアを開くと嗅ぎ慣れない香りが鼻につく

「・・・芳香剤臭ぇ」
「だっ・・・お前がうるさいから」
「タバコ止めたの、オレのせい?」
「っ・・・だっ・・・て・・・お前がっ・・・」
「あー、うん。すげぇ嬉しい」
「・・・おう」
「流、試合、一緒に出ような」

ピクリと体が反応してしまう。柿内に名前を呼ばれただけで、たったそれだけで心が震えてしまう
2人きりの時はそう呼ぶ。そう宣言されたけれどあれからなかなかそんな機会もなくて、他の人に呼ばれてもこんな気持ちにならないのに柿内に呼ばれるとどうしても特別になってしまう自分の名前

好きじゃなかった自分の名前。でも、柿内に呼ばれるとそれだけで好きになれる気がしてくる

「何つー顔すんだよ!ったく!あんたホントそれワザとだろ!」
「ノリ・・・紀行・・・」
「っ・・・バカ!隣っ!誰がいるのかあんただって判ってんだろ!」

判ってる。でも、それ以上に柿内が欲しい

寒い部屋。でも、柿内と密着する場所が熱い

「ホントに寝ちゃうのか?」
「・・・寝る」
「・・・そうか」

強く抱きしめられている状態なのは柚木が手を出せないように

「オレ、今日抜いてない」
「・・・1日ぐらい我慢しろ」
「・・・勝手にするからイイ」

勝手に・・・そう言われて嫌でも口の中に溢れてきた唾液を嚥下する

乾いた喉がやけに大きい音を鳴らしてしまったことに柿内はしまったと後悔したけれど柚木が鳴った喉に唇を寄せてきて柿内の緩んだ腕から体勢を変える

柿内のスウェットの上から乳首に当たる場所を吸いズラした自分のジャージの隙間から手を差し入れて雄を扱き始めたのは密着してる場所から伝わってきて目を開けなくても何を始めたのかはっきりとわかってしまう

「・・・ふっ・・・」

柚木の息遣いだとか手の動き、無理矢理閉じた目を固く固く瞑る

「足りない・・・」

柚木の手が離れてカタンと何かを取り出す音に柿内は思わず柚木の手を引き寄せて止める

「・・・寝るんじゃねぇの?」
「寝れるか!バカ何しようとしてんだよ」
「その気になったか?」
「だからっ!あんたっ何」
「お前その気になんねぇからセフレくんたちにお願いしようかとー」
「クソ・・・そんな挑発アリかよ・・・声、出すなよ?」
「それ、お前だろ?」

ニヤリと笑った柚木にため息を漏らすと抱き寄せた柚木にキスをした




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柚木君と竹市くん11-2 - 06/28 Thu

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「ヨリ、戻ったってことだよね?」
「んー・・・流のあの幸せそうな顔見てもまだ疑ってんの?」
「疑うとかじゃなくてさぁ」
「そもそもあの柚木 流が指輪までしてんだぞ?」
「カッキーからのだと思う?」

竹市は球の頭を撫でながら「オレらの弟がそれ以外つけるわけないだろ?」と球の頭に唇を寄せた

「じゃあ、じゃあ・・・」
「流は事故にあって不自由してるからタイムマシンっつーわけじゃなかった」
「・・・カッキー・・・か」
「また一緒に暮らしてるのに付き合ってないって聞いた時は驚いたよなー」
「流ちゃん大丈夫かなーって心配した」

竹市に凭れ掛かりながら柿内と柚木を見つめる
心配なんてもうしなくて良さそうな2人に安心すると急に疲れが襲ってきて目を閉じる

「眠くなっちゃった?」
「ん、ちょっと」
「流、球さん眠いっつーからソファー倒していいか?」
「あ、オレの部屋使えばいいし!」
「あぁ、いいのか?球さん、ゆっくり休ませてやりたいけど」
「っつかタバコ臭ぇ部屋だからオレの部屋にしとけ」
「まーだやめてなかったのかー?」

コツンと頭を突かれると口を尖らせた柚木が「辞めましたぁー」と拗ねたような顔をする

そんな柚木に優しく微笑む柿内を見て全部柿内のおかげだな。と理解する

柿内がいればそれだけで柚木は心の安定を手に入れる。寂しさを別のもので紛らわせることもしなくていい・・・

「んじゃ、ちょっと球さん柿内の部屋に寝かさせてもらう」
「あぁ、手伝う」

球の大きな体を支えるように立ち上がった竹市の反対側から球を支えるとフラフラ眠そうにする球を柿内の部屋へ連れて行く

「もう1個布団、ここ敷けばいいだろ?あんたもここで寝ろよ」
「あぁ。イイならそれで頼むわ」

床に散らばった小物を足で隅へ寄せると柿内はクローゼットから布団を出してくる

「なぁ」
「あー?」
「今度は流、離すんじゃないぞ」
「オレは離した覚えねぇよ」
「ハハ・・・そうか。そうだな」

確かに。前回の時も柿内は柚木を離したわけじゃない。柚木が手離し、拒絶した。それも判っている

「寒かったら毛布向こうにもあるから」
「あぁ、大丈夫だ。球、体温高いし隣で寝てりゃ温かいだろ・・・まぁ、なんつうか・・・いきなり押しかけてきて悪かった」
「いや、別に」
「でも、来てよかった。なーんかさ、お前ら見て安心したわけだ。球さんも安心したからこーやって寝ちゃったわけだけど。オレもすげぇ安心した」
「そりゃよかったな」
「バーカ!お前のことだろ!」

昔から可愛げのない後輩の頭をくしゃくしゃ撫でてやると逃げるようにする柿内を捕まえてくしゃくしゃ撫でる

柿内が嫌がるのも判っていたけれど、それでもくしゃくしゃに撫でたい気分だった

あの時、高校の時柚木が好きだと言った柿内の気持ちを信じた自分を褒めたくて。あの時、高校1年の頼りないガキに任せようと思った自分は間違いなかったと思って








リビングに戻ってきた柿内がソファーベッドの用意をしているのを見て柚木は判りやすく機嫌の悪さを顔に浮かべた

「は?」
「何」
「お前ここで寝んの?!」
「いや、だって部屋貸したし」

ムッとしながら柿内のシャツの胸倉を掴んだ

「オレら付き合ってんだよな?お前!オレに指輪寄越したよな?」
「・・・そうだけど?」
「疲れてんだよな?!」
「あぁ、っつか休み入ったらメガネ作らねぇとだ。付き合ってくれるか?」
「付き合うけどっ!そうじゃなくて!何話はぐらかしてんだろ!今からオレのベッド行けばイイだろ」

柚木の頭をぐしゃりと撫でる。柚木を抱きしめながら寝てイイと言っているのだ。嬉しくないわけがない

「でも、あんた大人しく抱きしめられて寝てくれねぇから余計疲れそうだし」
「っ!」
「大人しく抱き枕になってくれんの?」

挑発的な柿内の顔に柿内の胸に拳を叩きつけると「ムリ!」と口を尖らせながらそう言った

「好きな奴とやっと付き合えたばっかなんだぞ?我慢なんてできるわけないだろ」
「・・・バーカ。それに隣、球さんたち来てんだから我慢できねぇならやっぱりこっち寝たほうがイイだろ?オレもあんたの挑発に耐えられるか判んねぇし?」

柚木は柿内の胸に頭をくっつけて顔を上げると少し背伸びして唇を寄せる

「兄貴たちだってヤってるかもだろ?」
「・・・!!!」

ハッとした柿内がバタバタと自室へ向かいドアを開くのを見て柚木は「あーあ」とため息を漏らした







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柚木君と竹市くん11-1 - 06/27 Wed

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柚木の誕生日の翌日、仕事から帰った柚木は薬指にはめられた新しい銀色の輝きを見ながら小さく笑っていた

あれから数日、相変わらず帰りが遅い柿内となかなか時間は合わないけれどこの指輪があの告白を嘘じゃないと、夢じゃなかったのだと教えてくれているようで安心する

そんなひとりの時間を壊したのは部屋に鳴り響いたインターホンの音

柿内は鍵を持っているし、インターホンということは近田や安田がやって来たのかとため息を吐きながら立ち上がる

指輪にきっと2人とも食いつくだろう。そう思いながら何から話そうかと考えた

「・・・は?!」

ドアを開けると無音のクラッカーを突然浴びせられて目を丸くする柚木

それもそのはず。そこにいたのはいるはずのない2人だったから

「1日遅れちゃったー!ごめーん!誕生日おめでとうーーー!!!」
「・・・ちょ、え?!」
「年末年始、長期の休暇貰えたからな」
「マジで?!」

柚木の笑顔に球と竹市も長時間の移動なんてなんてことないな。と微笑んだ

部屋に2人を招き入れると冷蔵庫を開けて何もないと呟きながら「ビールでもいい?」と尋ねた

「なんでもいーよー!!!ね!流ちゃんって年末年始どーするのー?お母さん流ちゃんに会いたいって言ってたよー」
「あー、あいつに聞いてなかった。でも、オレは顔出しに帰ろうって思ってたけど」

『あいつ』それが誰のことか直ぐに判って缶ビールを差し出した柚木の指の輝きにも気付いた竹市は柚木の頭を撫でる

「よかったな」
「・・・うん?」

タイムマシンなんて必要なかった。球はずっと探していたけれどそんなのもう必要ないのも判ったから

「流ちゃん・・・ごめんね。あのね、タイムマシンね・・・」
「は?何言ってんの?タイムマシン?」
「え!」
「んなのあるわけないだろ。イイ歳しながら夢みたいなこと言ってんじゃないぞ」
「でもっ!」

球の申し訳なさそうな顔に思わず吹き出す竹市

まだ気付いてないのかと球の手を握り、同じように球の指輪を撫でて気付かせようとする

「あ、っとね・・・タイムマシンは買えなかったけどこれ・・・」
「何?」

球が差し出した大きな紙袋を受け取ると気付かない球にため息を漏らす

誰よりもそういうことに早く気付くかと思っていたのに弟のことで必死すぎて気付かないのだな。と思いながら紙袋をガサガサ広げる柚木を見つめた

「おー!お土産!ありがとー!・・・って何これ」
「タイムマシン気分だけでも」
「ふっ・・・あはは!なんだよ!高校ん時の制服とかどっから!」
「こっちついて実家寄って来たから」
「ちょ!球!竹市さん相変わらず振り回して疲れさせてんじゃねぇよ」
「大丈夫だよ。流。振り回されるの昔からでもう慣れた」

優しく竹市が微笑むのを見て柚木も微笑んで頷く

昔から優しい竹市。先輩としても兄の恋人としても、兄の伴侶になってからもずっと

「流は高校の時に戻りたいんじゃないって何度も言ったんだけどなー」
「でも」
「それに、もうあったとしても必要ないよな?タイムマシン」

全て判っているような竹市の顔に照れくさくなって、でも小さく頷いた後、大きな頷きを繰り返す

「ちょっと!何2人の世界作ってんの?!たけちゃんの旦那さんはオレ!」
「はいはい。判ってるよ。ダーリン」

球と竹市がイチャイチャしているのなんて昔からで見慣れていたはずなのに今、頬にしたキスはあまりにも自然で逆に恥ずかしくなってくる

「・・・タイムマシンなくてもお兄ちゃんのこと嫌いにならない?」
「ならないし!」
「じゃあじゃあ・・・え?ええええ?!待って!流ちゃんっ!待って!」

やっと気付いたか。と竹市は笑いながら柚木の手をぎゅっと握って指輪を凝視する球に笑う

「どういうこと?流ちゃんいつの間に彼女とか」
「違うだろ。球さん」
「え?」

まだ判らないのかとため息を漏らすと丁度玄関から音がして「ほら、旦那のおかえりだぞ」と竹市が呟く

「え!ええ?!ホント?!ホントにホント?!流ちゃん!ねぇ!流ちゃん!」
「マジ・・・か。聞いてねぇけど」
「うわー!柿内ー!なんだよその顔色!最後に会った時の血色の良さどこ行った!」

カバンを置いてコートを脱ぐ柿内の姿を眺めながら竹市は笑う

まるで学生時代の柿内に戻ったような姿はここだけタイムスリップしたよう

「仕事キツいだけ」
「おかえり。球たちにお土産貰った!」
「あぁ、よかったな」

近付いてきた柚木の頭をくしゃりと撫でるとスーツを脱ぎ始める

どこか疲れたような顔なのに柚木に向ける表情が全てを物語っていて竹市はただ嬉しそうに球の肩を抱いた







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青春はプールの中で13-51《最終話》 - 06/26 Tue

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「あらあらー仲良しなーかよーしー!何あの指輪ー!いつの間にかカッキーまでしてるー!」
「瑞樹だって望んでたでしょ?指輪はこないだ柚木さんが柿内に買ったらしいよ。惚気てハッとして照れて隠してたあいつめちゃくちゃウケた」
「ふふふーっていうか予想通り!指輪も2人の仲もー!」
「とかなんとか言っていつもめちゃくちゃ心配してたの知ってるし」

塩素の匂いに高い湿度。熱気は集まった人数によるものか、それとも皆の想いによるものか

「心配するでしょー?!でもさー、もー円満円満大円団ー!って感じ?」
「はいはい。っていうかそろそろオレは行ってくるよ」
「うん!頑張ってね!カズくん!」

柚木に誘われた時は驚いた

自分たちの中で1番に水泳から遠ざかった柚木が再び泳ぐと言ったから

出逢った頃、水球をしていた柚木が再び競泳をやるというのも驚いた。競泳の柚木は新井にとって知らない柚木だったから新鮮さもあった

ずっと泳いでいなかった錆び付いた体で再び泳ぐだなんて。とそう思ったけれど泳ぎ始めたら思い出した熱い想い
そう思えたのはもしかしたら周りにいる仲間たちのお陰かもしれない

「柿内ー!行ってくる」
「おう。トップで帰って来いよー!インカレ記録残した栄光を思い出せー」
「記録残したのは予選だ。予選ー」

バンっと背中を柿内に押された但馬はストレッチをしながら進む

再び泳ぐのを決めたのは付き合いで。でも、新井が1人で野球やサッカーに顔を出すよりも一緒にやれる趣味が嬉しかった

誘ってくれた柚木にも柿内にも感謝である
柚木とは違って自分に目標もないけれど、泳ぐのは今でも嫌いじゃない。それはきっと新井がいるから。柿内がいるから

「流ちゃーんっ!カッキー!」
「おー!舞」
「応援しに来たー!あと差し入れね!あとあとー!お母さんはまた後でーって!夕飯一緒に食べようって!」
「あぁ、そっか」

柚木が再び泳ぐと打ち明けた後、じゃあ私も!なんて、まさか母までが参加するとは思わなかった

藤代 祥子が出場すると一部では騒ぎになったらしいが、柚木は知らない。知っているのは母が純粋に泳ぐことを楽しんでいるということ

自分と同じように水の中で泳ぐことを楽しんでいること

「秀ちゃんも来たかったって残念がってたー!」
「まこちゃんに2人目産まれたばっかだろ。今度こいつと行くって昨日連絡したっつーの」
「まこちゃんもカッキーに会いたいって言ってたー!こないだくれた授乳まくら?がすごいいいらしいよー」
「産科医の弟舐めんなよ」
「うんうん!あとね、あとねー!」

舞が興奮しているのは再び目をキラキラさせている柚木がいるせい。その隣で昔大会で見たように優しく兄を見つめる柿内がいるせい

「ユズ、負けた方が今日のメシ担当な?」
「負けねぇよ!残業ばっかでロクに練習してねぇお前に負けるはずない」
「言ってろ」

熱い2人のやり取り

年齢を重ねてもキラキラは消えないことを知る

「あー私もなんかバレー戻りたくなって来た」

引退したのは数年前。でも、熱い兄たちを見ていると体がムズムズとして来てしまう
人に影響力を与えるのは昔から。小さいころから兄の存在が舞のやる気を出させてくれた。舞だけじゃない。球や秀も同じ。代表選手になれたのもきっと柚木の存在



柚木に再び水泳をと言ったのは柿内。でも、柚木が新井や但馬を誘ったのは誤算。どうせやるならライバルがたくさんの方が楽しい!そう言っていたけれど楽しさよりも2人だけで目指すところが皆で目指す場所になってしまった。でも、それでも構わない。そう思えるようになった

あの頃の柚木がいるから

一緒に目指せるから

「流!行くぞ」
「ノリ、手ぇ抜くなよ?」
「バーカ」

中断した青春を取り戻すように泳ぐ

きっといつまでも輝きは消えない。2人で目指せる限り



目指すものが失くなっても平気



2人でいればきっと青春の輝きは消えない。これからもずっと






青春はプールの中で












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青春はプールの中で13-50 - 06/25 Mon

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果てた後の気怠い感覚に酔いしれながら柿内の体に手を伸ばすと「あ」と思い出したように呟いた柿内は体を起こし行く場所を失った手に柿内を睨む

もう少し余韻を楽しんでもイイのに。そう思いながら

「・・・は?」

ベッドから起き上がった柿内が脱いだデニムから取り出した小さな箱に柚木は固まる

「・・・これ・・・あんたが・・・あんたにやる・・・いや、違う。あの、あーーーっ!もー!!!クソっ!アレだ!アレっ!」

照れ屋の柿内に笑いながら小箱を開くと予想通りのものがそこにあって柚木はそっと銀色に光るそれを指で摘む

「柿内」
「・・・っ・・・オレの決意。誰とももう付き合わない。そう言っただろ。でも、それはあんたとまた、あんたが好きになってくれるとかあるわけねぇって思ってたし、あんたにまた去られたら嫌だって逃げだった。でも、もう逃げんのは辞める。別れても友達としてでいいから傍にいてぇとかそんな甘いこと言わねぇ」

口下手な柿内が一生懸命に紡ぐ言葉のひとつひとつが柚木の胸をじわじわ熱くさせる

柿内に言わせているのはこの自分だから。他の誰にも言わないことを自分に向けて言っているから

「親友としての座も恋人としての座も誰にもやらねぇ。全部オレがあんたの隣にいる。で、ライバルとしても」

そして差し出された1枚の紙

柚木は戸惑いながら受け取ると内容を読んで吹き出した

「待って!何これ!ジムの入会申込書っ!!ビビったのに何ソレ!」

柿内はニッと笑い柚木の肩に腕を回す

「そこ、ここら辺で1番遅くまでやってるプールあるジム。あとは判押せ」
「・・・」
「泳げねぇとか言わせねぇ。あんだけ走り回れるんだ。泳げねぇわけねぇよ。野球もサッカーもバレーだってイイけどあんたはプールん中が1番似合う」
「・・・柿内」

この間、興味がなさそうだった野球を見に来たのは自分がどれだけ動き回れるか、走ることができるかチェックするためだったのかと理解する

「オレをまた燃え上がらせろよ。確かに忙しくてロクに帰って来れねぇ日だってある。でも、それでもあんたが熱くなれるもの一緒に熱くなりてぇ」
「・・・オレ、ずっと泳いでないけど」

柿内が眉を下げて笑う顔が好き

「オレだって」

今、柚木の肩に回している腕だって少し戸惑ってぎこちない柿内が好き

「ライバルっつーと秀じゃないのかよ」
「日本代表ライバルとかデカいこと言えるかよ・・・っつか、あいつとレース出たけど、やっぱライバルはあんた。あんたを追い越したくていつか振り向かせてぇって思ってきた。種目の問題じゃねぇっつかタイムじゃあんたに負けたことねぇけどな」

不器用で真っ直ぐな柿内が好き

恥ずかしくなるとワザと悪態吐いてしまう柿内が好き

「目指せマスターズ優勝ってか?」
「あぁ、いいよ。あんたが目指すならオレも目指す。高校のインハイ目標にしてたときみてぇに」
「・・・」

自分のめちゃくちゃな夢にも付き合ってくれる柿内が好き

「あんたがそこ目指すっつーならオレもう一緒に目指す。野球もサッカーも一緒にできねぇけど泳ぐのだけはできるから」
「・・・オレ、毎日泳ぎに行くぞ?」
「いいよ」
「朝から体力作りって走るかも」
「いいよ」
「休みの日は」
「いいよ」
「まだ何も言ってない!」

柿内に抱きしめられる

柿内の長い手が好き

柿内の

「あんたはオレの傍で好きなこと一生やってりゃいい」

全部を愛している

「っ・・・バカ!プロポーズなのかよ!」
「・・・かもな。球さんたちみたいに結婚は無理だけど」
「指輪っ!オレだけかよ!」
「あー、だな・・・あぁ、でも、入らねぇけどもう1個ここにある」

柿内がデニムのポケットからもうひとつ銀色のリングを取り出すと柚木の手のひらに落とす

さっき渡された銀色よりも安っぽく光る指輪

「小指なら入るけどなぁ・・・小指ってなぁ」
「・・・何?」
「これもあんたの」

胸が締め付けられた

判ったから。もう、判ってしまったから

「渡すのに10年近く掛かっちまったけど」

あの日、話があると言った柿内が用意していた指輪

あの日も決心して待っていてくれたのに言わせなくしたのは自分

ずっとずっと遠回りした。避けて別れて離れて

そして、やっと柚木の手の中に、心へ繋がったこと

「流」
「え」
「・・・後輩としてのオレももう捨てんだよ。別にいいだろ。名前で呼んでも・・・2人の時くらいは」
「ヤバい。オレ恥ずかしくて泣きそう」
「オレなんて恥ずかしすぎて死にそうだっつーの」
「ふ・・・」

思わず吹き出した柚木な柿内も吹き出し、2人で笑いあった

「あ・・・」
「何だよ。まだなんかあんのかー?」
「や・・・セフレはこの、あんたのコレクション・・・だったわけだろ?」
「あー?まぁ、うん」
「じゃあ、あんた準備がどうのってなんだったわけ?」

柚木は「あー」と悩みながら柿内の唇にキスをする

「だから体だけでもってお前を期待してたわけ!お前がなーんか何かの間違いでその気になって誘ってくれたのにすぐ答えられなかったらお前も萎えるだろー?」
「・・・んだよっ・・・それ・・・オレのためとか・・・ホント・・・マジで・・・」
「あれー?柿内くん柿内くーん?まーたやる気になっちゃったー?」

茶化すようにそういった柚木。柿内が柚木を幻影だと思って抱いた日のことは秘密。きっとずっと柚木だけの秘密。知らなくてイイ。柚木だけが知っていればイイ


ずっと欲しかったものを全て手に入れたのだから。柿内からの指輪も言葉もそして、名前で呼ばれることも
全部全部柚木の手の中







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青春はプールの中で13-49 - 06/24 Sun

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柿内の手のひら、指、舌、息遣い、匂い・・・柿内の全てを感じられる

「も、イイって」
「まだ」
「まだってお前っ!いつまですんの?!」

柿内自身だって限界だと主張するように時折ビクビクと震えているのにそれでも執拗に触れらていく体。愛撫なのは判る。愛されているのを感じる。でも、それだけじゃもう物足りない

「欲しい。お前の感じて達きたい」
「・・・待って」
「ヤダ」

昂りを両手で掴み、柿内の体に馬乗りになると自分で腰を下ろして行く

「っ・・・ユズっ」
「熱っ・・・柿内っ・・・すげ・・・熱いっ」
「待っ・・・てってば!」

息を荒くした柿内に押し退けられて引き抜かれると高ぶっていた気持ちが急速に萎えていく
柿内に求められていると思った
自分が望むのと同じように柿内も柚木を望んでくれているのだと思った

でも、違った?

柿内が求めているのは心の繋がりで、それ以上のことは早急すぎたのか?
でも、お互い初めてじゃない。恋人だった時期があって今も再び恋人なのに

「あー、クッソ・・・痛ぇ・・・」
「オレじゃもう達けねぇわけ?」
「あぁ?!」
「お前っ!だって!」
「・・・ユズ」

頬に触れてきた手を払いのける

今更同情だなんて要らない。同じ気持ちだと思って、柿内も好きだと言ってくれたから遂に同じ気持ちになってくれたのだと思って幸せを感じていたのに

「・・・キス、していい?」
「はぁ?!」

何を今更!と思いながら、痛い程張り詰めた雄を握り苦しそうな顔をする柿内にハッとした

体だけでも。と言った時もキスはなかった

「・・・んなの・・・」
「キツい・・・キス、させて」
「だから!ここまでしてんのに今更なんでキスできねぇんだよ!」
「がっついたら夢中であんたにキスしそうだから」

すればいい。求めればいい
なんでしないのかが判らない

「でも、それ、避けられたりしたらキツい」
「・・・」

柿内とは最後にキスをしたのはいつだったか

「キス」

別れる前、キスを避けたあの日から?

柿内を傷つけ、ずっとずっと傷を残していたのだと気付き柿内の頬に手を伸ばすと唇に触れる

触れた瞬間、柿内から唇を押し付けられて舌をねじ込まれる

「はっ・・・やべぇ。ユズ、あ、ユズっ」

キスで蕩けるように変化した柿内に目を細める

気付かなかった知らなかった

柿内はキスをしなかったんじゃない。できなかった

唾液が混じり、飲み込みきれなかった唾液が顎を伝う

「っ・・・ユズっ」

キスをしながら自分の雄に触れる柿内の手を上から包み込むと動きに合わせて強く握ったり開いたりを繰り返す

「っん・・・」

漏れる声に色気を感じると柚木は強く雄を握りしめた

「っ!!!痛ぇ!!!クッソ!何すんだよ!」
「キス、していいから手で達くなよ。オレの中で達け。ここ、お前ので埋めて」
「・・・あっ・・・んたってっ!クソっ!」

自分で後孔を拡げて煽るような柚木に悪態をつきながら必死に繋ぎ止めていた理性を飛ばされて柚木の中へ自身を打ち付ける

「っ・・・ふっ」
「あんたの中で達けねぇとかっ・・・バカ言うなよっ」
「ん・・・気持ちいいか?」
「バカ。悦くねぇわけっ」
「口、開きすぎ」

柿内の煩い口を塞ぐようにキスをする

気持ちいい。体も心も蕩けそうな柿内の顔も全部全部気持ちよかった

「ユズ・・・」

柿内が呼ぶ声も耳に届くたびに悦くしてくれる

「も、離すなっ・・・オレをっ・・・離すな」






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青春はプールの中で13-48 - 06/23 Sat

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柚木がシャワーから戻り、夕食に手をつけ始める

「やっぱ柿内の唐揚げ美味いよなー!」
「そうか」
「あ!オレの練習着さー、血付いたやつ!あれ取れるかなー?捨てるしかないかー?」
「あー、どうだろう。っつかそのまま洗濯機入れたのか?」
「いや?一緒に洗濯していいのか判んなかったから脱ぎっぱなしてある」
「・・・取りたいんだったらすぐに水洗いしとけよ・・・ったく」

立ち上がった柿内を引き止める

「別にいい」
「あ?」
「後でやる」
「いや、血っつーのは時間経つと取れねぇんだっつーの!早けりゃ早い程」
「・・・じゃあ捨てるから。取れなかったら諦めるから」
「はぁ?」
「お前とメシ食ってんの!約束してただろ!」

柿内は黙って座ると柚木の顔を真っ直ぐ見つめる
約束。そう。柚木は約束を守ってくれている。だから自分も自分に約束したことを実行するべきだ。と息を吐き出した

「・・・あのさ」
「うん」

柿内がテーブルの携帯を指す

「・・・?」
「セフレ・・・連絡先、全部消してくんね?」
「え?」
「っ・・・だからっ」

柚木は俯いてどうしようか迷いながら顔を上げた

「無理」
「っ!でもっ!あんたっ!・・・あんた、言った・・・だろ」

携帯を差し出す柚木

「ねぇもん」
「あ?」
「セフレ・・・いない」
「でも・・・」
「最初からいない奴、消せるわけないだろ。見てもイイから。お前に何も隠すことなんてないし」

わけが判らない
セフレがいるから出掛ける前に『準備』をして、そして

「あー、柿内、ちょっと来て」

席を立った柚木が柿内の腕を掴むと自室の扉を開く

「オレのセフレ・・・いるとしたらこいつらだな」

ベッドの下から引き出した小箱をベッドの上で逆さまにするとガチャガチャと音を立てて落ちて来るある種のオモチャたち

「・・・え」
「・・・男にモテねぇのはホント。体だけでもだなんて奴もいるわけない」
「待てよ・・・意味判んねぇ!あんたは」
「お前以外の男としたいとか思ったことない・・・ゲイバーに行ったのはホント。男となら上手く行くかもとか思ったのもホント。でもお前だからよかった。柿内だから」
「ぁ・・・っ・・・じゃあっ・・・いねぇのな?っ・・・オレ・・・クソ。考えてた言葉全部飛んだっ!」

柚木は柿内の手を取って柿内を見上げる

「オレは嘘吐いてでもお前が欲しかった。判るか?答え、出たか?オレの望んでた答え、待ってた答え。教えてくれるか?」
「っ・・・あんたが好きだ。ずっと。ずっと・・・付き合って・・・くれんのかよ」
「ふは!言い方っっ!生意気すぎだろそれ!可愛くねぇーーー!」
「だっ・・・あんたが・・・予想外のことばっか・・・」
「うん。ありがと。それを待ってた。期待して待っててよかった」
「っ・・・ユズ」

柚木を抱きしめるとすぐに足技を掛けられてベッドへ押し倒される

「ちょ!」
「待ってたっつっただろ?」
「だからって!っつか背中あんたのセフレ当たって痛ぇ」
「ハハッ!セフレ!そうそう。特にこいつー」
「バカ!見せんな!」
「使うか?」
「はぁ?!」

柚木は満更でもなさそうな柿内の額を指で突くと首を振る

「使わねぇよ。お前のがいい。恋人なんだろ?もう、いいよな?お前だけだ。セフレなんて要らない」







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青春はプールの中で13-47 - 06/22 Fri

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病院へ着くとすぐに新井の姿を探すが見つからなくて受付へ足早に向かう柿内


「すみません、救急で運ばれた柚木 流という」
「カッキー!」
「・・・あ・・・え」

名前を呼ばれて振り返ると新井とムッとした顔の柚木の姿

柿内は柚木の上から下まで見てふらふらと駆け寄ると柚木を抱きしめる

「柿内?」
「無事?本物?」
「何だよ!本物じゃなかったらお化けかゾンビかよ!いや!ゾンビだとしても本物だっつーの!っていうかお前勘違いだから!っていうか勘違いするような電話した瑞樹が悪いんだぞ!」

元気な声にホッとするとここが公共の場だと思い出しすぐに柚木の体を離した

「・・・流ちゃんさー、階段から落ちそうだったオレを庇って代わりに落ちたんだけど、おでこ切ってて結構血が出てたから頭だし周りが驚いて救急車呼んだのね・・・」
「あぁ」

柚木が怪我をしたというのは額に貼られたガーゼと血で汚れた洋服から判ること。でも、ここにいる。立っている。話している
あの時と違う。目を覚まさなくて意識が戻らなかったときとは違う動かない体に嘆いているわけでもない

「で、流ちゃん意識はしっかりしててさ、カッキーに夕飯にちょっと遅れるって連絡しろって言うから電話したんだけど、まぁ、オレも気が動転してたけど、カッキー話終わらないうちに行くとか言うし電話切るし」
「・・・何だよ・・・それ」
「確かに頭は数針縫ったし念のためっつってCTまで撮られたけど結局何ともねぇし帰って飯食えるし」

柿内は大きくため息を漏らす
無事だった。怪我はあるけれど入院することもなく、意識もある

「カッキー車?」
「あぁ」
「じゃあ、オレはここで帰るねー!さっきカズくんに連絡したらカズくん仕事終わってこっち来てくれるみたいだし」
「あー、瑞樹ありがとなー」
「ううん!オレのせいでごめんね?」
「ハハッ!お前ホント気をつけろよー!いっつもフラフラふわふわしてっからー!」

気をつけるべきなのはあんただ。その言葉を必死に飲み込む柿内

どれだけ心配したか判らないのに、そもそも一歩間違えば大ケガだったり命に関わることだったのに何もなかったように笑っている柚木に苛立ってしまう

何もなかったことを喜べばいいのに何もなかったように振る舞う柚木を見ると苛立ってしまう

心配し、慌ててここまで来た自分が無視されたような気になるから







無言で車を運転する柿内に声を掛けられないでいるのは心配させてしまった罪悪感があるから

柿内が心配して急いで病院へ来てくれたのは判っていた。柿内が怪我をした時寿命が縮む思いをしたし、不安だった気持ちをはっきり覚えているから。もし、同じように心配させてしまったのならば今、どうして柿内が怒っているのかも何となく判る
何ともなかったことに安心してくれているのも判る

部屋へ入ると冷めた唐揚げがテーブルの上で2人を出迎えてくれた

「・・・腹、減ったな」
「あぁ」
「じゃあシャワー浴びて着替えてくる」
「温め直しておくから」
「おう」

柚木がバスルームへ向かうとすぐにテーブルの上の携帯が鳴る

「あぁ、柚木さんのか」

視線を携帯へ動かすとディスプレイに表示されたメッセージの一部が見えて見るつもりはなかったのにと罪悪感を感じると共にその内容が頭から離れなくなる

『忘年会盛り上がってる!今度2人で飲もうな!んで、その後こないだみたいに頼むー!柚木のアレが』

その続きは何だろう。見たい?知りたい?いや、見たくない。知りたくない

前を向くのだ。ひとりモヤモヤと悩むのはもう辞めにする

決心すると柚木が事故に遭うだなんて弱気になった心を再び決心し、事故に遭わせるより今すぐこの決意を柚木に打ち明ければ問題ない。と奮い立たせた








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青春はプールの中で13-46 - 06/21 Thu

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アラームの音が柿内の部屋に鳴り響く

重い体を起こしてアラームを止めると昼過ぎを指した時計に背伸びをして無理やり体と頭を起こした

仕事としてキツい1週間だった。周りにはそこまで追い込まなくても。そう言われ、柿内もここまで無理をしなくてもいいと判ってはいたけれど少しでも予定より進ませておかなければ今日の予定が崩れる不安で無理矢理進めた1週間。予定よりだいぶ進んだことでこの週末は崩れることなくゆっくりと過ごせる。もしかしたら柚木の誕生日にだって休みを取ってもいいくらいの進捗

いや、そんなことよりまずは今日の予定だ。柚木と久々に過ごせる日。柚木は朝早くに出掛けたけれど、夕方には戻ってきて一緒に食事をするのだ

着替えて買い物に行き、充分に埋めた冷蔵庫に頷くとキッチンへ立つ

こうしてゆっくりキッチンへ立つことすら久々な気がする
料理は嫌いじゃない。どう作れば美味しくなる。その法則が曖昧なのがイイ。そして、ちょっとの違いで変化していくのが楽しい。柚木が喜ぶ姿を見たい



柚木の好きな唐揚げを作りながらこれはちゃんと柚木の好きな味になっているのか首を傾げた

今まで何度も何度も作ってきて毎回喜んでくれていたものなのに今になって自信がないのはこれから柚木に告げることへの不安のせい

柿内はため息を吐きながら時計を見上げ、予定ではもう帰ってきているはずの時間に揚げたての唐揚げをテーブルに並べ、冷蔵庫から作っておいたサラダを出す

あとは炊いたご飯や味噌汁を並べるくらい。特別とは言い難い食卓にため息を吐く

「あーやべぇ心臓痛ぇ・・・」

緊張する。準備した。柚木のためへの食事と心の準備。全部できていてあとはもうじき戻ってくるだろう柚木を待つだけ

ピリリリ・・・

携帯が鳴って柿内は柚木から帰る連絡か、それともまだもう少し遅くなる連絡なのかと手に取って着信相手が柚木じゃないのを確認するとひとつ唾を飲み込み電話に出た

「もしもし・・・」

胸騒ぎがする

あの時と同じ・・・相手が球じゃないけれど、予定よりまだ少し遅くなっているだけれど、言いようのない胸騒ぎ

『カッキー?!流ちゃんがっ!流ちゃんがっ!』
「っ・・・」

心臓が止まりそうだった。あの時と同じ。焦ったような新井の声があの時の球の声と重なる

『ごめっ・・・オレを庇ってっ!流ちゃんっ!』
「・・・病院・・・どこ」
『ぇ・・・あ、××って救急病院っていっても』
「行くから・・・すぐっ行くから!」
『え、あ!カッキー?!』

電話を切ると鍵と財布を掴んで部屋を出る

あの時も決心してずっと前から準備を進めていた。伝えたいことがあって、やっと柚木に告げる決心ができて・・・でも、あの事故で全てが変わった。伝えることができなくてそれどころか別れることになって

車に乗り込むと言われた病院へと急ぐ。赤信号で止まる度に気持ちが逸る

無事でいてくれればそれでいい。命さえあればそれでいい。そう祈りながらもまた伝えられなくなるのではないかと余計な心配も心に浮かび、その度に頭を振ってそれを打ち消そうとした

「クソ・・・何でだよ!」

誰に向けてでもない悪態

決心をするまでに時間がかかっていた。あの時も今も

もっと早くに伝えておけばよかっただなんて後悔はもうしたくない。2度と失いたくない

その気持ちと同時に告げるという事が悲劇を呼ぶような気もしてきて告げない方が、決心なんてしないほうがいい。そう思えてくる

「・・・」

決心したからあんな事が起きた?

今回も決心したから・・・?

じゃあ、お互い何もなかったように過ごした方が平穏で安定した日々だったんじゃないのだろうか









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