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青春はプールの中で8-19 - 04/15 Fri

trackback (-) | comment (0) | 青春はプールの中で
お参りをして、柚木は顔を上げると今まで隣で手を繋いでいた桐井と栗山の姿がないことに気付いて辺りを見回す。しかし、自分の視界からは見えなくて「あぁ、やっぱりはぐれたか」と苦笑しながらその場を後にする

「こっち」

そしてすぐに掴まれた腕に顔を上げると見慣れた顔・・・

「なんだ、お前はいたんだ」
「まぁ、ずっといたけどな」

柿内は桐井たちのように素直に手を繋ぐのが恥ずかしくて柚木の手をポケットへと誘導する

「・・・マジかー」

そのほうが恥ずかしくて柚木は笑いながら耳を赤くした柿内を見上げていた




「あー!来たー!わざとはぐれただろー!お前らぁー!」
「っつかさぁ・・・キリちゃんも栗山も勝手にどっか行っただけだろー!」
「柚木先輩心細かったよねぇ?いやぁ、可哀想ー!」
「・・・オレがいただろ。オレが」

柿内のポケットの中にあった柚木の手は2人を見つけるとすぐに柿内によって外に出される。別に桐井と栗山にくらい見られてもイイのに・・・そう思ったけれど何も言わずに柚木は急に冷たくなった手を振った


「なぁ、昼飯ファーストフードくらいは開いてんじゃん?食ってくー?」
「食うよー!」
「あ、オレは実家・・・行ってくるから」
「え!柿内くん来ないの?」

栗山が驚いた声を上げて、柚木は少しだけ胸がちくりと痛む。嫉妬。これは嫉妬だ・・・そう気付いたけれどいつものように堂々と笑った

「んじゃー、柚木先輩を心置きなく独占ーっ!」
「いや、栗山、ユズはオレのだから」
「ダメー!オレのー!」
「ユズー!傷心のオレを慰めて癒してくれるよなぁ?なぁ?」
「キリちゃん、慰めるからバーガー奢って」
「え!・・・えー・・・えぇぇぇぇぇーーーー」
「柚木先輩っ!オレ、少しだけなら奢りますよー?あぁ、なんて凛々しいー!」

2人に連れられて笑顔の柚木を見送ると柿内は柚木の実家へと一旦向かって用意しておいたおせちを手にすると自分の実家・・・ではなく、祖父母の自宅兼、医院へと足を向けた





「あけましておめでとうございます」
「・・・紀行・・・」

顔を出した柿内に家族はただ驚いただけ。久し振りだとか会いたかっただなんて声を掛ける者はいない。ただ、少しだけ手を挙げて挨拶しただけ

「あ、これ、おせち・・・よかったら」

差し出した重箱を受け取ると母がそれを開けてため息を漏らす

「何これ」
「えっと・・・作ったから」
「え?」
「いや、だから」
「あんた、大学に何しに行ってんの?家から出したらこんなことに時間使って・・・もっと他にできることがあるんじゃないの?成績はどうなの?っていうか今からでも勉強しなおして医大に行ったら・・・」

柿内は奥歯を噛みしめると母の手に渡った重箱を奪い返す

「もう・・・いいや・・・顔見せに寄っただけだし・・・じゃあな。お元気で・・・」

そう言って母たちに背を向ける

廊下で父とぶつかって「紀行?」とまた驚かれる

「・・・お金・・・ありがとう」
「あぁ・・・もう帰るのか?」
「ん・・・こっち来たの間違いだった」

柿内が手にした重箱を見て父が柿内の腕を握る

「それ、おせち料理か?重箱?」
「ん・・・じゃあな・・・」
「いや、待てって・・・あーーーーっ!もうっ!」

父のポケットのPHSが鳴って父がそれに素早く応対した後、靴を履く柿内の肩を叩く

「今から赤ん坊取り上げたら家帰るからっ!待ってろ!な?久し振りだしイイだろう?」
「・・・」
「待ってろよ?な!待ってろ!!!」



嵐のように走り去っていった父の言う通り柿内は実家へと向かう。実家・・・ほとんど使われていないその家を実家と呼んでいいのかは判らない。でも、柿内にとっての実家はそこしかない。今行った場所にはいい思い出なんてひとつもない。だから一瞬でもいい思い出があるあの家が柿内にとっての実家・・・





家へ着くと重箱をテーブルに置いて自室のベッドへと寝転がる

「・・・」

初めて作ったおせち料理は柚木の家では褒められたものばかり。だから少しは喜んでもらえると思ったのに・・・確かに、毎年食べるおせち料理と言えばどこかの料亭で買った高級なもので、自分が作ったものなんてみすぼらしいような気もするけれど。それでも・・・それでも・・・
ひとりになって思い出すと悔しくて虚しくて何故持って行こうだなんて思ったのだと後悔してしまう







「紀行」

そう呼ばれて飛び起きる

「おお、驚かせたか。悪い」
「いや・・・」

柿内は時計を見てずいぶん眠っていたのだと背伸びをする

「あれ、食っていいのか?」
「どうぞ」
「おおー・・・手作りのおせちなんていつぶりだろうなぁ・・・」

皿を出してきた父に柿内はキッチンに立ってお茶を淹れる

「旨い・・・紀行が全部?」
「ムリしなくてイイ」
「いや、信じろよ・・・紀行、学校はどうだ」
「まぁ、それなりに・・・」
「そうか・・・まぁ、楽しくやってるならそれでいい・・・あと、水泳はまだやってるのか?お金は足りてるか?」

父はこんなに話してくる人だったか・・・それすらもよく覚えていないけれど、とにかく柿内は慣れていないからぎこちなく返事をするだけ

「母さんもお前の手料理、一度食ってみればいいのにな・・・」
「父さんだって大して食ったことねぇだろ」
「うん?いや、オレはこっち帰って来た時に冷蔵庫にあったやつとか食ってたぞ」

食べていたのは姉で、その残りを弁当に詰めて「私が作ったのー」なんてやっているのだと思っていたのに予想外の答えに驚いた

「それが、こんなにまた腕を上げるなんて・・・やっぱり相当イイルームメイトなんだな」

ニコニコと口へ箸を運ぶ父を見て心苦しくなる。ただのルームメイトじゃない・・・本当は恋人。でも柚木は男で・・・恥ずかしいから隠したい・・・のではなく、父を傷つけたくないから隠したい

「紀行、母さんもな・・・悪気があるわけじゃないんだ。もちろん、お前のことが嫌いなわけでもない。ただ、医者になってあの医院にいることだけが幸せだと思ってるところはあるけれど」
「・・・それはオレにはどうしようもない・・・」
「あぁ、判ってる。お前はお前の思う道を進むのが1番だ。でも後悔しないようにな・・・」

優しく笑った父はそっと柿内の頭を撫でる
いつの間にか自分よりも大きくなった子ども。けれどどれだけ大きくなってもやっぱり自分の息子

「お前が高校2年の時・・・か。インターハイ予選。見に行ったんだ」
「・・・は?!」

聞いたことのなかったことに目を丸くする柿内

「昔、見た時とは全然違って堂々として成長したお前に驚いた・・・チームメイトと笑いあうお前を見て紀行は居場所を水泳で見つけたんだなぁ・・・なんて思ったりもしたよ」

見られていたのかと恥ずかしくて申し訳なくなって柿内は下を向くとまた父に頭を撫でられる

「父さんは心配したんだ。中学の時にスイミングも辞めたし、1度しかない高校時代をどう過ごすんだろう・・・とか。でも、やっぱり水泳部に入って、あんなにいい笑顔で笑いあえる仲間を見つけて・・・こんな料理までできるようになって・・・」
「全部・・・今はルームメイトの先輩のおかげ・・・柚木さんのおかげ。諦めてた水泳も全部柚木さんのおかげ」
「そう・・・か・・・そんな先輩に出逢えてよかったな」

そう微笑んだ父にそれが恋人だと告げることができなくて胸が少し苦しくなったが、今はこれでいいのだと自分に言い聞かせる。嬉しいから。父とこんなにも話せて、無関心かと思っていたのに実はちゃんと自分を見ていてくれたことに・・・父が味方だということに・・・
気付くと重箱はほとんど空になっていて、柿内はそれもまた嬉しくなった








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ポケットにつないだ手を入れるとか柿内恥ずかしいことをっ!!!!!

明日青春はプールの中で4年目冬 最終話になります
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