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青春はプールの中で11-7 - 01/22 Mon

trackback (-) | comment (0) | 青春はプールの中で
柚木が退院して部屋に増えたものがいくつかあった



車椅子、杖、薬。柚木の新しく必要になったもの。そしてタバコと酒・・・

「臭ぇ・・・」

柿内は部屋に入ってそう悪態を吐き捨てる。酒は前もたまには飲んでいたけれどそれは本当にクリスマスや誕生日といった特別な日だけ。飲めないわけではなかったけれど特別を祝うための儀式的なものだけで普段は特に必要としてなかったもの

タバコは柚木も前は嫌がったのに退院し、しばらくすると突然吸い出した。アスリートを止めたと宣言するようで柿内は部屋でタバコの香りがする度に気持ちが苦しくなる

「おかえり」
「ん・・・」
「今日のメシ何?」
「もやし炒めと豚肉安かったからトンカツ」
「おー!いーねー!」
「それ、消せよ。似合わねぇもん吸ってんじゃねぇ」

柚木は指に挟んだ火の点いたタバコを咥える

「ほっとけ」
「・・・」

身体にまとわりつくような臭いが柿内を苛立たせる。柚木の喫煙に驚いたのは柿内だけじゃない。この部屋にやってきた新井や但馬も驚いたけれど泳げない柚木の苦しみから一時的なものだと笑っただけだった

「・・・」

柿内も泳げなくなった柚木の苦しさは理解しているつもり。もう戻る気がない。口でそう言っていてもいつかは戻ると思っていたのにこの臭いがそれを否定するようでただ苦しんでいた
もちろん、タバコだけでそう感じるのはおかしいのかもしれない。でも、柚木のいつも論じているアスリート論ではタバコは禁忌だったから

「なぁ」
「んー?」

顔を上げた柚木を見て「いや、なんでもない」と言葉を濁す柿内

「なんだよ」

タバコを灰皿に押し付けると杖を使ってキッチンへとやってくる柚木

「・・・油、危ねぇから」
「何?」
「・・・足とか、どう・・・なの」
「はぁ?」
「いや、だからっ・・・っ・・・痛みとか!そろそろあんたに触っていいのかっつーか」
「え?」

柚木が目を大きく開ける

それは驚いて。柿内から言われると思わなかった言葉だから

「え・・・ってなんだよ。嫌ならイイっつーの。忘れろ」
「や、イヤっつーか・・・お前、まだオレとしたいの?」
「は?」

恋人に触れたいと思うのは普通ではないのか。それとも、もう柚木は自分を恋人と思ってないのかと眉を顰めた

「あ・・・だって、オレもうお前の好きっつってたオレじゃないし、体だってこんなだし・・・や、でもそうか。柿内、ガリってるのが好きなんだよな。よし。イイよ!こんな体でお前満足できるならヤろう!」
「・・・ふざけんなよ」
「あ?」
「オレの好きを勝手に決めんな!あんたの体目当てとか言われんの腹立つ。もういい。あんたが嫌なら忘れろって言ってんだろ。無理にしてぇとかじゃねぇっつーの!メシ作ってるから座ってろ」

柿内が柚木から目を反らす様にキッチンでの作業を進め出して柚木も目を伏せると先程までいたソファに戻る

柿内は罪悪感でずっと傍にいるのだと思っていた。走り回って、みんなから頼りにされる、泳ぐのに真剣な自分が好きでもうどれも出来ない自分がまだ柿内に想われていて、そういう対象になっているなんて思っていなくて・・・

柚木は机の上を片付けるとキッチンに立つ柿内を見つめる

好かれているのか。こんな自分でも・・・そう思うとじわじわ胸が熱くなる気がした。柚木だって気持ちがないわけじゃない。もう嫌われてしまえばいい。そう思っていてもずっと嫌な顔もしないで付き合ってくれる柿内のことが好きなのだから





柿内が作った夕食が湯気を立てて並ぶ。柿内も座って手を合わせると無言の夕食が始まった

「・・・柿内」
「あ?あー、ソースもっといる?」

差し出したソースを首を振って拒否すると立ち上がって柿内の隣へ座る

「なんだよ」
「・・・したいのか?」
「・・・忘れろって言った」
「違ぇよ。聞いてんの」

柚木の見上げてくる瞳が熱を持った様な熱い視線で柿内は目を反らす

「その顔、勘違いしそうだから」
「勘違いじゃない」
「・・・オレ、あんたのこと同情とかしてねぇから。好きになるきっかけと今好きな気持ちはまた別でもうあんたのどこが好きとか上手く言えねぇけど好きで一緒にいんだよ」
「柿内」
「メシ、冷めるぞ」
「食うよ。でもお前の隣がいい。お前の体温感じたままがいい」
「っ・・・煽るの上手いよな。相変わらず」

柿内は箸を置くと柚木の脇に腕を入れて支えながら立ち上がりソファへと座らせて自分も隣へ腰を下ろす

「柿内」
「ん?」
「オレがこうやって甘えるとお前なんかいつも以上に優しく甘くなる」
「うっせぇ!好きな奴に甘えられて嬉しいに決まってんだろ」
「ん・・・好きなんだな」
「・・・好きだ」

そこからは相変わらず無言の食卓になったけれど先程とは空気が全く違うものになったのを2人とも感じていた







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最近の友人との会話の大半がアンチエイジングだっていうのを見返してみてため息を吐いたのは私です
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