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青春はプールの中で12-56 - 04/23 Mon

trackback (-) | comment (0) | 青春はプールの中で
魅力ある仕事を見せられた後、柿内は毎日が単調だと感じるようになっていた

確かに仕事はしているけれど充実している栗山とは違う自分がどこか虚しくなってしまう

「はぁ」

平日帰宅すると趣味もないしテレビも面白く感じないひとりの部屋は料理する以外に特にすることはない

机に置いたダイレクトメールだとかチラシの束に混じった請求書でもないかとチェックすると何の変哲も無い白い封筒に手を止める
手書きの宛名。なんだと裏を見ると「あ」と思わず漏れる声

柚木 流

という文字に目を閉じて大きく深呼吸した後に封筒を開ける
柿内が送った保存食を食べたのならメールで済ませばいいのにわざわざ手紙で送り返してくるところは柚木らしいと言うべきなのかもしれない

『わざわざ送ってくれてありがとう

美味かった』

たったそれだけ。メールの方が簡単で安価なのに。本当に柚木らしくて柿内は頭を抱える

柚木が好きだった

大好きだった

今だって会いたいなんて言われたら友達だけれど、遠距離だけれどすぐに駆けつけたくなるだろう
こんなに引き摺るならばあの時身を引かなければよかったのだ。今は栗山がいるからだなんて言い訳にすぎない

ここへ来たのは、決めたのは全部柿内自身

「・・・次は何送るかな」

1人で何もすることのない寂しい部屋だなんて考えは吹き飛んだ
柚木へ送る分と栗山の分。それを空いた時間に作ることができるのだから仕事内容が虚しいだなんて嘆いている暇はない

仕事があって休みもあって自由な時間も豊富にある。給料もいい今のこの状況を喜ぶべきなのだと柿内はひとり小さく頷いて包丁を握った




柚木へのクール便が定期的なものになった頃、いつものように出社すると周りの目に違和感を感じた柿内

「柿内くん、ちょっと」

普段顔を合わせることもない人事部の部長から声を掛けられてなんだと思いながら席を立つ

通された会議室で出された画面

「・・・」

以前、誰かが撮ったらしい春川とタクシーに乗り込む姿。これが春川と噂になっている原因なのは佐藤からも聞いていること

「どういうことか、だなんて野暮なことは聞かない。社内恋愛については私たちは何も言うつもりはないからね。イイ大人なのだし」
「は?」
「だが、同じ部署。上司と部下だ。キミがいくら成果を上げてもそれは恋仲だという欲目が入らないわけがない」
「いや、オレは」
「だから、キミには少しの間出向という形で」
「待っ・・・てください。春川部長とはオレホントに何もない」

人事部の部長はニコニコと微笑みながら首を振り、写真を変える

「こういうものが出回っていてはね」
「・・・」

春川が泣いているのを慰める為、迷った手を春川の肩に乗せたのは事実。けれど、それは家族を思い出しながら涙を流す春川を元気付ける為で、同情したからでそれ以上でもそれ以下でもなんでもない

「春川くんもね、キミと同じように否定した。だがね、事実でも事実じゃなくてもこういったことはね」
「・・・もういい」
「うん?」
「・・・めんどくせぇ・・・クソ。辞表出しますから」
「そうか」

引き止めることもなく頷いた人事部長に柿内はため息を吐くと立ち上がる
仕事に大きな魅力も達成感も感じられなくなった所だった。それでも給料の良さと自由な時間があるからと甘えていた日々。でも、それもこんな噂を広められて誰かが自分を貶めるようなことをする場所にしがみついてまでいたくなかった

栗山のことを考えたら、今後のことを考えたら、確かに不安はある。でも、それ以上に柿内は怒りを感じていたし、ここに居たくない。そう思ってしまった

勤め先を聞かれれば、皆に憧れられたこの会社。でも、実際は下らない。実に下らないと柿内は苦笑する

「辞表書き次第提出していなくなるんで」
「そうか」
「失礼します」

引き止められないということはその程度だったのだ。柿内がいなくなった所で何も感じない会社。厄介者が自ら去ってくれる。その程度。悔しい。自分はその程度だということが悔しかった








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最終章中幕ラストスパートーーー!!!なところへやってきましたよ。えぇ。えぇっ!!

柿内は字が汚いと思う。柚木も特別きれいではないけれどきっと見やすい字を書くと思う(どうでもいい設定)
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